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8話

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 「セイジュ君、目覚ましい成果じゃない!」

 「ありがとうございます」

 コルグに殴られた傷もすっかり癒え再び右腕のリハビリを開始してから早半年、この世界の年末も近づいてきた治療院で今まではボールすら持てなかった右手はボールを落とさず持てるようになった。

 「2年頑張ってきた成果が出てきたのかしらね」

 「そうかもしれないですね。先生には毎日ヒールをかけてもらい感謝しています」

 「お仕事だし気にしないで?それにいくらヒールをかけても本人の頑張りがなくては意味ないもの」

 まぎれもない俺の努力の成果だとモナ先生が優しい笑顔をうかべ俺の頭をなでてくれた。
そしてそんな行為を俺はうれしく思えるのはやはり今の俺はだいぶ精神的な部分で6歳児になってしまっているということなんだと思う。

 「今日このあとは本を返しにいくの?」

 「はい」

 「気を付けていくのよ?」

 「はい!モナ先生、今日もありがとうございました」

 リハビリでかいた汗を拭き、先生に礼をして俺はアンジェリーナのいる公爵邸へとなれた道をあるいた。

 「少し感覚が戻ってきた感じがするんだよな…しかもたった数週間でいきなりだ…」

 俺は自分の右腕に少し目線を向け指先を動かそうとするとピクピクと動いたことを見ながらつぶやいた。

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 「こんにちわ」

 「お?セイジュ君こんにちわ。本の返却かな?」

 「はい」

 公爵邸につくと門番へ挨拶をすると門番はにこやかに挨拶を返してくれた後、邸宅の中へと消えていった。

 「御機嫌ようセイ!今回は少し遅かったみたいですわね!」

 「アンジェリーナ様、こんにちわ、すみません今回お借りした本は少し難しくて…」

 今回借りた本は魔法の属性に関するものや各属性の特性など少々難しい本だったためあれこれ試しているうちにのめりこみ結果返却が遅くなってしまった。

 「まぁいいですわ!では次の本を選びに行きますわよ」

 「いつもご厚意に甘えるばかりで…何もお返しもできず」

 「気にしてませんわ!あんな黴臭い場所にある誰も読まない本なんですもの!」

 「え?アンジェリーナ様やハンス様はお読みになられないのですか?」

 「お兄様はわかりませんが、私はまったく読む気はありません!」

 「えぇ!?もったいない!」

 「そうはおっしゃっても毎日毎日先生に勉強やマナー、ダンスなどもやらされているのよ?自由な時間はゆっくりしたいのですわ!」

 「大変ですね…」

 「しかたありませんわ!これも公爵令嬢としての務めですわ!」

 書庫に向かう途中いつもの雑談をしながら俺はアンジェリーナの後を歩いた。

 「アンジェリーナ様、ではこの本をお借りします。いつもありがとうございます」

 「ですから気にしなくてもいいですわ!」

 「ここにおいででしたか、お嬢様。セイジュ様もおこしでしたか」

 書庫を出た俺たちにセルジュが声をかけてきた。

 「セルジュ様、おじゃましております」

 「なんのようかしら?勉強…算術の時間はまだまだ先でしょう?」

 「それが先生が風邪をおひきになられたようで代役も間に合わず今回は中止となりました」

 「なんですって!なんてツイてますの!」

 セルジュの言葉を聞き花が咲いたような笑顔でアンジェリーナは喜んだがセルジュの次の言葉でこの世の終わりのような顔に変わった。

 「ですので次の日までにやるようにと算術の問題をお預かりしております」

 「え゛…」

 「こちらの5枚にございます」

 「ご、5枚もですって!無理ですわ!!そんな地獄に耐えられませんわっ!」

 「あっ…」

 「セイジュ様申し訳ありません。ありがとうございます」

 「いえ…ん?」

 「セイ!そのようなもの燃やしてしまってちょうだい!…どうしたんですの?」

 セルジュから5枚の問題用紙をひったくったアンジェリーナは問題をちらっと見るとあたりにぶちまけ俺はそれを焦って拾い上げ問題を見た。

 「いえ、ただこれくらいの問題だとやり方さえわかればそこまで難しくはないかと…」

 「えっ!?」

 「セイジュ様は算術がお出来に?」

 「あ、はい。少しですが…」

 「どこでお習いに?」

 「治療院で借りた本などで…」

 「独学にございますか?」

 「はい、それで最近は本を借していただいてるので少しでもお返ししたくて、帰る時間までの会計をまとめる手伝いなどをしている程度ですが…なので多少は…」

 「な、なんと…」

 俺の言葉を聞き、いつもはにこやかな表情を崩さないセルジュがめずらしく驚いたような顔で俺をマジマジとみていた。

 「…セイ!」

 「は、はい!?」

 「もう一度この問題をじっくりみて!」

 「え?、はい」

 「どうです?本当にわかるんですの?」

 「え?ええ、もうこの紙の問題は答えもわかります」

 「はっ?」

 「へっ?」

 前世の記憶を思い出した俺にはこのアンジェリーナの課題は簡単すぎた。なぜなら小学校1,2年程度で習う問題だったからだ。

 「セイ!わたしに算術をおしえなさない!」

 「え?そんな恐れ多い!」

 「いいから!わたくしの部屋にいきますわよ!」

 「え?ちょっ!アンジェリーナ様!公爵様のご許可も得ずお部屋に勝手に入るのは…」

 「そんなの気にしなくてもいいですわっ!私の今後の人生がかかっていますのよっ!」
 
 「えぇ…!?」

 「セイジュ様、ご許可は私がおとりになりますのでお嬢様にお教え願いますか?」

 「えぇぇ!?」

 優雅に一礼したセルジュは踵を返えすと足早に報告に行き、俺は小さな女の子のどこにそんな力があるの?と思うほどの強い力でアンジェリーナに左手首をむんずと摑まれ、興奮気味に顔を紅潮させキラキラとした目で俺を引きずるように自室につれさられていった。

 


 

 
 
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