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第四章 元冒険者、真の実力を見せつける

42:輝く女騎士とあの人たち

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 ちょうどここにいるのでディエゴたちのことも知りたくなったが、もう外はあかね色に染まっていた。

「そろそろ騎士団の方に行かなくちゃ」

 今日のダンジョンの様子は、前の状態を知っている私が記録した方がよいだろう。

 急ぎ足で騎士団寮に戻り、記録用紙を取りに団長室に入った。

「ご苦労様。ごきょうだいのところに行ったとディスから聞いている」

 自分だけ別行動をとる許可をもらったときに、ディスモンドが「分かった。団長に伝えておく」と言ってくれていたのだ。

「はい。……三人とも生きてはいましたが、全身大ケガでした」
「そうだろうね。さっきディスが書いた今日の記録を見たが、道中のモンスターでさえ手強かったようだね」
「前より数が増えた感じでした。なので奇襲も多く、一度に多くのモンスターを相手にしなければならなくて」
「クリスタル君でさえそう感じたのだな」

 団長は腕を組んで、「早く団員にも慣れてもらわないと」と厳しい顔をする。

「デス・トリブラスのことは聞いたかな?」
「もちろんです。あとでその記録もまとめます」
「よろしく頼むよ」

 色々聞きたがっている団長だが、記録だけはつけないといけないので、やんわり断って団長室をあとにした。





 騎士団寮で書き物をするときはいつも、ここの食堂の机とイスを借りている。寮に自室がないので仕方がない。

「今日の討伐のことと、お兄さまたちから聞いたデス・トリブラスのこと……だね」

 端の席で数枚の記録用紙を広げ、数時間前のことを思い出しながらつづっていく。

 隊形は、隊長のディスモンドを先頭に、前衛は遊撃隊、後衛は迎撃隊、私は最後尾で主に弓を使って討伐した。奇襲に備え、討伐の後半からは、遊撃隊から数人出して迎撃隊の保護にまわる隊形にした。
 上級ダンジョンに出るモンスターは以前と変わっていないが、量が体感で二倍くらいまで増えていた。
 団員がモンスターに慣れていないこともあるが、奇襲にって私が後ろから補佐することが度々あった。
 明日からは、よりダンジョンの奥に進み、ダンジョンの状況把握に務める予定である。

「ざっとこういう感じでいこう」

 記録をするときのテンプレートに沿って書き進める。このテンプレートは、騎士になって初日にリッカルドから教えてもらった。

 それまで弓に関することを書くときは、父から反省文を書かされたときくらいしかなく、そもそも書くことが嫌いであった。何をどういう構成で書くのか、父は私にどういうことを書かせたいのかくみ取らなければいけないからだ。

 リッカルドにテンプレートを教えてもらったことが、書き出しでいつも悩む私を救ってくれた。

「次はデス・トリブラスのことだね」

 別の真っ白な記録用紙に取り換えると、サム兄、姉、セス兄から聞いたことをそのままに書いていく。

「クリスタルも知ってるとおり、デス・トリブラスは上級ダンジョンの一番奥に現れたモンスターだ」
「見た目は、普通のトリブラスが見たことないくらい巨大化して、どす黒くて、禍々しいオーラを出してて、茎っぽいところに数えきれないほどのトゲがついてるの」
「トゲを全方向に飛ばすから、攻撃したくても近寄れない」

「しかも、花みたいなところから、毒が入った実を投げてくる。これに当たると、その部分がただれてだんだん力が入らなくなってくるんだ」
「力が入らないから、弓を引こうとしても引けない。ホント厄介」
「遠距離攻撃だけじゃなくて、普通に物理攻撃もしてくるんだよ」

「俺はその物理攻撃で頭をやられた。木で言うと枝にあたる部分が伸び縮みして、直接ぶん殴ってくるんだ」
「私はその攻撃で突き飛ばされて、体の右側を地面に思いっきり打って、こうなっちゃった」
「俺も物理攻撃で体が吹っ飛んで、足が変な方向に曲がった」

