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第四章 元冒険者、真の実力を見せつける
38:私を揺さぶる、冒険者ギルドからの支援要請
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冒険者たちに戦慄が走ってから三日後、騎士団の全員が、いつも訓練をする庭に緊急招集された。
第一遊撃隊・第二遊撃隊・迎撃隊・見習いが、それぞれの部隊ごとに整列して集まった。
私は第二遊撃隊の列に並んでいる。今日はもともと双剣での訓練の予定だったからだ。
「全部隊集まったな。これから重要な話をするから、しっかり聞いておくように」
みんなの前にはただ一人、騎士団長だけが立っている。
「騎士と見習いの諸君、南側から王都を出ると、冒険者ギルドがあるのは知っているな?」
コクリと「あぁ、あそこか」というように周りがうなずく。だが、私は冒険者ギルドと聞いただけで鼓動が速くなっていた。
もう嫌な予感しかしない。騎士と冒険者は戦うことを職業としているが、相手する敵が違うので戦い方が異なり、普段はお互いに介入しない。しかも、騎士団で冒険者の話が出ることはめったにない。
だが、そんな騎士団に冒険者の話が入ってきたのだ。よほど大事なのだろう。
「そこからモンスター討伐の支援要請が来た。どうやら記録に残るうちで一番強いモンスターが現れて、上級の冒険者でも手こずっているようなんだ」
……騎士団にわざわざ頼むってことは……たぶんそうだよね。
「それに伴って、ダンジョンの中のモンスターが増えた上に強くなり、このままではダンジョンからモンスターがあふれて、王都にも危険が及ぶ可能性があるそうだ」
やっぱり。王都とか王国に危険が迫ったときに動くのが、私たち騎士団だもんね。
「かなりの増援が必要だ。そこで遊撃隊の半分と迎撃隊の半分を送ることにした」
増援の人数は、ウォーフレム冒険者ギルドに所属する人数と同じくらいになる。
ということは、全然人手が足りてないってことだ……。
「見習いは、ここに残る騎士と一緒に王都の警備を手伝ってほしい。本来は騎士しかできない仕事だが、緊急なので見習いにも動いてもらう」
話を聞きながら、ハッと思い浮かんだことに胸騒ぎを感じる。
この騎士団で、モンスターとの戦い方を知っているのは私のみ。私が率先して、戦い方を教えなければならない状況だ。しかし、そんな私はパーティを追放されて冒険者をやめた『能なし』である。剣での戦い方は知らないし、弓はただ『知っている』だけだ。
そもそも、ギルドの建物すら見たくない。
私はなるべく団長と目が合わないように、話が終わるのを待った。が、
「隊長の三人と第二遊撃隊のクリスタルはここに残るように。解散」
目を合わせなくとも、私が使われるのは確定していたのだった。
場所を応接室に移すと、さっそく団長が口を開いた。
「ここでクリスタル君を呼んだのは……まぁ、分かっているだろう?」
「はい、私が元冒険者だからですよね」
「そうだね」
私と団長だけがソファに座り、三兄弟は立ったまま私たちの話を聞いている。
「私が……色々と教えることになりますよね」
「私としてはぜひそうしてほしいのだが、一つ、心配なことがある」
強制的にギルドに行かされると思っていたが、不意打ちをくらった。
「クリスタル君のメンタルが心配なんだ。クリスタル君にとってあそこは、名前も聞きたくないし見たくもないところだと思うんだ」
完全にその通りだが、そうですと口に出して言える空気ではない。うつむくことしかできない。
「だから、この件に関わらずにここに残ってもいいよ。どっちがいいかな?」
団長の期待に応えたい気持ちと過去の記憶がせめぎ合っていると、ふと兄と姉の顔が頭に浮かんできた。
父から命令されて私に冷たくした兄たちと、父や兄たちを見て流された姉。未だに謝罪の言葉のお返しができていない。
三人とも上級冒険者だから、今ごろその最強モンスターに立ち向かってるよね。もしかしたら父たちが倒したキング・カイタンよりも強いかもしれない。
なるべく早く行ってあげなくちゃ。返事もできないまま死なれたら困る。死んでほしくない!
