『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

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4章 皇国

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 乗合馬車よりもはるかに乗り心地がいい馬車に乗り、順調に進んでいく。なぜかリヒトは申し訳ない、と言っているけれど、貴族にとってはこれでもかなり良くないらしい。そういうもの?

「さて、どうしましょうか。
 本当はスーベルハーニ皇子にだけ説明したいところですが、このような狭い馬車では無理でしょうし……」

 リヒトの言葉に、リキートと顔を見合わせる。この狭い馬車でも一応目的の人以外には声を届かせない方法がある。風魔法の応用だ。声は振動だから、それをふさいでやればいい。でも、どうなんだろう。これから一緒に皇国に行くのに、俺だけが事情を知っているのがいいのか、全員が知っているのがいいのか。

「その話、俺が聞いた後に二人に共有することは可能かな?」

「え、ええ。
 それは構いませんが」

 まあ、それならいいか。確かに先に俺が聞いて、の方がいいかもしれないし。

「じゃあ、真ん中で分ければいいか?」

 俺の隣はリヒトで、正面にリキート、その隣にフェリラがいる。だから、隣の人にだけ声が届けばいい。

「え、あの?」

 ということで、と。

「はい、これで大丈夫。
 恐らく、リキートとフェリラに俺たちの声は届かない」

「こ、これは?」

「風魔法で声を遮断しているんだ」

「な、なるほど?
 まあ、スーベルハーニ皇子にだけ話せるのならいいでしょう」

「あの、それ長いのでもっと短い名で呼んでもらえないかな?」

「私にスー皇子と呼べと?」

 う、そんなふうにジト目で見なくてもいいじゃないか。ただ提案しただけなのに。確かにリヒトは前からそう呼ばなかったけれどさ。でも、俺が呼んでほしいのはそれじゃない。もう呼んでくれる人がいないのはなんだか寂しいから。だから、この名前を誰かに呼んでほしい。その誰か、に当てはまるのは唯一リヒトだけだと思う。

「スーハル、と」

「それ、は。
 よろしいのですか?
 だって……」

「リヒトだから呼んでほしいんだ。
 兄上の親友で、俺にとって最初の先生であるリヒトだから」

「……わかり、ました。
 では、スーハル皇子、と」

 そういって苦く笑ったリヒト。なんだか俺のわがままをとおしてもらったようで申し訳ない。でも、素直に嬉しい。

「うん、ありがとう。
 それで、今皇国に何がおこっているの?」

「ええ、お話ししましょう。
 でもその前に。
 スランクレト皇子のこと大変申し訳ございませんでした。
 謝ってすむことではないと、重々承知しております。
 それでも……」

「どうして、リヒトが謝るんだ?」

「私はあの日、皇子の様子がおかしいことを知っていました。
 でも、止めることができなかった。
 スーハル皇子のことを手助けすることも。 
 ……あの日のことが、今も忘れられない」

 ぽつり、と言葉を落とすリヒト。今もリヒトの心に、それが深い影を落としているのが分かった。あの日のことが今も忘れられない。リヒトはずっと向き合い続けていたんだ。つらい記憶と。

 逃げてしまった俺とは違う。そんな俺がリヒトを責められるわけがないよ。許す、の前にそもそも俺はリヒトに怒っていないし。

「私の自己満足に付き合わせてしまってすみません。 
 えっと、皇国の話、でしたよね」

「リヒト、俺は何も怒っていないよ。
 ……ありがとう、逃げずにいてくれて」

「スーハル、皇子……?」

 今いい逃すともう言えない気がする、主に気恥しいという意味で。だから、この場限りの勇気を振り絞って口にしてみた。するとリヒトは一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに笑顔になる。ああ、よかった、言えて。

「ありがとうございます。
 んんっ、皇国の話、でしたね。
 ……今、皇帝はほとんど動いていません。
 そして皇帝の代わりに台頭しているのが、皇后と第一皇子です。
 私は今、第一皇子側として動いています」

「どうして皇帝は動かないの?」

「あの方は、正直よくわかりません。
 でも、おそらくいろいろなことに興味がないのだと思います。
 ですが、一部から熱烈な支持は得ているから厄介なのです」

「あの皇帝が支持……?」

 あり得ない。正直あの人に期待するものは何もない、というくらいなのに。それなのに熱烈な支持って……。

「スーハル皇子はご存知なくても不思議ではないですね。
 あの方は近隣の国を制圧する際に、先頭に立って兵を率いていきました。
 その堂々とした姿にあこがれた兵は多いようです。
 とにかく、そう言った人たちからの支持は根強く、権力を持っている分厄介です」

「あの人が、兵を率いる……?」

 いや、確かに体格は立派だった。でもさ、あの人が兵を率いているとことはさすがに想像できない。もっと適当でふざけた人だと。それにその時率いた兵からの支持ということは、相手は武力派。勝手なイメージだと、クーデターは力で制覇していくイメージがある。しかも権力もある人が相手。うーん、厄介。

「それで?」

「えっと、なので、皇帝はやる気はないのに権力と支持はあると。
 今のところは動きが見れないので、一旦そちらは置いておきましょう。
 次に皇后。
 あの方はかなり好きに動いていますね。
 第二皇子を次の皇帝にしようといろんな面から働き掛け、地盤を固めていますね」

「第二皇子を、次の皇帝?」

 事前にちらっとそんなことを聞いていたけれど、実際に中枢にいる人間から聞くとまたインパクトが違う。本当にそんなことを考えているのか。

「ああ、ちなみにあの方は変わっていません。
 まあ、愚鈍ですね。
 到底皇帝になれる器ではない」

「ずいぶんと辛らつだね」

「ただの事実です」

 スパっと言い切るリヒト。まあ、そうだよね。あそこから、環境も変わっていないのに変われないだろう。皇后もお変わりないようで。

「……スーハル皇子は、何のために皇国へ戻られるのですか?」

  なんのために。あれ、言っていな、かったか。確かに厄介ごとに巻き込まれるとわかっていて、今更皇国に戻ると言い出されると確かに不思議だよね。まあ、言ってもいいのかな。

「なんというか、二人に向き合いたくて。
 皇后から、皇国から逃げているだけだったら、俺はきっと一生二人に向き合えないと思ったんだ。
 ……俺はあいつらに罰を与えたい」

「罰、ですか?」

「うん。
 俺があの二人をどうしようと第一皇子が政治を引き継いでどうにかしてくれるんだろう?
 だから、あの二人を……」

 その先は何となく言えなくて、そこで言葉を詰まらせる。でも、そこをリヒトが引き継いで亡き者にすると? と口にする。そう、つまりはそういうこと。一度思いを整理できたからか、今はその部分に関して少し冷静に考えられるようになった気がする。

「なるほど。
 ……王位を求めることは?」

「ない。
 そんなものかけらも興味ない」

「かけらも、ですね。
 なら、きっと第一皇子とは協力関係を築けるでしょう」

 うんうん、初めからそれを期待していたからね。ここで、なら無理でしょうと言われたら困る。さて、皇后が詳しくは何をしているのかはあとで聞くとして、今はひとまず概要を確認しないと。

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