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五十嵐編
291.
しおりを挟む「……ハハ、最高だねぇ。
最愛のオトコを殺されたオンナが、その殺人犯にヤられる光景、……なんてね」
その声に反応し、五十嵐が黒目だけを動かして八雲を盗み見る。
「ああ、あれも最高に面白かったなぁ……
元カレに殴られながら、犯される音声を聞いた時も。
菊地──いや、その元カレの父親とヤりまくる音声を聞いた時もね」
ビクンッ
八雲の台詞に五十嵐の腰の動きが止まり、大きく息が漏れる。
「………もと、かれ……」
小さく呟いた唇がキュッと引き結び、眉間に皺を寄せ、黒目が元の位置に戻る。
「……元彼、が……!?」
僕を見下ろす、鋭い双眸。
熱情を帯びながらも、先程よりも強い憤りと憂いを孕み……
「……っ、!」
瞳を揺らし、苦しそうに言葉を溢した唇が、性急に僕の唇を塞ぐ。
憤りと嫉妬とを織り混ぜた舌が強引に捩じ込まれ、執拗に歯列と顎裏を貪り──奥に逃げた僕の舌を追い掛ける。
……なん、で……
何で……こんな……
何度も舐り、角度を変え、激しい熱情を与えながら濡れそぼつ舌を絡ませ……奥深くに潜む僕の精神までも引っ張り出そうと強く吸い上げる。
……妹……
確か……僕が、妹に似ているって──
……そうか。
男に勃たない筈の五十嵐が、こうして僕を抱けたのは……僕を妹と重ね合わせたからだ。その境界線が、曖昧になっていって……錯乱してるだけ──
息苦しさに堪えかね、自由になった方の手を伸ばし、五十嵐の二の腕辺りを掴んで押し返す。
だけどびくともせず……まるで赤子の手を捻るかのように手首を毟り取られ、再びベッドに押し付けられる。
「………はぁ……、さくら……」
今にも泣き出しそうな、五十嵐の瞳。
堪えるように歪めた唇からは、荒々しい息が漏れ……苦しそうに下の名前を繰り返し口にする。
「さくら、さくら……、」
思い詰めたように喉から絞り出される、掠れた声。
やり場の無い思いを抱え、切なく瞳を揺らしながら僕を求める姿は──あの暑い夏の日、人を殺したかも知れないと僕に縋り付き、震えながら僕を抱いた……ハイジを彷彿とさせ──
「……、!」
──ドク、ンッ
胃の下辺りから、柔らかな棘のようなものが突き上げる。
その瞬間──全身の血液が逆流しながら沸騰し、むぁっと立ち篭める甘い匂い
息が上がり、痺れる程に末端がドクドクと脈打てば……身体の深部から快感が沸き上がってしまい……
……いや、だ……
寛司に与えられたものと同じ快感を感じながら、一方で、ハイジによって引き出されてしまった『ストックホルム症候群』の症状が襲う。
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