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番外編:ソラシア帝国大舞踏会
狼獣人の番
しおりを挟む「ふっ、俊傑とやら、私に噛み付いても余り意味は有りませんよ。今となっては番云々と言うより、私に一矢報いたいと言う所でしょうかね」
と、言い切ってしまう薬師は、俊傑の本音を暴いてしまう。
くっ、と息を呑む俊傑は苦虫を噛み潰した顔を隠しもしない。
と、言うか、隠せない、か。
地面に縫い止められている身としては。
「あぁ、そうそう。俊傑、番の件ですが、一つ言える事があります。獣人はと言うより貴方は随分と鼻が良いようですね。君は、私と番のナディアが紡ぐ未来を感じ取ったようですから。今、ナディアのお腹に居る子は男の子ですが、この子に繋がる者例えば妹に当たる娘だとかですが、その子がどうやら、君の番になるようです。君は、この子を通して未来に産まれてくる番を感じ取ってしまったと言う事なのでしょうね…… 」
と、珍しく饒舌に薬師は語った。
「けれどね…… 」
ポカンと馬鹿を晒した顔を見せる俊傑に、薬師は膝を付いて彼に顔を近付ける。
ドキリとした。
縫い止められていなければ、こうやってまともに顔を見る事など出来なかっただろう。
それ程までに見惚れ、この男、美しいなと思った俊傑だった。
近くに見える肌は白く滑らかで、女の化粧のように表面の毛穴が見えない。
唇は薄く引き結ばれていたが、紅を指したように紅かった。
正にそれは人智を越えた美。
美の化身。
その者が僅かに口元を歪め、呆けている俊傑の首元の襟を片手で掴み、引き上げた。
ビリビリと剣に縫い止められた服が破け、俊傑は床から引き離された。
その引き上げた力のなんと強い事だろう。
俊傑もしなやかな体躯だが、狼だから大きく、ウエイトも有る。
熊の獣人ならばいざ知らず、こんなに細く女の様な見掛けの男の何処に俊傑を片手で引き上げる力があるのか。
息が詰まりながらも思考した。
足りない頭で考えを巡らせた。
「お前、賢くなれ。聡くなれ。そうしなければ絶対に認めんぞ。馬鹿はこの瑠璃光家にはいらん。其れでなくとも親子程の年の差が出来るのだ。番だからと言って、何時か産まれ来る我が子を馬鹿になどくれてやらんからな。精進して己を磨きに磨いてからもう一度来い。騒ぐのは逸れからだ」
薬師はそうそう啖呵を斬ると、むんずと掴んでいた手を離し、俊傑をドサリと床に落とした。
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