34 / 49
第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

34:第一遊撃隊隊長・ディスモンド

しおりを挟む
 ――その事実は、騎士団の中では騎士団長とその息子たちしか知らない。

 クリスタルが双剣騎士になり、第二遊撃隊に配属されたのは、騎士団長の意向によるものだった。
 クリスタルがそのことを知ってしまえば、おそらく双剣も弓もまともに扱えなくなってしまう。

 しかし、クリスタルは自分から気づいてしまった。だが、クリスタルは成長していた。折れなかった。

「私は、私の任務を全うするのみです」





 私は不思議に思っていた。
 騎士団に入ってからというもの、私は一度も『長男』を見たことがないのだ。

「リッカルドさんからもオズワルドさんからも、いっこうにお兄さんの話が出てこないんですよね」

 営業が終わったサヴァルモンテ亭で皿を拭きながら、私はエラに尋ねてみる。

「ディスモンドのことか?」
「たぶん、そんな名前だったような」
「あの赤髪の隊長さんだよな」

 赤髪と聞いて、少しドキッとしたのは気のせいだろう。

「それに、同じ遊撃隊でもあるのに、一度も会ったことがないんです」
「まぁ、第一と第二で分かれてるからな」
「それにしても、ですよ」

 最後の皿を手に取り、拭き始める。
 エラは仕込みをする手を止めた。

「一週間に二回くらいは分かれずに訓練するんですけど、いつもオズワルドさんが指揮を執って、ディスモンドさんは後から来ているらしいんです」

 遊撃隊の合同訓練は、最初に隊員全員での行動演習をする。その後に第一の人と第二の人が混じって、武術訓練をする。
 行動演習のときにはディスモンドがおらず、武術訓練のときになって顔を出すそうだが、私は知らない。武術訓練では自分の訓練に集中しているからだ。

「どういうことだ? 遊撃隊が第一と第二に分かれる前、ディスモンドが隊長でオズワルドが副隊長だったような。だから、指揮を執るのはディスモンドがやってたんじゃねぇか?」
「あっ、そうだったんですね」
「ああ、前に大勢の騎士たちにディスモンドが指示をしていたのを見たことがあるから、そうだろうな」

 とすると……。
 私の頭にいくつかの説が思い浮かんできた。

 一つ目、ディスモンドは騎士を引退しようとしており、オズワルドに自分の仕事を引き継ごうとしている説。

 二つ目、体調が優れないので、合同訓練の後半だけなら参加できる説。

 三つ目、私を避けている説。

 三つ目に関しては、完全に私のマイナス思考から浮かんできたものなので、可能性は低いだろう。

「明日も遊撃隊での訓練なので、オズワルドさんに聞いてみようと思います」
「あぁ、それがいい。ここでうだうだ言ってるより、聞いた方が早いな」

 手伝いが終わったので、自分の部屋に戻ろうと階段を上る。ふと、仕込みを再開したエラの独り言が聞こえてきて、足を止めた。

「ふん……クリスタルも成長したな。自分から動けるようになった。ついこの間まではあたしがそう提案する側だったのにな」

 言われてみればそうだ。ずっと言われるがまま、されるがままだったのに。何か思いついても、行動するのにはかなり躊躇ちゅうちょしてたのに。

 私はまた、止めていた足を動かした。





 次の日、よろいを着て双剣を腰に差した私は、騎士団寮の庭に出るために廊下を歩いていた。「おはようございます!」のあいさつの嵐が、反対側から向かってきている。

 この感じは……隊長であるリッカルドかオズワルドか、はたまた騎士団長か。

 しかし、私の目がとらえたのは、赤髪で短髪の男性だった。

「おはようございます」

 誰か分からないが、私も周りの騎士と一緒にあいさつすると、その人と目が合う。あっ、と何かに気づいたような表情をしたあと、気まずそうに目をそらされた。

 えっ……?