「冒険者をやめた理由がアレなので、団長が思っているほどの期待には応えられないかもしれませんが……できる限りをつくしたいと思います」
「ということは、向こうに行ってくれるんだね?」
「はい」
と、ここでディスモンドが口を挟んできた。
「向こうに行くということは、ディエゴの顔も見ることになる。本当に大丈夫か」
「任務に集中するので大丈夫です」
一緒に戦うことはないだろうから、たぶん大丈夫。大……丈夫。
そう自分に言い聞かせるが、
「ホントに使えねぇ弓使いだな」
ディエゴの声がよみがえってきて、自分が使い物になるのかますます不安になるばかりであった。
その日の夜、私は今日のことをエラに相談していた。カウンターで、エラは自作のワインを飲みながら、私はただの水を飲みながら。
「そんなに冒険者ギルドが大変なことになってるのか……」
「モンスターと戦ったことがあるのは、騎士団で私しかいなくて。おそらく私を頼りたいんだと思います」
「だろうな。だが……」
すぐに顔を曇らせるエラ。頭の中には、私が吐露した数々の『されたこと』が思い浮かんでいるに違いない。
「あたしも、団長とかディスモンドのように、クリスタルのことが心配だ。団長や三兄弟は、リッカルドのスカウトで入団してきたクリスタルに一目置いてるからこそ、そうやって心配してくれてるんだ」
やっぱりみんな、私の過去のことは腫物を触るようにしてくる。
だけど、これは私への試練だ。過去にとらわれずに任務を全うする。そうだよ、先週ディスモンドさんにも自分から言ったじゃん。
「じゃああえて聞くが、その任務、やりたいか?」
ギクッと心が揺れる。エラは私の本音を引き出そうとするのがうまいなぁと、改めて感心する。
数秒考えれば、私の答えは出た。
「やりたいです。久しぶりにモンスターと戦うことになりますし、団長から直々に頼まれたことなので」
「それならそれでいいじゃないか。やりたいならやればいい」
いかにもエラさんらしい答えだなと思った。やりたいならやればいい。深く考えすぎたかもしれない。これくらいの気持ちでいれば楽だよね。
「そ、そうですよね。なるほど……」
心にどんよりと立ち込めていたもやが一気に晴れたような気がした。
第一遊撃隊・第二遊撃隊・迎撃隊・見習いが、それぞれの部隊ごとに整列して集まった。
私は第二遊撃隊の列に並んでいる。今日はもともと双剣での訓練の予定だったからだ。
「全部隊集まったな。これから重要な話をするから、しっかり聞いておくように」
みんなの前にはただ一人、騎士団長だけが立っている。
「騎士と見習いの諸君、南側から王都を出ると、冒険者ギルドがあるのは知っているな?」
コクリと「あぁ、あそこか」というように周りがうなずく。だが、私は冒険者ギルドと聞いただけで鼓動が速くなっていた。
もう嫌な予感しかしない。騎士と冒険者は戦うことを職業としているが、相手する敵が違うので戦い方が異なり、普段はお互いに介入しない。しかも、騎士団で冒険者の話が出ることはめったにない。
だが、そんな騎士団に冒険者の話が入ってきたのだ。よほど大事なのだろう。
「そこからモンスター討伐の支援要請が来た。どうやら記録に残るうちで一番強いモンスターが現れて、上級の冒険者でも手こずっているようなんだ」
……騎士団にわざわざ頼むってことは……たぶんそうだよね。
「それに伴って、ダンジョンの中のモンスターが増えた上に強くなり、このままではダンジョンからモンスターがあふれて、王都にも危険が及ぶ可能性があるそうだ」
やっぱり。王都とか王国に危険が迫ったときに動くのが、私たち騎士団だもんね。
「かなりの増援が必要だ。そこで遊撃隊の半分と迎撃隊の半分を送ることにした」
増援の人数は、ウォーフレム冒険者ギルドに所属する人数と同じくらいになる。
ということは、全然人手が足りてないってことだ……。
「見習いは、ここに残る騎士と一緒に王都の警備を手伝ってほしい。本来は騎士しかできない仕事だが、緊急なので見習いにも動いてもらう」
話を聞きながら、ハッと思い浮かんだことに胸騒ぎを感じる。
