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第71話:王冠の換金
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「……本気か、ジュリアンナ。これら全てを売るつもりなのか?」
王城の大広間。
かつてレイモンド殿下が舞踏会を開き、毎夜シャンパンを抜いていたその場所は、今や巨大なオークション・ハウスと化していました。
「ええ、もちろんですわ。マックス様」
私は木槌を片手に、会場に並べられた品々を見渡しました。
そこにあるのは、王家が数代にわたって溜め込んできた財宝の山です。
金銀の食器、巨大な絵画、毛皮のコート、そして宝石を散りばめた家具。
「これらは資産に見えますが、倉庫に眠らせている限り、何の価値も生まない死蔵品(デッドストック)です」
私は解説しました。
「経済学において重要なのは流動性。……つまり、必要な時にすぐ使える現金に変えられるかどうかです。今のこの国に必要なのは、飾っておく壺ではなく、道路を直すための砂利とセメントを買うお金です」
「なるほど。……過去の栄光を、未来のインフラに変換するわけか」
マックス様が納得して頷いたとき、会場には国内外から招待された大商人たちが詰めかけていました。
特に、アイゼンガルド大橋の開通によって豊かになった隣国の商人たちが、目を輝かせています。
「さあ、始めましょうか。……国家解体セールの開催です!」
カァンッ!
私の木槌が鳴り響き、競売がスタートしました。
「まずは、ロット番号1番。……レイモンド殿下が伝説の聖剣と称して飾っていた、純金製の儀礼用ソードです」
ロッテが、やたらと装飾過多な剣を掲げました。
刀身にはルビーが埋め込まれ、柄はダイヤで覆われています。
「見た目は豪華ですが、重心がおかしくて実戦では使えません。あと、刀身は金メッキですので、強く振ると曲がります」
「ぶっ……」
会場から失笑が漏れました。
「ですが、金としての地金価値と、ルビーの粒は本物です。……素材としての価値で、金貨五百枚から!」
「六百!」
「七百!」
商人たちが札を上げます。彼らは剣としてではなく、バラして部品取りにするつもりでしょう。
かつて殿下が「この剣こそ王者の証!」と自慢していた剣は、あっという間に貴金属の塊として落札されました。
「次は、ロット番号15番。……シルヴィア様が『世界に一つだけの特注品』と自慢していた、ピンクダイヤモンドのネックレスです」
ロッテがベルベットのクッションに乗せたネックレスを運びます。
「鑑定の結果、これは、ピンクに着色した水晶であることが判明しました」
「ええーっ!?」
会場がどよめきます。
「シルヴィア様は、悪徳商人に騙されて、ガラス玉をダイヤの値段で買わされていたようです。……ですが、細工自体は精巧ですので、工芸品としての価値はあります。金貨五十枚から!」
「……やれやれ。見る目がないというのは、罪だな」
マックス様が呆れたように呟きます。
彼らが本物だと信じていた権威や富は、鑑定の光を当てた瞬間、メッキが剥がれていくのです。
そして、競売は進み、最後の目玉商品が登場しました。
「ロット番号、最後。……王国の王冠です」
会場が静まり返りました。
黄金のフレームに、巨大なサファイアとエメラルドが輝く、国王の権威そのものです。
「……ジュリアンナ。それは、新しい統治者(俺)が被るべきものではないのか?」
マックス様が尋ねました。
確かに、通常なら新政権が継承するべきレガリア(王権の象徴)です。
しかし、私は首を横に振りました。
「マックス様。一度被ってみてください」
マックス様は言われるままに王冠を手に取り、頭に乗せようとしました。
「……重っ!?」
彼の首がガクッとなりました。
「重すぎる。それに、内側の金具が頭に食い込んで痛いぞ。……こんなものを被って執務ができるか」
「ええ。これは人間工学を無視した、ただの豪華な重りです。……機能性を重視するアイゼンガルドの新政権には、不要な長物ですわ」
私はニッコリと微笑みました。
「それに、真のリーダーシップとは、冠の輝きではなく、その人の背中で示すものです。……あなたには、無骨な鉄の兜のほうがよほどお似合いですわ」
「……違いない。君に言われると、これがただの漬物石に見えてくるから不思議だ」
マックス様は王冠をロッテに放り投げました。
ロッテが「わああっ! 高い漬物石です!」と慌ててキャッチします。
「さあ、この王冠! 溶かして金塊にするもよし、バラして指輪にするもよし! ……得られた収益は、全て国立病院と下水道の建設費に充てられます!」
「金貨一万枚!!」
「一万五千枚!!」
商人たちの熱狂的な声が上がりました。
かつて民衆を見下ろしていた王冠は、今、民衆の病を治し、汚水を浄化するための資金へと生まれ変わろうとしていました。
数時間後……。
大広間には、天井に届くほどの金貨の山が築かれていました。
「……すごいですね、お嬢様。ガラクタに見えたものが、こんな大金になるなんて」
ロッテが金貨の山を見て、うっとりしています。
「ええ。これが創造的破壊です。……古い体制を解体し、流動化させることで、新たな経済の血流を生み出すのです」
私は手帳に、本日の売上総額を書き込みました。
この資金があれば、王都のメインストリートを全て舗装し、崩壊した水門を最新鋭のものに作り替えてもお釣りが来ます。
「一方で、スラムの長屋では……」
私はふと、窓の外を見ました。
あの二人は今頃、自分たちが大切にしていた宝物が偽物と鑑定され、叩き売られたことも知らずに、今日のパン代を稼ぐために慣れない労働(ドブさらい)に汗を流していることでしょう。
「さあ、マックス様。……このお金で、王都を世界一住みやすい街にリノベーションしますよ!」
「ああ。頼んだぞ、設計士殿」
空になった大広間で、私たちは固い握手を交わしました。
虚飾の時代は終わり、実利と機能の時代が始まったのです。
王城の大広間。
かつてレイモンド殿下が舞踏会を開き、毎夜シャンパンを抜いていたその場所は、今や巨大なオークション・ハウスと化していました。
「ええ、もちろんですわ。マックス様」
私は木槌を片手に、会場に並べられた品々を見渡しました。
そこにあるのは、王家が数代にわたって溜め込んできた財宝の山です。
金銀の食器、巨大な絵画、毛皮のコート、そして宝石を散りばめた家具。
「これらは資産に見えますが、倉庫に眠らせている限り、何の価値も生まない死蔵品(デッドストック)です」
私は解説しました。
「経済学において重要なのは流動性。……つまり、必要な時にすぐ使える現金に変えられるかどうかです。今のこの国に必要なのは、飾っておく壺ではなく、道路を直すための砂利とセメントを買うお金です」
「なるほど。……過去の栄光を、未来のインフラに変換するわけか」
マックス様が納得して頷いたとき、会場には国内外から招待された大商人たちが詰めかけていました。
特に、アイゼンガルド大橋の開通によって豊かになった隣国の商人たちが、目を輝かせています。
「さあ、始めましょうか。……国家解体セールの開催です!」
カァンッ!
