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1rd
夢×残骸
しおりを挟む夢を見た……筈だった。
ハァッ、と大きく息を吐く。
額にはうっすらと汗が滲み、重たい瞼を何とか持ち上げる。
まただ……
微睡みの中で見た夢の残像が、掴んだ指の間からサラサラと滑り落ちて消えていく。
一体いつからだろう。
夢を見なくなったのは──
焦燥感に駆られ、視線が中々定まらない。ゆっくりと瞬きをし辺りを見回せば、目に映るのは無機質な壁ばかりで。まるで何の旨味もない、灰色の空気が漂っているかのようだ。
ズキンと頭が痛み、片手で額を覆う。
息をする度に感じる、喉の異物感。
ベッドを抜け出し、コップに注いだ水道水を飲む。
幾らかマシになったものの、ヒリついた喉を癒す程ではなかった。
再びベッドに腰を下ろし、深い溜息をつく。
俺は昔から、良く夢を見る方だった。
それは、俺にとっての理想郷で。現実では到底不可能な事が成し得る、まさに夢のような世界だった。
「……」
足元で光る、小さな欠片。
拾い上げてみれば、パズルのような形をしていて。この部屋ではない何処かを映し出していた。
衝動に駆られ、いそいでベッドから下りると、両腕を使って全てを掻き集める。
ピースを繫ぎ合わせる度に鼻を掠める、微かな森の匂い。
……これ、は……
所々抜けているが、緑が生い茂る深い森の奥で、アルミシートを身体に巻き付け震えている男の姿が見えた。
目を凝らし、男の顔を見た瞬間──心臓が凍り付く。
それは紛れもなく、“俺”だった。
頬は痩せこけ、髭も濃くなり、今にも死にそうな顔をしている。
……嘘だ……
その瞬間、眩い光が放つ。
グンッと強い力で引っ張られ、咄嗟に付いた両手で床を押し返しながら、必死で抵抗する。
嘘だ、嘘だ、嘘だ──……
頭が飲み込まれ、首が伸び、色鮮やかな木々の緑と澄んだ匂いが脳幹を貫く。
少し離れた木の枝には、SOSを示す赤い旗──
……そうか……
俺は夢を見なくなったんじゃない。
長い長い、夢をみていたんだ──
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