この騎士団で、モンスターとの戦い方を知っているのは私のみ。私が率先して、戦い方を教えなければならない状況だ。しかし、そんな私はパーティを追放されて冒険者をやめた『能なし』である。剣での戦い方は知らないし、弓はただ『知っている』だけだ。
そもそも、ギルドの建物すら見たくない。
私はなるべく団長と目が合わないように、話が終わるのを待った。が、
「隊長の三人と第二遊撃隊のクリスタルはここに残るように。解散」
目を合わせなくとも、私が使われるのは確定していたのだった。
場所を応接室に移すと、さっそく団長が口を開いた。
「ここでクリスタル君を呼んだのは……まぁ、分かっているだろう?」
「はい、私が元冒険者だからですよね」
「そうだね」
私と団長だけがソファに座り、三兄弟は立ったまま私たちの話を聞いている。
「私が……色々と教えることになりますよね」
「私としてはぜひそうしてほしいのだが、一つ、心配なことがある」
強制的にギルドに行かされると思っていたが、不意打ちをくらった。
「クリスタル君のメンタルが心配なんだ。クリスタル君にとってあそこは、名前も聞きたくないし見たくもないところだと思うんだ」
完全にその通りだが、そうですと口に出して言える空気ではない。うつむくことしかできない。
「だから、この件に関わらずにここに残ってもいいよ。どっちがいいかな?」
団長の期待に応えたい気持ちと過去の記憶がせめぎ合っていると、ふと兄と姉の顔が頭に浮かんできた。
父から命令されて私に冷たくした兄たちと、父や兄たちを見て流された姉。未だに謝罪の言葉のお返しができていない。
三人とも上級冒険者だから、今ごろその最強モンスターに立ち向かってるよね。もしかしたら父たちが倒したキング・カイタンよりも強いかもしれない。
なるべく早く行ってあげなくちゃ。返事もできないまま死なれたら困る。死んでほしくない!
「冒険者をやめた理由がアレなので、団長が思っているほどの期待には応えられないかもしれませんが……できる限りをつくしたいと思います」
「ということは、向こうに行ってくれるんだね?」
「はい」
と、ここでディスモンドが口を挟んできた。
「向こうに行くということは、ディエゴの顔も見ることになる。本当に大丈夫か」
「任務に集中するので大丈夫です」
一緒に戦うことはないだろうから、たぶん大丈夫。大……丈夫。
そう自分に言い聞かせるが、
「ホントに使えねぇ弓使いだな」
ディエゴの声がよみがえってきて、自分が使い物になるのかますます不安になるばかりであった。
その日の夜、私は今日のことをエラに相談していた。カウンターで、エラは自作のワインを飲みながら、私はただの水を飲みながら。
「そんなに冒険者ギルドが大変なことになってるのか……」
「モンスターと戦ったことがあるのは、騎士団で私しかいなくて。おそらく私を頼りたいんだと思います」
「だろうな。だが……」
すぐに顔を曇らせるエラ。頭の中には、私が吐露した数々の『されたこと』が思い浮かんでいるに違いない。
「あたしも、団長とかディスモンドのように、クリスタルのことが心配だ。団長や三兄弟は、リッカルドのスカウトで入団してきたクリスタルに一目置いてるからこそ、そうやって心配してくれてるんだ」
やっぱりみんな、私の過去のことは腫物を触るようにしてくる。
だけど、これは私への試練だ。過去にとらわれずに任務を全うする。そうだよ、先週ディスモンドさんにも自分から言ったじゃん。
「じゃああえて聞くが、その任務、やりたいか?」
ギクッと心が揺れる。エラは私の本音を引き出そうとするのがうまいなぁと、改めて感心する。
数秒考えれば、私の答えは出た。
「やりたいです。久しぶりにモンスターと戦うことになりますし、団長から直々に頼まれたことなので」
「それならそれでいいじゃないか。やりたいならやればいい」
いかにもエラさんらしい答えだなと思った。やりたいならやればいい。深く考えすぎたかもしれない。これくらいの気持ちでいれば楽だよね。
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