私の木槌が鳴り響き、競売がスタートしました。
「まずは、ロット番号1番。……レイモンド殿下が伝説の聖剣と称して飾っていた、純金製の儀礼用ソードです」
ロッテが、やたらと装飾過多な剣を掲げました。
刀身にはルビーが埋め込まれ、柄はダイヤで覆われています。
「見た目は豪華ですが、重心がおかしくて実戦では使えません。あと、刀身は金メッキですので、強く振ると曲がります」
「ぶっ……」
会場から失笑が漏れました。
「ですが、金としての地金価値と、ルビーの粒は本物です。……素材としての価値で、金貨五百枚から!」
「六百!」
「七百!」
商人たちが札を上げます。彼らは剣としてではなく、バラして部品取りにするつもりでしょう。
かつて殿下が「この剣こそ王者の証!」と自慢していた剣は、あっという間に貴金属の塊として落札されました。
「次は、ロット番号15番。……シルヴィア様が『世界に一つだけの特注品』と自慢していた、ピンクダイヤモンドのネックレスです」
ロッテがベルベットのクッションに乗せたネックレスを運びます。
「鑑定の結果、これは、ピンクに着色した水晶であることが判明しました」
「ええーっ!?」
会場がどよめきます。
「シルヴィア様は、悪徳商人に騙されて、ガラス玉をダイヤの値段で買わされていたようです。……ですが、細工自体は精巧ですので、工芸品としての価値はあります。金貨五十枚から!」
「……やれやれ。見る目がないというのは、罪だな」
マックス様が呆れたように呟きます。
彼らが本物だと信じていた権威や富は、鑑定の光を当てた瞬間、メッキが剥がれていくのです。
そして、競売は進み、最後の目玉商品が登場しました。
「ロット番号、最後。……王国の王冠です」
会場が静まり返りました。
黄金のフレームに、巨大なサファイアとエメラルドが輝く、国王の権威そのものです。
「……ジュリアンナ。それは、新しい統治者(俺)が被るべきものではないのか?」
マックス様が尋ねました。
確かに、通常なら新政権が継承するべきレガリア(王権の象徴)です。
しかし、私は首を横に振りました。
「マックス様。一度被ってみてください」
マックス様は言われるままに王冠を手に取り、頭に乗せようとしました。
「……重っ!?」
彼の首がガクッとなりました。
「重すぎる。それに、内側の金具が頭に食い込んで痛いぞ。……こんなものを被って執務ができるか」
「ええ。これは人間工学を無視した、ただの豪華な重りです。……機能性を重視するアイゼンガルドの新政権には、不要な長物ですわ」
私はニッコリと微笑みました。
「それに、真のリーダーシップとは、冠の輝きではなく、その人の背中で示すものです。……あなたには、無骨な鉄の兜のほうがよほどお似合いですわ」
「……違いない。君に言われると、これがただの漬物石に見えてくるから不思議だ」
マックス様は王冠をロッテに放り投げました。
ロッテが「わああっ! 高い漬物石です!」と慌ててキャッチします。
「さあ、この王冠! 溶かして金塊にするもよし、バラして指輪にするもよし! ……得られた収益は、全て国立病院と下水道の建設費に充てられます!」
「金貨一万枚!!」
「一万五千枚!!」
商人たちの熱狂的な声が上がりました。
かつて民衆を見下ろしていた王冠は、今、民衆の病を治し、汚水を浄化するための資金へと生まれ変わろうとしていました。
数時間後……。
大広間には、天井に届くほどの金貨の山が築かれていました。
「……すごいですね、お嬢様。ガラクタに見えたものが、こんな大金になるなんて」
ロッテが金貨の山を見て、うっとりしています。
「ええ。これが創造的破壊です。……古い体制を解体し、流動化させることで、新たな経済の血流を生み出すのです」
私は手帳に、本日の売上総額を書き込みました。
この資金があれば、王都のメインストリートを全て舗装し、崩壊した水門を最新鋭のものに作り替えてもお釣りが来ます。
「一方で、スラムの長屋では……」
私はふと、窓の外を見ました。
あの二人は今頃、自分たちが大切にしていた宝物が偽物と鑑定され、叩き売られたことも知らずに、今日のパン代を稼ぐために慣れない労働(ドブさらい)に汗を流していることでしょう。
「さあ、マックス様。……このお金で、王都を世界一住みやすい街にリノベーションしますよ!」
「ああ。頼んだぞ、設計士殿」
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