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第二章 激情の通り雨

ごめんね…

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×××


暗い部屋の中、携帯を開く。
バックライトが点き、無表情な僕の顔を蒼白く照らす。


……樹さん……

どうしよう。
僕、また今井くんを怒らせちゃった……


通知がないまま……ずっと覗く事の無かった、ゲイ専用の出会い系サイト。
そっと、親指でタップする。

最初に表示されたのは、キャップのツバを下げ、目元の隠れた顔写真。
この帽子は、大空が持っていたもので。
確か、五月の連休明け──大遅刻をした大空が、休み時間になって廊下に出た僕を見つけるなり、被っていたキャップを外して僕に被せ……

『……お前、ホントちっせーな!』

そのキャップが少し大きくて。
……大空の匂いと温もりも感じ……恥ずかしくなって、俯く。


……その姿が可愛いからって、大空に撮られた写真だっけ……
懐かしさが込み上げ、胸の中がじんわりと痺れて温かくなるのに……ちくちくと痛い。

何件かメッセージが入っているものの、全てマッチング希望のもので。
……樹さんからは、やっぱり何も来ていない。

「……」

それらを開いて削除しながら、ふと気付く。
まだ開けていない筈のメッセージが、既読になっている事に。

胸の中がざわつき、落ち着かない。
受け取った日時を見れば……今日の午後。


「──!」


……まさか。
真っ先に脳裏を過ったのは、僕の携帯を弄る、今井の姿。


瞬間──サッと血の気が引く。
指先の感覚が失われていくのに、心臓だけが、やけにドクドクと暴れまわる。

「……」

サイトからの通知音を、着信音だと勘違いして……それで、拾って……

……でも、あの時は出掛けようって言って……僕を責めたりしなかった。
外に出て、友達と会ってから……急に冷たくなったけど……


『そんなに兄貴がいいのか!?』──あの時の言葉の意味は、何となく解る。
今井くんのお兄さんとの距離が近かったし。僕が、誰とでも関係を持つと思われたのなら……余計にそう、誤解したかも。

……それに。
今井くんの前で、僕は「うん」しか言ってなかった気がする。
何か、怖くて。
見た目も、雰囲気も。怖くて。
何か言ったら、また乱暴にされるんじゃないかって……

……だから……
見透かされていたのかもしれない。
もしかしたら、最初から。

僕が、今井くんを……好きじゃないって……


「……」

ごめんね……今井くん……

溜め息をつき、携帯の画面を切る。
暗くなった部屋の中、布団の上で膝を抱える。


ピルルル……

手中にある携帯が鳴り、顔を上げる。
見れば、画面に表示されていたのは……『今井くん』の文字とメッセージ。


《話がある》


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