シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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五十嵐編

299.

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……はぁ、はぁ、


動かなくなった、醜い肉の塊。
畳に染みこんでいくドス黒い血。
ひっくり返った目。だらしなく開いた口。
それでも……妹を犯し続けたソコだけは、ドクドクと熱く息づき、硬く屹立したまま欲望を吐き出し続けていた。


「──死んだ、と思ったよ。
でも、不思議と焦りは無かった。寧ろ達成感と開放感で身体中が震え、高揚しきってた。
放心状態の妹の身体に、着ていた俺の上着を掛けて、この遺体をどうしようか……興奮冷めやらぬ脳を何とか落ち着かせながら、冷静に考えていた。
──その時だ。突然、闇金の取り立て屋が土足で上がり込んできたのは」


現れたのは、ガラの悪い二人組の男。
この異常ともとれる光景を目の当たりにしても、奴等は顔色ひとつ変わらない。金さえ返してくれれば、他はどうでも良かったんだろう。

『……あーあ、どうすんのコレ? 借金、あんたが全額肩代わりしてくれんの?』

腰を落とし、妹の傍にいる五十嵐に一人の男が近付く。そして目の前でしゃがみ込み、視線を合わせながらニヤニヤと厳つい顔を歪ませる。

脅しの台詞。掬われる足元。
もう、逃げられない──底無しの沼に突き落とされ、沈められていく感覚に襲われる。
それまで残っていた昂りは完全に消え、底冷えする程に身体がガタガタと震え出す。

『それとも、自首でもして逃げるか? ん?
……いいぜ、お前じゃなくても。そこの女をソープに沈めて、一生働かせて全返して貰うだけだからな』
『……』
『まぁ、いいや。
実の父親に、ここまでやったお前の根性だけは認めてやる。
コイツの借金、手っ取り早く返して、早く自由の身になりてぇよなぁ……
………あぁ、そうだ。お前に丁度いいバイトがある。
ちゃちゃっとやってみねぇか……?』
『………』

家族にとっては厄介者でしかない父親も、闇金関係者にとっては、利用価値のある:金蔓(カモ)の一人。
借金をできるだけ嵩ませ、後は骨の髄までしゃぶり尽くす……


「………妹を護る為なら、俺は何だってやる。
そう覚悟を決めて、俺はソイツらの話に乗ったんだ」


父親は意識不明の重体。
傷害ではなく事故として揉み消され、当然、予め掛けられていた保険金は、その紹介料として奴等が全てもぎ取った。
五十嵐と妹は、飼い主である八雲が用意した小さなアパートに移り住んだ。

一部記憶を失った妹との二人暮らし。
突然訪れた、穏やかな毎日。平和な日常。
もう、父親の影に警戒する必要はない。妹に笑顔が戻り、ごく普通の女の子が通る人生みちを歩んでいる。
だけどそれは……足元に潜む、濁った泥水に塗れた上に成り立つ『希望』にすぎない。

それでも──五十嵐にとってこの日々は、かけがえのない『幸せ』そのものだった。


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