 一瞬の出来事だったが、確実に脳裏に焼きついた。なぜなら、その人はどこかで見たことのあるような顔立ちだったからだ。

「あの人、ディエゴと似てる」

 そう思ったとたん、全身に鳥肌が立つ。髪型こそ違うものの、髪色も顔のパーツも配置もそっくりである。
 その人が通りすぎると、後ろを歩く騎士二人がしゃべり始めた。

「この時間からいるっていうことは、今日の合同訓練はディスモンド隊長が指揮するのかな?」
「だろうね。久しぶりだな」

 自分の耳を疑った。

 あの人が、ディスモンドさん!?

 ディエゴに似ている人を見ただけで動悸どうきがするのに、しかもその人が、会ったことがないと気にかけていたディスモンドであるのだ。

 合同訓練が始まった。縦の列も横の列もピシッと合わせた整列隊形を作ると、いつもオズワルドが立っているところに、さっき会ったディスモンドがやってきた。

「今日はオズワルドが体調不良のため、代わりに俺が指揮をとる。そして、今日から俺が指揮に戻ることにした」

 そうなんだ……。オズワルドさん、大丈夫かな?

 というより、声がディエゴから皮肉っぽい言い方を除いたような声なのだ。声質は本当にディエゴそのものだった。

「俺の指揮で訓練を受けたことがない諸君。俺の指揮はオズワルドより厳しいぞ。しっかりついてこい!」
「「「はいっ!!」」」

 さすがは長男。威厳はリッカルドやオズワルドの比ではない。騎士団長を思わせるようである。
 同じような声なのに、ただ私に怒鳴り散らしていたディエゴと何が違うのだろうか。

「これから、合同訓練を始める!」

 ディスモンドの一声で、色々な疑問が駆け巡っていた気持ちが収まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

異世界に無一文投下!?鑑定士ナギの至福拠点作り

花垣 雷
ファンタジー
「何もないなら、創ればいい。等価交換(ルール)は俺が書き換える!」 一文無しで異世界へ放り出された日本人・ナギ。 彼が持つ唯一の武器は、万物を解析し組み替える【鑑定】と【等価交換】のスキルだった。 ナギは行き倒れ寸前で出会った、最強の女騎士エリスと出会う。現代知識とチート能力を駆使して愛する家族と仲間たちのために「至福の居場所」を築き上げる、異世界拠点ファンタジーストーリー!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

王女様は聖女様?おてんば姫の大冒険~ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しに行きます!~

しましまにゃんこ
ファンタジー
アリシア王国の第3王女ティアラ姫には誰にも言えない秘密があった。 それは自分が全属性の魔力を持ち、最強のチート能力を持っていた「建国の賢者アリシア」の生まれ変わりであること! 8才の誕生日を境に前世の記憶を取り戻したものの、500年後に転生したことを知って慌てる。なぜなら死の直前、パートナーのドラゴンに必ず生まれ変わって会いにいくと約束したから。 どこにいてもきっとわかる!と豪語したものの、肝心のドラゴンの気配を感じることができない。全属性の魔力は受け継いだものの、かつての力に比べて圧倒的に弱くなっていたのだ! 「500年……長い。いや、でも、ドラゴンだし。きっと生きてる、よね?待ってて。約束通りきっと会いにいくから!」  かつての力を取り戻しつつ、チートな魔法で大活躍!愛する家族と優しい婚約者候補、可愛い獣人たちに囲まれた穏やかで平和な日々。 しかし、かつての母国が各国に向けて宣戦布告したことにより、少しずつ世界の平和が脅かされていく。 「今度こそ、私が世界を救って見せる!」 失われたドラゴンと世界の破滅を防ぐため、ティアラ姫の冒険の旅が今、始まる!   剣と魔法が織りなすファンタジーの世界で、アリシア王国第3王女として生まれ変わったかつての賢者が巻き起こす、愛と成長と冒険の物語です。 イケメン王子たちとの甘い恋の行方もお見逃しなく。 小説家になろう、カクヨムさま他サイトでも投稿しています。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

処理中です...