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8rd
名刺×正方形 1
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ここは、とある動物園。
「……ご、ごめんっ!」
うさぎの頭を外した着ぐるみの青年が、汗だくのまま氷山に謝る。
「修理代、弁償します」
「……」
従業員用の休憩室で、両手を合わせて頭を下げる青年。
「……まぁ、直してくれるなら」
仕方ないとばかりに溢し、腕組みをする氷山。
湿った髪をタオルで拭きながら、青年が鍵付きのロッカーを開ける。そこから取り出したトートバックに手を突っ込み、財布を掴み出す。
「……はぁ、バイト代が……」
溜息交じりに嘆く青年に、氷山の瞳が僅かに動く。
「連絡先、教えて」
氷山の台詞に、驚いた青年が顔を上げる。
「幾らになるか、先に店で聞いてみるから。……それからでいいよ」
「……」
「ほら、連絡先」
肩掛けの細いベルトにぶら下がるスマホを手にし、青年の反応を待つ。
連絡先と言われ、財布から名刺を取り出そうとした青年が、彼女の持っているものに気付き、財布を仕舞ってスマホを出す。
「LINEでいい?」
「うん」
QRコードを差し出され、割れたスマホをかざす。
登録画面に移ると、青年のアイコンを見た氷山の目が、大きく見開かれる。
「これ、……あなたが撮ったの?」
そこに映し出されていたのは──ハシビロコウ。
「うん。……って、よくわかったね。
珍しく綺麗に撮れたから、フリー素材に間違えられるんだよね」
「……」
その画面を食い入るように見つめる氷山。
それまで一貫して冷たかったその瞳には、真っ直ぐで情熱的な光が宿り、キラキラと輝く。
ナマケモノを見つめる、たけるのように。
「だってこれ、コウくんじゃんっ!」
「……え?」
「めっちゃ羨ましい! コウくんをこんなに綺麗に撮れるなんて!」
「……」
その褒め言葉に照れたのか。氷山から視線を外した青年が、再びタオルで髪や顔を拭う。
「ハシビロコウって、なかなか動かない鳥なのに。コウくんって案外動くんだよね。
だから、顔の向きとか足の位置とか。ちゃんと決まるまで、ずっとこっちも動かないで待ってるのに。ちょっと動いて、やっっっと気に入る形に決まったと思ったら、もう、ほんと一瞬。凄い動いて、せっかくのいいポーズ崩しちゃうの!」
「……」
突然の推しトークの熱量に動きを止めた青年が、目を丸くしたまま氷山を見る。
「……って、ごめん」
「あ、いや。ちょっと驚いたけど、わかるよ。俺もハシビロコウ好きで、学生の頃、よく一人で写真撮りに来てたから」
「……」
「でも、大学の奨学金ってあるじゃない。それ返すのにいま必死で。持ってたカメラ、売ったんだよね」
「……」
優しげに目を細めた青年から、哀愁が微かに漂う。
「……ご、ごめんっ!」
うさぎの頭を外した着ぐるみの青年が、汗だくのまま氷山に謝る。
「修理代、弁償します」
「……」
従業員用の休憩室で、両手を合わせて頭を下げる青年。
「……まぁ、直してくれるなら」
仕方ないとばかりに溢し、腕組みをする氷山。
湿った髪をタオルで拭きながら、青年が鍵付きのロッカーを開ける。そこから取り出したトートバックに手を突っ込み、財布を掴み出す。
「……はぁ、バイト代が……」
溜息交じりに嘆く青年に、氷山の瞳が僅かに動く。
「連絡先、教えて」
氷山の台詞に、驚いた青年が顔を上げる。
「幾らになるか、先に店で聞いてみるから。……それからでいいよ」
「……」
「ほら、連絡先」
肩掛けの細いベルトにぶら下がるスマホを手にし、青年の反応を待つ。
連絡先と言われ、財布から名刺を取り出そうとした青年が、彼女の持っているものに気付き、財布を仕舞ってスマホを出す。
「LINEでいい?」
「うん」
QRコードを差し出され、割れたスマホをかざす。
登録画面に移ると、青年のアイコンを見た氷山の目が、大きく見開かれる。
「これ、……あなたが撮ったの?」
そこに映し出されていたのは──ハシビロコウ。
「うん。……って、よくわかったね。
珍しく綺麗に撮れたから、フリー素材に間違えられるんだよね」
「……」
その画面を食い入るように見つめる氷山。
それまで一貫して冷たかったその瞳には、真っ直ぐで情熱的な光が宿り、キラキラと輝く。
ナマケモノを見つめる、たけるのように。
「だってこれ、コウくんじゃんっ!」
「……え?」
「めっちゃ羨ましい! コウくんをこんなに綺麗に撮れるなんて!」
「……」
その褒め言葉に照れたのか。氷山から視線を外した青年が、再びタオルで髪や顔を拭う。
「ハシビロコウって、なかなか動かない鳥なのに。コウくんって案外動くんだよね。
だから、顔の向きとか足の位置とか。ちゃんと決まるまで、ずっとこっちも動かないで待ってるのに。ちょっと動いて、やっっっと気に入る形に決まったと思ったら、もう、ほんと一瞬。凄い動いて、せっかくのいいポーズ崩しちゃうの!」
「……」
突然の推しトークの熱量に動きを止めた青年が、目を丸くしたまま氷山を見る。
「……って、ごめん」
「あ、いや。ちょっと驚いたけど、わかるよ。俺もハシビロコウ好きで、学生の頃、よく一人で写真撮りに来てたから」
「……」
「でも、大学の奨学金ってあるじゃない。それ返すのにいま必死で。持ってたカメラ、売ったんだよね」
「……」
優しげに目を細めた青年から、哀愁が微かに漂う。
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