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27話
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「セイはどうしておる?」
「はい、取引先がある街や村で手に入れたらしい品々で何かをしているようでして…最近は治療院に行くくらいで他は納品の旅と部屋の往復の日々でして…」
セイジュが初めて旅を、そしてアンジェリーナの入学より2週間ほどたったが、それまでの間、1度も姿を見せないセイジュにハスクがモンドへ近況を尋ねた。
「そうか、充実しておるようだな」
「はい…おかげさまで…」
「………」
その様子を腕を組みにらみつけるようにただただアンジェリーナがみていてモンドは視線に耐えきれずちらちらとみては無言を通しているアンジェリーナに冷や汗をながした。
「あの……ハスク様それで本日はどのようなご用件で…」
「モンドよ、この状況を見てわかるであろう…そういうことだ…」
「な、なるほど…ア、アンジェリーナ様…セイは本日帰ってきますので…明日こちらに伺うよういたしますので」
「べ、別に!セイが来たくないようであれば無理強いはいたしておりませんわ!」
「そ、そうですか…」
ツンと腕を組んだまま顔をそむけたアンジェリーナをみてハスクがどうにかしろと目線を送りモンドが汗をたっぷりかきながら頷き、侯爵邸をあとにした。
===================================
「アンジェリーナお嬢様、セイジュ様が…」
「すぐにとおして」
「は、はい」
翌日、父に言われ俺はアンジェリーナを訪ねた。
「お久しぶりですアンジェリーナ様、学園生活をお楽しみいただいておりますか?」
「あら、どなたかと思ったらセイじゃありませんの!おかげさまで充実した日々をすごせておりますわ!そちらも旅が楽しくて私のことなどお忘れになっておられたのではないですか?」
しばらくぶりに見たアンジェリーナは悪役令嬢ではなくみごとなツンデレお姫様みたいになってしまっていた。
「アンジェリーナ様を忘れたりはしていないですが、学園生活が始まってすぐに伺うのはお邪魔かなと思いまして」
「私はセイを邪魔にしたことなど一度もございませんわ!」
「だからです。いつお伺いしてもアンジェリーナ様はご自身のご負担も関係なくお優しく接してくれるからです」
「ふぇ!?…も、もう!口だけはご上手になられたのね!まぁいいですわ、旅の出来事でもお話してくださる?」
「はい!アンジェリーナ様も学園での出来事をお教えください」
チョロすぎてすぐにデレたアンジェリーナは楽しそうに俺の話を聞き、自身の学園での生活を話してくれた。
===================================
「…というわけで学園での生活は申し分ないのですが多数のお方がいらっしゃり部屋や施設によっては湿気や乾燥がひどいときがあるのが困りどころですわ」
「そうですか…なら本日もってきたものが多少はお役に立てるかもしれませんね」
「え?セイは何ももってないではないですか」
「セルジュ様に検品をしていただいているんです」
「え?そうなのですか?」
「はい」
それから少し経った頃、セルジュが部屋を訪れ綺麗に梱包しなおされた品をアンジェリーナに手渡した。
「アンジェリーナお嬢様、こちらセイジュ様よりお嬢様へとお預かりした品にございます」
「ありがとう…もう、セイの作ったものでしたら全然大丈夫ですのに」
「そう言っていただけるのはうれしい限りですが決まりは決まりですしセルジュさんが困ってしまいますよ」
「それはそうですが…まぁいいですわ!それでこれはなんですの?」
「それは一番大きい瓶は全身用で中くらいのものは髪、そして小さい瓶ですがそれは唇に使います」
大中小と3本の瓶を前に俺は用途を説明し始めた。
「それで…使うとどうなりますの?」
「はい、どれも手で伸ばすように使うと溶けて馴染みやすくなるのですがどれも乾燥と日焼けを防ぎます」
「すごいですわね…」
「ありがとうございます。全身用は爪などにもお使いになられます。はじめて行った取引先はホルマトロ公爵家の領地でたまたま路上で商売をなさっている方々がおりまして、そこでこの材料に出会いまして…何も考えず手持ちのお金すべて使って買い込んでしまいまして…あはは…その日の夜にめちゃくちゃ怒られました…」
「セイ…あなた…計画性というものを…」
「すいません…」
瓶を見ながら驚いていたアンジェリーナだったが俺の話を聞くにつれ俺をあきれたようにみて深いため息をついた。
「では…セイジュ様はこちらを完成なさるために今まで?」
「え?そうですね。それで今回行った取引先にいくつか気になる商品があったのでそれを購入して今日の朝方に完成できたのでお持ちしたんですよ」
「そ、そうにございますか…お体には十分ご自愛を…」
「はい…さきほどモナ先生にも…おっしゃっていただきましたので…気を付けます」
俺は目の下のクマをみて激怒したモナ先生を思い出しよほど苦々しい表情をしたのかその顔を見たアンジェリーナがすっと立ち上がると俺の前に歩み出てガシッと両肩をおさえてきた。
「セイ…約束しなさい!どれほど熱中していてもかならず日をまたぐ前には睡眠をとること!」
「え?それは少々厳し…」
「いいですわね!守らなければ…わかりますわよね?」
「は、はい…」
「ふむ。わかればいいんです。それでよろしいですわ」
ずいっと顔を寄せたアンジェリーナの目が怒りに満ち溢れているのを感じ取ったので俺は素直に…恐怖に屈し頷いた。
そして、その後アンジェリーナの手に手作り保湿クリームを塗って実際に使い方をレクチャーしているとバンと激しくドアが開いた。
「セイちゃん!」
「おっお母様!?」
「うわぁっ!?」
現れたのはカリーナで俺をみつけると驚く俺たちを無視しづかづかと近づき先ほどのアンジェリーナのように両肩を掴み有無を言わせぬ必死な形相で声をかけてきた。
「報告を聞きました!」
「え?な、なんのでしょうか…」
「アンジェリーナへ送った品についてです!」
「こ、これにございますか?」
「これ?これなの!セルジュ!?」
「そ、そうにございます奥様」
「セイちゃん!私にも当然おつくりいただけますわよね!」
「え?そ、それは…」
「どうなの!?」
「アンジェちゃん!失礼するわね!!」
「へっ!?アメリアお姉さま!?もう、なんなんですのっ!?」
カリーナにグイグイ詰め寄られる俺をあっけにとられて見ていたアンジェリーナだったが先ほどのカリーナと同じようにアメリアが現れ我に返ったアンジェリーナだったが混乱は収まらなかった。
「お義理母様もおいでになっておられたのですね!」
「ええ!アメリアちゃんも聞いたのね!?」
「はい!、それでセイちゃん!私とお義理母様にもこれをおつくりになってくださいませ!」
「もう!お母様もお姉様も!久しぶりにセイが来たというのにぃ!!」
二人を見たアンジェリーナが瞳をウルウルさせながら地団太を踏むと二人はぎょっと顔をし落ち着きを取り戻し咳ばらいを一つした後、申し訳なさそうにアンジェリーナに声をかけた。
「アンジェ、ごめんなさい?セイちゃんがすごいものを作ってきたときいてつい我を忘れてしまいましたわ」
「アンジェちゃんごめんなさい…」
「いえ、わかってもらえればそれでいいですわ」
「あ、あの…お二人への分もお持ちしてお渡ししましたが…」
「え?」
「はい、私が確かにセイジュ様よりお預かりしお二人の元へ伺う途中ハスク様とハンス様が自らお二人にお渡しすると申されましたのでお渡しいたしました」
「……わかりました…行きますわよアメリア」
「……はい、お義理母様」
話をきいた二人からスーッと表情が抜け落ちるとなぜか室内の気温が下がったかのように体に寒気を感じた。
「アンジェ、お邪魔してわるかったわねぇ…そうよね…セイちゃんが私たちに用意してないはずがないものね」
「アンジェちゃん、せっかくの場をお邪魔してしまってごめんなさいね…ええ、お義理母様…セイちゃんですもの」
申し訳なさそうにアンジェリーナに再び頭をさげた二人だったが顔をあげた表情は額に血管をうかばせ怒りをおさえた笑顔で俺もアンジェリーナも何も言えずうんうんと頷くことしかできない中、2人は部屋を後にした。
「な、なんだったんですの…」
「わ、わかりません」
二人を見送った俺たちに気を利かせたセルジュが新しいお茶とお菓子を用意してくれその後時間の許す限り俺はひさしぶりのアンジェリーナとの会話を楽しみ帰宅した。
================================
「それであなた達はセイちゃんの私たちへの心遣いを無視してご商売のおはなしをなさっていたのですわねぇ…」
「ひぃ!…お、おちつけカリーナ…実物を見て報告をきいたほうがわかりやすかったゆえ…あとできちんと手渡そうと思っておったのだ!な?ハンスよ」
「え、ええ…ですからお母様もアメリアもおちついて…」
「ハンス様?言い訳はゆっくり聞かせていただきますわ…」
「「 ひぃ~!! 」」
その日の夜、公爵家にはハスクとハンスの悲鳴が時々響いたそうだ。
「はい、取引先がある街や村で手に入れたらしい品々で何かをしているようでして…最近は治療院に行くくらいで他は納品の旅と部屋の往復の日々でして…」
セイジュが初めて旅を、そしてアンジェリーナの入学より2週間ほどたったが、それまでの間、1度も姿を見せないセイジュにハスクがモンドへ近況を尋ねた。
「そうか、充実しておるようだな」
「はい…おかげさまで…」
「………」
その様子を腕を組みにらみつけるようにただただアンジェリーナがみていてモンドは視線に耐えきれずちらちらとみては無言を通しているアンジェリーナに冷や汗をながした。
「あの……ハスク様それで本日はどのようなご用件で…」
「モンドよ、この状況を見てわかるであろう…そういうことだ…」
「な、なるほど…ア、アンジェリーナ様…セイは本日帰ってきますので…明日こちらに伺うよういたしますので」
「べ、別に!セイが来たくないようであれば無理強いはいたしておりませんわ!」
「そ、そうですか…」
ツンと腕を組んだまま顔をそむけたアンジェリーナをみてハスクがどうにかしろと目線を送りモンドが汗をたっぷりかきながら頷き、侯爵邸をあとにした。
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「アンジェリーナお嬢様、セイジュ様が…」
「すぐにとおして」
「は、はい」
翌日、父に言われ俺はアンジェリーナを訪ねた。
「お久しぶりですアンジェリーナ様、学園生活をお楽しみいただいておりますか?」
「あら、どなたかと思ったらセイじゃありませんの!おかげさまで充実した日々をすごせておりますわ!そちらも旅が楽しくて私のことなどお忘れになっておられたのではないですか?」
しばらくぶりに見たアンジェリーナは悪役令嬢ではなくみごとなツンデレお姫様みたいになってしまっていた。
「アンジェリーナ様を忘れたりはしていないですが、学園生活が始まってすぐに伺うのはお邪魔かなと思いまして」
「私はセイを邪魔にしたことなど一度もございませんわ!」
「だからです。いつお伺いしてもアンジェリーナ様はご自身のご負担も関係なくお優しく接してくれるからです」
「ふぇ!?…も、もう!口だけはご上手になられたのね!まぁいいですわ、旅の出来事でもお話してくださる?」
「はい!アンジェリーナ様も学園での出来事をお教えください」
チョロすぎてすぐにデレたアンジェリーナは楽しそうに俺の話を聞き、自身の学園での生活を話してくれた。
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「…というわけで学園での生活は申し分ないのですが多数のお方がいらっしゃり部屋や施設によっては湿気や乾燥がひどいときがあるのが困りどころですわ」
「そうですか…なら本日もってきたものが多少はお役に立てるかもしれませんね」
「え?セイは何ももってないではないですか」
「セルジュ様に検品をしていただいているんです」
「え?そうなのですか?」
「はい」
それから少し経った頃、セルジュが部屋を訪れ綺麗に梱包しなおされた品をアンジェリーナに手渡した。
「アンジェリーナお嬢様、こちらセイジュ様よりお嬢様へとお預かりした品にございます」
「ありがとう…もう、セイの作ったものでしたら全然大丈夫ですのに」
「そう言っていただけるのはうれしい限りですが決まりは決まりですしセルジュさんが困ってしまいますよ」
「それはそうですが…まぁいいですわ!それでこれはなんですの?」
「それは一番大きい瓶は全身用で中くらいのものは髪、そして小さい瓶ですがそれは唇に使います」
大中小と3本の瓶を前に俺は用途を説明し始めた。
「それで…使うとどうなりますの?」
「はい、どれも手で伸ばすように使うと溶けて馴染みやすくなるのですがどれも乾燥と日焼けを防ぎます」
「すごいですわね…」
「ありがとうございます。全身用は爪などにもお使いになられます。はじめて行った取引先はホルマトロ公爵家の領地でたまたま路上で商売をなさっている方々がおりまして、そこでこの材料に出会いまして…何も考えず手持ちのお金すべて使って買い込んでしまいまして…あはは…その日の夜にめちゃくちゃ怒られました…」
「セイ…あなた…計画性というものを…」
「すいません…」
瓶を見ながら驚いていたアンジェリーナだったが俺の話を聞くにつれ俺をあきれたようにみて深いため息をついた。
「では…セイジュ様はこちらを完成なさるために今まで?」
「え?そうですね。それで今回行った取引先にいくつか気になる商品があったのでそれを購入して今日の朝方に完成できたのでお持ちしたんですよ」
「そ、そうにございますか…お体には十分ご自愛を…」
「はい…さきほどモナ先生にも…おっしゃっていただきましたので…気を付けます」
俺は目の下のクマをみて激怒したモナ先生を思い出しよほど苦々しい表情をしたのかその顔を見たアンジェリーナがすっと立ち上がると俺の前に歩み出てガシッと両肩をおさえてきた。
「セイ…約束しなさい!どれほど熱中していてもかならず日をまたぐ前には睡眠をとること!」
「え?それは少々厳し…」
「いいですわね!守らなければ…わかりますわよね?」
「は、はい…」
「ふむ。わかればいいんです。それでよろしいですわ」
ずいっと顔を寄せたアンジェリーナの目が怒りに満ち溢れているのを感じ取ったので俺は素直に…恐怖に屈し頷いた。
そして、その後アンジェリーナの手に手作り保湿クリームを塗って実際に使い方をレクチャーしているとバンと激しくドアが開いた。
「セイちゃん!」
「おっお母様!?」
「うわぁっ!?」
現れたのはカリーナで俺をみつけると驚く俺たちを無視しづかづかと近づき先ほどのアンジェリーナのように両肩を掴み有無を言わせぬ必死な形相で声をかけてきた。
「報告を聞きました!」
「え?な、なんのでしょうか…」
「アンジェリーナへ送った品についてです!」
「こ、これにございますか?」
「これ?これなの!セルジュ!?」
「そ、そうにございます奥様」
「セイちゃん!私にも当然おつくりいただけますわよね!」
「え?そ、それは…」
「どうなの!?」
「アンジェちゃん!失礼するわね!!」
「へっ!?アメリアお姉さま!?もう、なんなんですのっ!?」
カリーナにグイグイ詰め寄られる俺をあっけにとられて見ていたアンジェリーナだったが先ほどのカリーナと同じようにアメリアが現れ我に返ったアンジェリーナだったが混乱は収まらなかった。
「お義理母様もおいでになっておられたのですね!」
「ええ!アメリアちゃんも聞いたのね!?」
「はい!、それでセイちゃん!私とお義理母様にもこれをおつくりになってくださいませ!」
「もう!お母様もお姉様も!久しぶりにセイが来たというのにぃ!!」
二人を見たアンジェリーナが瞳をウルウルさせながら地団太を踏むと二人はぎょっと顔をし落ち着きを取り戻し咳ばらいを一つした後、申し訳なさそうにアンジェリーナに声をかけた。
「アンジェ、ごめんなさい?セイちゃんがすごいものを作ってきたときいてつい我を忘れてしまいましたわ」
「アンジェちゃんごめんなさい…」
「いえ、わかってもらえればそれでいいですわ」
「あ、あの…お二人への分もお持ちしてお渡ししましたが…」
「え?」
「はい、私が確かにセイジュ様よりお預かりしお二人の元へ伺う途中ハスク様とハンス様が自らお二人にお渡しすると申されましたのでお渡しいたしました」
「……わかりました…行きますわよアメリア」
「……はい、お義理母様」
話をきいた二人からスーッと表情が抜け落ちるとなぜか室内の気温が下がったかのように体に寒気を感じた。
「アンジェ、お邪魔してわるかったわねぇ…そうよね…セイちゃんが私たちに用意してないはずがないものね」
「アンジェちゃん、せっかくの場をお邪魔してしまってごめんなさいね…ええ、お義理母様…セイちゃんですもの」
申し訳なさそうにアンジェリーナに再び頭をさげた二人だったが顔をあげた表情は額に血管をうかばせ怒りをおさえた笑顔で俺もアンジェリーナも何も言えずうんうんと頷くことしかできない中、2人は部屋を後にした。
「な、なんだったんですの…」
「わ、わかりません」
二人を見送った俺たちに気を利かせたセルジュが新しいお茶とお菓子を用意してくれその後時間の許す限り俺はひさしぶりのアンジェリーナとの会話を楽しみ帰宅した。
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「それであなた達はセイちゃんの私たちへの心遣いを無視してご商売のおはなしをなさっていたのですわねぇ…」
「ひぃ!…お、おちつけカリーナ…実物を見て報告をきいたほうがわかりやすかったゆえ…あとできちんと手渡そうと思っておったのだ!な?ハンスよ」
「え、ええ…ですからお母様もアメリアもおちついて…」
「ハンス様?言い訳はゆっくり聞かせていただきますわ…」
「「 ひぃ~!! 」」
その日の夜、公爵家にはハスクとハンスの悲鳴が時々響いたそうだ。
応援ありがとうございます!
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