 話を聞けば聞くほど痛々しすぎて、私の心までダメージを負っている感覚になった。実際に体験した人から、その姿で語られた話は、あまりにも説得力がありすぎた。

 どれだけ厄介なモンスターなのかは、痛いほど伝わっている。これほど鮮明に思い出せるのだから。

「あの上級の人たちでも敵わなかったのに、私たちのような騎士が太刀打ちできるわけないよね。デス・トリブラスに挑むのは、上級の人のケガが治って動けるようになってからかな」

 ケガが治るのに、普通に見積もって一カ月。感覚を取り戻す時間も含めたら……一カ月半。
 ケガの治り具合や感覚が早く取り戻せれば、もっと早く討伐できると思うけど。

「これから最低一カ月は、私たちが代わりにモンスターを狩らなきゃいけない。……がんばろ」

 記録用紙がいっぱいに埋まったところで、席を立つと、食堂の入口の方からにぎやかな声が聞こえてきた。

 あ、もう夜ご飯の時間か。

 討伐と記録を書くのに集中力を使い果たした私。ご飯だと意識したとたんに腹時計が動き出した。

「今日はここの食堂で食べよう」

 私は記録用紙を提出しに、いったん食堂を離れた。





 一方、騎士団が去ったあとの冒険者ギルド。

「追放されて冒険者をやめたクリスタルが、騎士になって帰ってきたなんてな!」

 こっちの食堂では、初級・中級者が夕食をとっているが、今日は騎士団の話で持ち切りだった。

「さっき討伐から戻ってきたところを見たけど、ケガ一つしてなかったな」
「あぁ。デス・トリブラスが出る前のダンジョンでさえ、絶対一つは傷つくって帰ってきてたような」
「ホント、冒険者をやめて覚醒するなんて、あのときは誰も思いやしなかった」

 騎士団の食堂と違うのは、この男たち二人が酒を飲んでいることだろう。少し顔を赤らめた二人は、声量というものは気にしていないようだ。

「騎士っていうだけでカッコいいもんな。クリスタルだけ他の騎士とは違ったカッコよさがないか?」
「確かに。俺もクリスタルの弓見てみたいな。どれくらいうまくなったのか」
「討伐が終わってから誘うか?」
「いや、クリスタルは騎士だぞ。もう冒険者じゃないんだ」
「そうだな。つい俺らの感覚で言ってしまう」

 男たちはグビグビとのどを鳴らしながら飲み、ガハハと腹から笑った。

 二人の声量が大きすぎて、この人たちにも会話が聞こえていた。

「何よ、ちやほやされちゃって」

 ディエゴたちである。
 かつてクリスタルをにらんだときのような目で、不服そうに男たちを見るジェシカ。

「難しくなったあの上級ダンジョンで傷一つつくらないで帰って来れるなんて……そんなのクリスタルにできるわけないでしょ!」
「他の騎士に守られてたんじゃね?」
「絶対それよ!」

 ジェシカとディエゴは意気投合しているものの、イアンは無言だ。

「ていうか、今日ここに来たのも、元冒険者だからとりあえず連れてきたんだろ」
「あんなのお荷物だものね。討伐であんなの使えないから」

 むしろ、クリスタルが奇襲に対応したり、隊列の後ろからサポートしていたが。
 ここで、イアンが「なぁ」とようやく会話に入ってきた。

「聞いた話だが、クリスタルは騎士団長からの特別推薦で来たそうだ」
「特別推薦っていうのは表向きだろ。本当は少しでもダンジョンやモンスターのことを知っている人を連れていきたかっただけで――」
「実際はお荷物」

 自分たちに都合がよい解釈をしている。イアンの表情は変わらない。

「それなら何でクリスタルは騎士団にスカウトされたんだ?」
「知らね」
「生活費を稼ぐために、騎士団にごねたんじゃない? 『元冒険者なので、戦いの経験あります!』って」

 核心に関わることになると、ディエゴは知らんぷりし、ジェシカはとんでもない仮説をでっちあげる。
 ちなみに、騎士団はゴネで入れるような生易しいところではない。あの三兄弟でさえ入団試験を受け、実力で隊長という座に上り詰めている。

 未だにクリスタルがスカウトされて入団したことを信じられていない三人は、このあとクリスタルの本当の実力と才能を目の当たりにすることになる……。
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