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オルドリア大陸編
序話:オルドリア大陸
危険な魔物が徘徊し、多くの財宝を望めるダンジョンが各地に点在するフラキウル大陸。名声や一攫千金を求めて危険なダンジョンに挑む命知らずの冒険者達。そんな猛者達で賑わうフラキウル大陸に君臨する大国の一つに、魔導文明で栄えた国、グランダール王国があった。
優れた魔導技術によって造られた『魔導船』という空飛ぶ船が、日常的に行き交うグランダール国の王都トルトリュスより、冒険好きなレイオス第一王子率いる魔導船団が東方のオルドリア大陸を目指して冒険飛行に飛びたってから、およそ三十日が経過した頃。
「見えた! オルドリア大陸だ!」
見張り台の航海士が叫んで指差した先、遥か前方の洋上に巨大な島のような形をした陸地が見えて来た。あと半日ほどで、『異界の魔術士』朔耶が所属している国、フレグンス王国に到着する。
先頭を行く魔導船の甲板では、少年型姿のコウがいつもの先端辺りに陣取り、周囲を見渡していた。直ぐ傍には、『ガウィーク隊』の天然天才美少女射手ことカレンと、古代魔導文明の遺産でもある『ガイドアクトレス』エイネリアも居る。そこへレイオス王子やガウィーク達もやって来た。
「何か見えるか、コウ」
そう言って声を掛けて来たガウィークに、コウは地上を指差して答える。
「あそこに港街があるよ」
オルドリア大陸の西端に位置するであろう海沿いに見える街には、沢山の桟橋とそこに着けられた大小様々な船が見える。ほとんどは漁船のようだが、交易船らしき外洋向けの大型帆船もあった。
「ふむ、あの港から出た船が、フラキウルまで航海しているのだな」
空を行く魔導船でもこれだけの日数を要する距離を、波のうねる海上を風を頼りに進むのかと、レイオス王子が船乗りの過酷さ勇敢さに感心している。
そんなレイオス王子は、傍らに控える執事風の男性に訊ねた。
「古代文明時代は、ここには何があったんだ? エティス」
「この地方は学園大陸都市でした。それ以上の情報は私のデータにありません」
そう答えた執事風の男性、エティスは、実はエイネリアと同じ古代遺跡で発見された『警備ガイドアクター』である。コウと朔耶が回収に成功し、その後レイオス王子が譲り受けた。
エイネリアと違って個別の名前も持っていなかったので、レイオス王子が名付け親となった。
ちなみに、王子が名付けたエティスのフルネームは『プロプリネ・ヴィ・エティス』。彼の主要武装である古代の光線兵器にちなんだ『紫の光槍』という意味が込められているそうな。
施設内警備専用機だったエティスは、施設外に関する情報が登録されておらず、古代文明時代の世界に関する詳細なデータを持っていないので、レイオス王子の質問にも答えられなかったのだ。
「ふーむ、そうだったのか……お前の能力の事ばかり注視していた俺の見落としだな」
件のリゾート遺跡のあった無人島を出発して十日余り、レイオス王子率いる『金色の剣竜隊』のメンバーに加えるに当たり、エティスが持つ様々な武装や可能な戦闘行動について調べられた。が、戦闘員としての活動以外に何が出来るかの把握を怠っていたようだ。
すると、エティスの代わりに、エイネリアが先程のレイオス王子の問いに答えた。古代魔導文明時代――『オフューバム・ダゥル時代』のその場所には何があったのかを教えてくれる。
オヒューバム・ダゥルの時代は世界中が転移回廊で繋がれていたので、交通機関などはほとんど無く、基本的に娯楽目的以外での乗り物は存在しなかったという。現在眼下に見える港街の辺りも、整備された公園が続いていたそうな。
「『転移回廊』か……アンダギー博士が研究しているようだが――」
「実現したら世界が変わりますな」
良くも悪くも、世界の在り方に革新をもたらせる事は間違いないと、レイオス王子とガウィークは意見を一致させる。
魔導船団を見上げて驚いたり、手を振ったりする人々。走って追い掛ける子供達。そんな現地人達の様子を見下ろしながら港街の上空を通過して、いよいよオルドリア大陸の空域に入る。
遠くに薄らと雪化粧の掛かった高い山脈が見えた。頂上付近には城塞都市のような建物群もある。朔耶から得ているオルドリア大陸の情報によれば、あの一帯はグラントゥルモス帝国領との事だが、古代では実験施設が集中する地区だったらしい。
その山の麓に、大きな楕円形の建物施設があった。
「あれは闘技場か何かか?」
「あそこは『機械車競技場』ってゆーらしいよ」
魔術式の動力を使って走る車両で競争をする為の施設らしいと、コウがレイオス王子に説明する。オルドリアには現在、グラントゥルモス帝国製の機械車と、ティルファ製の機械車が普及の途にあるという。
「ほう、そんなのがあるのか」
興味を持つレイオス王子。
「アンダギー博士にグランダール製の魔導車両を作らせて、競争に参加してみたいな」
グランダールでは魔導技術で走る車両が普及する前に、魔導船のような航空機が発達したので、未だに地上では馬車が主流だ。その辺りは飛び抜けた魔導技術による弊害なのか、少々歪んだ発展の仕方をしているのかもしれないとは、ガウィーク隊の若手魔術士ディスの弁。
そのまま順調に飛行を続ける魔導船団の前方に、森林に囲まれた湖の街が見えて来た。
「あれが『知の都』を称するティルファか」
湖の中島に立つティルファの中枢施設、『中央研究塔』も目を引くが、特徴的なのは湖の周りに広がるカオスな街並みだ。様々な発明品や工作機械で覆われたその様相は、何だかアンダギー博士の研究所を思わせる。
エイネリアによれば、古代では学園大陸都市に住む研究員達の居住区が集中している場所だったらしい。過去の時代のこの一帯にこれほどの森は存在しておらず、地形や環境が随分と違っているそうだ。
「ふむ。まあ何千年も経てば、森くらい育つという事か」
やがて森林地帯を抜けた飛行船団は、円形五重層の防壁が特徴的な『王都フレグンス』の上空に到着した。
「あれがサクヤの所属するフレグンス王国か」
「中々立派な都ですな」
金色の剣竜隊やガウィーク隊のメンバーの他、手の空いている船員達も甲板に出て、その特徴的な王都の街並みを見下ろしている。
城下街には幾つか規模の大きい建物が立っている。その中には、山の麓に見た機械車競技場らしき施設もあった。
「ここにも機械車競技場が造られているのだな」
「機械車の競技じたいは、まだじゅんび中らしいよ?」
レイオス王子の呟きにコウが答えたりするうち、魔導船団は速度を落としながら王都上空の中心近くまでやって来た。正面には立派なお城が見える。
本日の到着予定は朔耶を通じてフレグンス王国側にも知らされており、王宮区に着陸地点が用意されているとの事だった。
「あの開けた場所が着陸地点でしょうかね?」
「流石に城の敷地に下ろさせる事は無いと思うが……」
ガウィークとレイオスが地上の様子を覗いながらそんな話をしていると、城の上階付近の窓から黒い翼が飛び出し、魔導船団の近くまで上がって来た。
「朔耶だー」
「サクヤちゃんだー」
コウとカレンが手を振ると、朔耶も手を振り返しながら甲板に下りて来る。
「いらっしゃーい、あそこの開けた場所に下ろしてくれる?」
「あそこで良いのか?」
元々竜籠の発着場として整備した場所だという朔耶の説明を受けた魔導船団は、フレグンス城の庭園と繋がる竜籠発着場へと降下して行った。
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