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番外編 元妻とストーカーの馴れ初め。
犠牲と書いて、代償と読む
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パチパチと燃え盛る炎を背に、私たちは急いで公爵の寝室へと向かう。
火の手がここまで上がれば、きっと公爵も動かずにはいられない。
大切な玉璽を持って、この屋敷から離脱を図ることだろう。
そこを狙うのが、私たちだ。
きっと急なことで護衛も手薄だろう。
前を走るビーくんに続けば、ピタリと止まった足が私の行手を阻んだ。
「モンテクリスト卿、どちらに行かれるおつもりで?」
そう問うたビーくんに、私は顔をそらす様にして下を向いた。
バレてはまずい。
面識はないとはいえ、出来るだけ私と言う存在は知られないほうがいい。
モンテクリストは、少し慌てた様な声をあげて、ビーくんに声を荒げた。
「う、うるさい!子供風情が、こんなところになんの様だ!」
「おやおや、大公のご配慮で貴方の様子を伺いに来たと言うのに、随分な言い草ですね。」
ビーくんの上手い言いがかりに、息を呑んだモンテクリストは一本後ろに下がり唇を噛み締めている。
危険ですから、安全なところまでお連れしますとビーくんが手を伸ばすも、その手から顔を背ける。
「小汚い下賤な傭兵上がりの手を借りるつもりはない。」
「……下賤とは随分な言いようね。」
ふふっと笑ってビーくんの後ろから顔を出せば、公爵の身体がびくりと跳ねた。
顔を知られるのは避けたいが、可愛いビーくんが酷いこと言われて黙ってはいられない。
「彼は立派な、王子直属の騎士なのよ?そんな方捕まえて下賤なんて、失礼じゃなぁい?」
みるみる青ざめる公爵に、ビーくんはゆっくり近寄ると、その手を捻り上げた。
呻き声を上げる公爵の足元に、金色の輝きが音を立てて転がった。
私も実物を始めてみる、あれがあれば一生遊んで暮らせそうだ、じゅるり。
「あら何か落とされましたよ。」
そう言って拾い上げれば、公爵はビーくんの手から逃れようと暴れ出す。
その手をさらに強く捻りあげると、ビーくんは公爵を地面に押さえつけた。
「この!無礼な!皇太子妃、いくらなんでもこれは許されることではありませんよ!」
「どうして?少なくともそんな報復じゃ足りないことを、貴方はしてきたはずだけど?」
私がにっこり笑って見せると、公爵の顔がみるみる色を変えていく。
どうしてこうも、貴族というのは馬鹿が多いのか。
「ビーくん、死なない程度なら何してもいいよ。」
公爵の元で、孤児として買われたビーくん。
調べによれば、そこから逃げ出して保護された先が王子のいた騎士団だった。
因縁のある人間に、自分から鉄槌を下すのは彼のこれからにとってもいい転機になるだろう。
「この家と共に灰になれ。」
そう言って公爵に拳を叩きつけたビーくん。
グデンとした公爵を一室に放り入れて、二人でまた廊下を歩き出す。
「……良かったんですか?」
「何が?スッキリしたでしょ?」
「後で、叱られませんかね……。」
「大切な部下がコケにされたんだから、あの王子なら一緒に怒ってくれるわよ。」
少なくとも私ならそうする。
へらっと笑ってみせれば、少しこおばった顔を緩める。
早くみんなの元へ戻ろうと、踵を返せばきらりと光が目に入る。
反射的に閉じた目と、後ろからの引っ張られる感覚に思わずよろけた。
「何者だ。」
そう冷たく言い放つビーくんが、私の身体を支えている。
「失礼な番犬くんだね。」
第二王子に決まってるだろう。
そう放ったバカは、私に向かってもう一度剣を向けた。
火の手がここまで上がれば、きっと公爵も動かずにはいられない。
大切な玉璽を持って、この屋敷から離脱を図ることだろう。
そこを狙うのが、私たちだ。
きっと急なことで護衛も手薄だろう。
前を走るビーくんに続けば、ピタリと止まった足が私の行手を阻んだ。
「モンテクリスト卿、どちらに行かれるおつもりで?」
そう問うたビーくんに、私は顔をそらす様にして下を向いた。
バレてはまずい。
面識はないとはいえ、出来るだけ私と言う存在は知られないほうがいい。
モンテクリストは、少し慌てた様な声をあげて、ビーくんに声を荒げた。
「う、うるさい!子供風情が、こんなところになんの様だ!」
「おやおや、大公のご配慮で貴方の様子を伺いに来たと言うのに、随分な言い草ですね。」
ビーくんの上手い言いがかりに、息を呑んだモンテクリストは一本後ろに下がり唇を噛み締めている。
危険ですから、安全なところまでお連れしますとビーくんが手を伸ばすも、その手から顔を背ける。
「小汚い下賤な傭兵上がりの手を借りるつもりはない。」
「……下賤とは随分な言いようね。」
ふふっと笑ってビーくんの後ろから顔を出せば、公爵の身体がびくりと跳ねた。
顔を知られるのは避けたいが、可愛いビーくんが酷いこと言われて黙ってはいられない。
「彼は立派な、王子直属の騎士なのよ?そんな方捕まえて下賤なんて、失礼じゃなぁい?」
みるみる青ざめる公爵に、ビーくんはゆっくり近寄ると、その手を捻り上げた。
呻き声を上げる公爵の足元に、金色の輝きが音を立てて転がった。
私も実物を始めてみる、あれがあれば一生遊んで暮らせそうだ、じゅるり。
「あら何か落とされましたよ。」
そう言って拾い上げれば、公爵はビーくんの手から逃れようと暴れ出す。
その手をさらに強く捻りあげると、ビーくんは公爵を地面に押さえつけた。
「この!無礼な!皇太子妃、いくらなんでもこれは許されることではありませんよ!」
「どうして?少なくともそんな報復じゃ足りないことを、貴方はしてきたはずだけど?」
私がにっこり笑って見せると、公爵の顔がみるみる色を変えていく。
どうしてこうも、貴族というのは馬鹿が多いのか。
「ビーくん、死なない程度なら何してもいいよ。」
公爵の元で、孤児として買われたビーくん。
調べによれば、そこから逃げ出して保護された先が王子のいた騎士団だった。
因縁のある人間に、自分から鉄槌を下すのは彼のこれからにとってもいい転機になるだろう。
「この家と共に灰になれ。」
そう言って公爵に拳を叩きつけたビーくん。
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「……良かったんですか?」
「何が?スッキリしたでしょ?」
「後で、叱られませんかね……。」
「大切な部下がコケにされたんだから、あの王子なら一緒に怒ってくれるわよ。」
少なくとも私ならそうする。
へらっと笑ってみせれば、少しこおばった顔を緩める。
早くみんなの元へ戻ろうと、踵を返せばきらりと光が目に入る。
反射的に閉じた目と、後ろからの引っ張られる感覚に思わずよろけた。
「何者だ。」
そう冷たく言い放つビーくんが、私の身体を支えている。
「失礼な番犬くんだね。」
第二王子に決まってるだろう。
そう放ったバカは、私に向かってもう一度剣を向けた。
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