5 / 49
1rd
雨宿り×嘘 1
しおりを挟む先輩は、嘘つきだ。
それに気付けず、踏み込めかなかった僕は──臆病者の馬鹿だ。
*
集団の中心から少し外れた位置で、いつも物静かに微笑む先輩。
サラサラとした長い髪が綺麗で。時折見せる細めた瞳が儚げで。
委員会で彼女を見掛ける度に、目が離せなくなっていた。
「そういえば、聞いた?」
「聞いた聞いた!」
集団から少し離れた女子三人組が、僕の近くでひそひそ話を始める。
「藤先輩、委員長と付き合ってるらしいよ」
その言葉が、やけに大きく鼓膜を打つ。
先輩を見れば、集団の中心にいる委員長を見上げ、優しく微笑んでいた。
サァァ──……
別に、先輩とどうこうなりたい訳じゃなかった。僕はただ、遠くから見ているだけでよかった。
なのに──
心の中にある淡い炎が、ふと消えてしまったような気がする。
しんと静まり返る教室内。
次第に強くなっていく雨音。
冷たい机に伏せたまま、もうずっと動けずにいた。
思えば僕は……孤独だった。
友達から手痛い裏切りを受けてから、他人に心を開けずにいた。
そんな僕によく似た陰りを見たのが──先輩だった。
脳裏に浮かぶ、憂いを帯びた先輩の横顔。
ガラッ──
突然ドアの開く音がし、反射的に顔を上げる。
入ってきたのは──藤先輩。
しっとりとした長い髪。毛先から滴る水滴。紺色のベストが深く濡れ染み、肌に張り付いた白いブラウスが、うっすらと素肌を浮かび上がらせている。
「……っ、!」
心臓が跳ね上がり、咄嗟に視線を逸らす。
しかし、その残像に違和感を感じ、怖ず怖ずと先輩を盗み見る。
肩の付け根から数センチ下。二の腕の前辺りに、青痣のような痕が──
「……これ?」
不意に足を止め、僕の視線を辿った先輩が二の腕の痣に触れる。
「これは、……彼が付けたの」
虚ろ気な瞳を伏せ、静かに彼女が口を開く。
「私をもっと、愛したいからって……」
そう言った彼女が、含んだように口角を持ち上げる。
濡れた横髪の束。それが僅かに俯いた頬に張り付き、彼女の代わりに涙を流す。
「……彼、って……」
言いかけて、止める。
聞いた所で……僕にはどうする事もできない。
「……」
虚ろ気な瞳を上げ、真っ直ぐ僕を見つめる彼女。踏み込んで来ない僕を、責めるかのように。
「他にもあるの」
深紅の細いリボンを抓み、引っ張って解く。
「えっ、ちょ……!」
予想外の展開に、慌てふためく。
そんな僕など気に止めず、胸元のボタンを外す。
「──見て」
開けたブラウス。
足元に落ちた、制服のスカート。
二の腕、肩、鎖骨、太腿──ありとあらゆる所に散りばめられたマーキング。打撲傷。拘束痕。
それらは明らかに度を超えていて。その異常性に悪寒が走る。
「……おかしいよ、こんなの」
「どうして?」
「……」
何の疑問を持たない先輩の言葉に、胸の奥が締め付けられる。
「だって──、」
次に続く言葉が中々出ず、口を閉ざせば、二の腕を掴んで目を伏せた彼女が寂しそうに微笑む。
「……これが無ければ、私は愛して貰えないから──」
5
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友達の肩書き
菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。
私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。
どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。
「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」
近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。
同窓会~あの日の恋をもう一度~
小田恒子
恋愛
短大を卒業して地元の税理事務所に勤める25歳の西田結衣。
結衣はある事がきっかけで、中学時代の友人と連絡を絶っていた。
そんなある日、唯一連絡を取り合っている由美から、卒業十周年記念の同窓会があると連絡があり、全員強制参加を言い渡される。
指定された日に会場である中学校へ行くと…。
*作品途中で過去の回想が入りますので現在→中学時代等、時系列がバラバラになります。
今回の作品には章にいつの話かは記載しておりません。
ご理解の程宜しくお願いします。
表紙絵は以前、まるぶち銀河様に描いて頂いたものです。
(エブリスタで以前公開していた作品の表紙絵として頂いた物を使わせて頂いております)
こちらの絵の著作権はまるぶち銀河様にある為、無断転載は固くお断りします。
*この作品は大山あかね名義で公開していた物です。
連載開始日 2019/10/15
本編完結日 2019/10/31
番外編完結日 2019/11/04
ベリーズカフェでも同時公開
その後 公開日2020/06/04
完結日 2020/06/15
*ベリーズカフェはR18仕様ではありません。
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる