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60話

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 「どいつが教皇の孫だ?」

 「わかりやせんが若くて身なりの良さそうなのが2,3人いるんでそいつらの中のどれかじゃねぇですかね」

 「あいかわらず雑な仕事だな」

 「けっへっへ!もうしわけありやせん。しかししっかり攫ってきたんではずんでくだせぇよ?」

 「ふん!わかっておるわ!」

 薄暗い洞窟内でたいまつを手に攫ってきた人々の顔を見渡しながら偉そうに言う身なりのいい男があきれながらも山賊のような男に金の入った袋を手渡していた。

 「マーリン様……私が身代わりになりますので…」

 「それはいけません…大丈夫です…きっと助けが来ます…」

 「ですが、このような山奥の数ある洞窟では…」

 「……きっとセイジュ様が…そうですきっとセイジュ様がお助けに来てくださいます。それまであなたはあの子たちを」

 「マーリン様……」

 マーリンが朗らかに笑うセイジュを思い出しぎゅっとこぶしを握り締め怖さを隠し笑顔をうかべ身代わりを申し出た女性へといった。

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 「セイジュ様、9つある洞窟めぼしはございますか?」

 「僕がおもうにここのラインにある3つの洞窟のどれかだとおもっております」

 「ふむ、国境を超えるとすればたしかにこの道が濃厚のようだ」

 「日が沈むまであと3時間ほどだとおもいますので残りの6つにはあとで来る兵の方々に回っていただきましょう」

 「そうですね、兵を2人連絡役で置いていきましょう」

 エドワードが指示をだし兵を2人待機させ6人となった戦力で目指す洞窟へと向かった。

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 「1つ目は不発…次はどうですかね」

 「エド、どうやら当たりのようだご丁寧に見張りがいる」

 「そのようですね、それでどうなさいますか?」

 「僕がやります」

 身をかがめ木々に隠れ様子を確認したセイジュが背中から細い筒のようなものを取り出し静かに木に登っていった。

 「何をなさるおつもりですかね」

 「さぁ私にもわからんよ…ただ今の彼はそうとうご立腹のようだから容赦はしないだろうね」

 「そ、そうですか」

 ハンスの言葉にエドワードはセイジュの怒りを買う相手にわずかばかりの同情をした。

 「よし……ふっ!ふっ!」

 「かはっ!」

 「ん?おい!どう…かはっ!」

 体に魔力を流し身体能力を上げたセイジュが吹き矢をすばやく2発撃ちだすと二人の見張りの首筋にささり見張り達は崩れ落ちるように倒れた。

 「見張りはもういないようです。いきましょう」

 「そ、そうだね」

 「セ、セイジュ様この短い特殊な矢は」

 「これは吹き矢といってこの筒を力いっぱい吹いて飛ばす矢です。あ、気を付けてください矢の先端には即効性の麻痺毒がたっぷり塗られておりますので」

 「!?わ、わかりました」

 淡々と答えたセイジュにエドワードは蒼い顔をしパッと反射的に両手を上げた。

 「捕まった方々が小分けにされて場所を散らされていなければいいのですが」

 「そうだね」

 気配を消し先頭を歩くセイジュは山賊のような男たちを発見するとすかさず吹き矢で倒していきエドワードは次々それを縛り上げていった。

 「複数の人の声が聞こえますね」

 「ああそのようだね、入り口は一つ、下手に突撃して人質にされたら手も足も出ない」

 「どうなさいますか、あまり時間もかけていられませんし」

 「これを使います」

 セイジュは二人の前に何かを練りこんでつくられた団子のようなものを数個だしてみせた。

 「それはなんだい?」

 「お二人とも私より後ろへこれは火をつけて使います」

 セイジュはそういうと持っていた手拭いで口と鼻を覆い団子をあぶりだすとわずかな煙が出始め煙を人がいる方へ風魔法で送り出した。

 「区別がつかんのでは仕方ないそれらしい者達全員つれていこう」

 「他の者達はどういたしやしょう」

 「奴隷商にでもうりとばしてしまえ」

 「へっへっへ!わかりやした」

 「あといくばくかしたら迎えが…ふぁぁ…なんだ…急に眠気が…」

 「……ぐぅーーーがぁーーーー」

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 「よし!全員眠ったようです、先に僕が煙を風で消し飛ばします」

 「わ、わかった、大丈夫になったら知らせてくれ」

 「はい」

 どさどさと倒れる音が聞こえ高いびきが聞こえるとセイジュは慎重に中を確認するとハンスに一声かけ中に突入し風魔法で煙をすべて消し飛ばし手拭いを外し安全を確認した後ふたりをよび寝ている男たちをすべて拘束した。

 「セイジュ様その団子のようなものはなんなのですか?」

 「これはいぶすした煙を吸うと眠ってしまう眠り玉と僕がよんでいる物です」

 「そ、そうですか…先ほどの麻痺毒といい随分と物騒なものをおつくりになられていたのですね」

 「もとは解毒剤をつくろうとあれこれ毒のある植物をしらべていたのですがその中で眠気を誘う効果のあるものや麻痺するものもありまして、それならば大きな怪我などをなさった方の痛みを抑え治療できるものが作れないかと思いつくったものです」

