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神獣白虎『ルナティ』

12本の剣と晴明の12神将

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薬師は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、ふっと力無く笑って見せた。


    「なる程、そうだよな。姿は変わっても魂は同じだ。コイツ等は、逸れを間違えなかっただけだ」

    「薬師様…… 」


    ナディアが困った顔をしている。

   
    「そんな顔をするな。仕方が無い。ナディア嬢には武器など持たせたくは無かったんだけどな…… 」


    そう言うと、薬師はふっと遠い目をして、何かに思いを馳せた。

    そんな薬師を見て、ナディアも剣呑とした思いに駆られてしまった。


    ── 何だか、とても悔しいです。薬師様は私を番だと言えども、凪様の事を忘れていらっしゃらない。未だ、愛していらっしゃるのですね。私は、それが堪らなく………… 悔しい ──


    ナディアは、そう思う自分自身に驚愕した。

   
    ── コレは、嫉妬だわ。私は、気付かぬ内にこの様な嫉妬を覚えてしまうまで、薬師様を好きに為ってしまうなんて ──


    ナディアにとって、この成り行きは青天の霹靂と言うもの。

    こんなに早く愛してしまうなんて、『番だから』としか言いようが無かった。


    「ナディア嬢、こっちへ…… 」


    そう言って薬師がナディアに向けて手を差し伸べる。

    そろそろ、こわごわとナディアは薬師の元にやってくるとその手を取った。

    こわごわとしていたのは、ナディア自身が抱いたほの暗い嫉妬のせいだ。

    薬師はそんなナディアを見て、若干首を傾げて見せたが気を取り直して、ナディアの手を握り直し自身へと引き込んだ。


    「ナディア嬢、貴女がコレを扱うのか否か、決めるのは貴女だ。どうする? 」


    そう問い掛ける薬師にナディアの答えはもう決まっていた。

    
    ── 今、薬師様のお側に居るのは私。なら、私を見て貰えば良い。その為には………… ──


    「勿論、この子達さえ良ければ私に扱わせて欲しいです」


    はっきりとした意志主張でナディアは薬師に顔を向けて言ったのだった。


    「ならコイツ等なんだが、一つ一つに名前が有り、その鞘はナディア嬢自身となる。あの紙人形からコイツ等が出て来たように、今度からはナディア嬢、貴女の身体を媒体にして出て来る。何本出すかは持ち主次第だが、全部で12本あるんだ。晴明の12神将が変化したのがコイツ等だよ」


    薬師はそう言うと、晴明を見た。


   「12神将? 」


    ナディアが不思議そうに呟く。

    ナディアにとっては初耳なのだから仕方が無い。

    薬師はナディアに対して頷くと、今度は晴明に言った。


    「晴明、説明しろ」

    「ふむ。あい解った」


    晴明は薬師にコクリと頷くとナディアに向き直った。




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宣伝失礼します。

『無実の罪で断罪される私を救ってくれたのは番だと言う異世界の神様でした』

の外伝『 私の番は薬師という名の如来様でした 』を公開しました。

お話に名前だけ登場する凪と人に身をやつした薬師のお話です。

覗きに来て下さると泣いて喜びます。
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