 「危険ではないのかい?」

 「痛みを麻痺で押さえ、眠らせることで治療しやすくする際は薄めたり少量にしたり調整してつかいますので今日のように原液や一気にいぶすことはそうそうありません」

 「そ、そうか」

 「はい、今度治療院にいった際にモナ先生にご意見を聞き改良したりして治療院でのみ使用できるようにとかんがえておりました」
 
 「そうなのですか…さすがセイジュ様ですね」

 「それよりも先ほどこの方は迎えが来るとおっしゃってましたのでそちらも拘束したいですね」

 「ああ、エドやっと我々の出番がきそうだな」

 「そうですね」

 しばりあげた男たちをひとまとめにしハンス達は洞窟をでて森の木々に身を隠し誘拐犯の仲間たちの到着を待った。

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 「うぉ!?なんだ!?急に馬車がぬかるみやがった!」

 「どうした!かはっ!」

 「なんなんだ!どうなっているんだ!?」

 「だ、だれだ!」

 「エド、馬車と馬はやるなよ」

 「心得ております!!」

 「なっ!?がっは!」

 数十分後1台の馬車が現れるとセイジュは水と土の魔法をつかいぬかるみを作り馬と馬車の動きを止め御者の横に座っていた男に吹き矢をふいて痺れさせハンスは御者を殴り飛ばし気絶させると騒ぎに気付いた数名が幌でおおわれた荷台からとびだしてきたがことごとくエドワードの攻撃に沈んだ。

 「さて、結局合流は間に合わなかったが馬車が2台あるし手分けして運び出そうか」

 「はい、では兵たちに誘拐犯たちを運ばせ私がマーリン様方を乗せた馬車の御者を」

 「いえ、御者は僕が、エドワード様は隣に乗っていただきもしもの場合すぐに動けるようにお願いします」

 「では私は馬車の中に待機していよう」

 「ハンス様よろしくお願いいたします」

 未だ眠っているマーリンや孤児たちを馬車に載せ、もう一台に誘拐犯一味を放り投げハンス達は街にもどった。

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 「此度の活躍に対しマリアンヌ様のご加護を」

 「ありがたき幸せ」

 誘拐事件から1週間、教会では教皇が目の前で膝をついてこうべを垂れる3人の頭上に聖書をかかげ褒賞をあたえた。

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 「よもやエドワードが聖騎士パラディンの栄誉を賜るとは思いもよりませんでした」

 「お兄様凄いです!おめでとうございます!!」

 「父上、私自身が驚いております。ふっ、マチルダありがとう」

 「ハンス様、神聖騎士ロイヤルガードおめでとうございますわ!」

 「ははは、少々荷が重いが嬉しいよアメリアありがとう」

 教会からもどりホルマトロ、グラドス、モンド商会の面々はホルマトロ邸にて祝いを催していた。

 「セイいつまでもそう緊張しておらずに、もう式典はおわりましたのよ?」

 「アンジェリーナ様むりですよ…」

 「もう!しっかりなさって!せっかく教会がんですのよ?光栄ではないですか」

 「こ、光栄すぎて…」

 「もう!しかたありませんわね!ここにお座りになって飲み物でもお飲みになり一度おちつきなさい。ね?」

 「は、はい。アンジェリーナ様ありがとうございます」

 教会での式典がおわってからもガチガチに緊張し汗を噴出し顔を蒼くしているセイジュをアンジェリーナは甲斐甲斐しく世話していた。

 「セイよ、来週には城でさらに大勢の前で褒美をもらいその後、晩餐会まであるのだぞ?今からそれで大丈夫か?」

 「う゛っ!…」

 「お父様!今からセイにそのような余計なプレッシャーをおかけにならないでください!セイが死んでしまいますわ!!」

 「そうよ?セイちゃん無理をせず式典が終わったらお帰りになってゆっくりお休みになられてもよいのですからね?」

 「カリーナ様…ありがとうございます」

 「ふふっ!いいのよ王家には今までさんざん貸しをつくっているんですもの!ね?あなた」

 「まぁそうだが、できれば私の顔を立てて参加してもらえるといいのだがなぁ」

 「はい…参加させていただきますので大丈夫にごじゃいます」

 「…やはり無理なようですわ…」

 無理してこたえたセイジュの言葉を聞きアンジェリーナは深いため息をついてつぶやいた。

 「まぁ!とりあえず今宵はホルマトロ・グラドスそしてモンド商会にとって素晴らしい日になったんですから楽しみましょう!」

 「ふっ!ハンス様そうですね」

 「は、はい」

 「セイジュ様!こちらのお飲み物をどうぞ!そして改めまして特別賢者スカラーの授与おめでとうございます!」

 「ありがとうございます…マチルダ様」

 「セイ少しでもお口になにかいれなければ体を壊してしまいますわ、こちらに軽いものを持ってこさせたので一口でもいいから食べましょう?ね?」

 「はい、アンジェリーナ様ありがとうございます。いただきます」

 優しく手を取り心配そうに料理をすすめるアンジェリーナに少しでも心配をかけたくないと思ったセイジュは笑顔を浮かべ一口無理して料理を口に運んだ。

 「アンジェちゃん、セイちゃんのお世話がだいぶ板についてきましたわね」

 「くっくっくっく!そうだね!!セイの尻に敷かれっぷりもだいぶ様になってきているようだ」

 「そうでございますね、母としてしてあげたいことすべてアンジェリーナ様がなさってくださってます」

 「はい!やはりアンジェリーナ様とセイジュ様は仲がよろしいご夫婦のようです!」

 「もう!皆さん!!このようにおめでたい日にまで!!」

 アメリアやハンスそしてセシリアとマチルダにまで言われ今日も今日とてアンジェリーナは顔を真っ赤にして地団太を踏んでいたがマチルダの母ケイシーは噂話がほんとうだったのではと驚いた顔をして固まっていた。
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