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第6章 肝試し大会編
第百二十四話 「双牙の金獅子」
しおりを挟むあまりのスピードに、当然のことながら反応が遅れる。
飛び退くことも、迎撃することもできず、僕は辛うじて右手の木剣を持ち上げることしかできなかった。
金の鬣を靡かせながら、オーランが手刀を突き出してくる。
僕の腹を狙ったその一撃は、寸前で滑り込んだ木剣の刀身にガッ! と突き刺さった。
間一髪でガードが間に合っ――
「ぐっ……あっ……!」
木剣で手刀を受け止めた瞬間、全身に迸るような痺れを感じた。
上手くガードができたと思った僕は、顔をしかめながら目を見開く。
奴の手は、僕の肉体に直接触れてはいない。
それなのに気絶しそうなほどのダメージが来た。
となると、考えられるのは……
僕は懸命に頭をしぼりながら、崩れるようにして地面に手を突く。
全身に力が入らなくなる中、なんとか視線を持ち上げてみると、こちらを見下ろすオーランの眼光とぶつかった。
「おいおい、一撃でくたばるなんてつまんねェ真似すんなよなァ」
奴の言葉に、僕は歯を食いしばる。
奴が先ほど従魔に使わせたのは……おそらく雷魔法。
属性魔法の中にそういうものがあると聞いたことがある。
かなり珍しい属性魔法のはずだ。
オーランはその雷属性の魔法を、驚いたことに自らの肉体に付与した。
属性魔法による強化魔法。
通常、属性魔法による強化は、武器や装飾品に付与することが多い。
例えばそれは、かつて戦った小鳥型モンスターの【エアロエンチャント】のように、矢に突風を纏わせたり。
あるいはファナが持っていた、ドラゴンの炎によるレイピアのように。
なぜそうしなければならないのか。それは単純に人間の体が強化魔法に耐え切れないからだ。
火属性の魔法を直接その身に受ければ、当然のことながら火傷をする。
刃のように鋭い風魔法を身に纏えば己の体が切り裂かれる。
それなのにオーラン・ガルドは、雷属性の強化魔法を自分の肉体にぶち込んだ。
まさに狂人のなせる技だ。
僕が木剣で防いだところでノーダメージで済むはずがない。
改めてオーラン・ガルドの狂気さに驚愕していると、奴がおもむろに足を振り上げているのが視界に映った。
「ライム、体当たりだ!」
「キュルキュル!」
痺れた体は言うことを聞かない。だから僕は相棒に助けを求めた。
すかさずライムは、僕の目前にいるオーランを狙って弾む。
僕を踏みつけようとしていた彼は、ちらりとライムに目を向けた。
「おっせえおっせえ! 全然足りてねえんだよォ!」
いまだ【限界突破】によって身体強化をしているライムは、空中に赤い軌跡を残しながら飛翔する。
速度は普段の倍近く。
しかしオーランはまったく動じることなく、軽やかにライムの体当たりを避けた。
さらにそれだけにとどまらず、通り過ぎさまのライムを長い足で蹴りつける。
まるでボールのように吹き飛ばされたライムは、広場に突き立つ墓石に激突して動きを止めた。
「キュ……ルゥ……」
苦しむライムの体には、バチバチとした青い稲妻が走っている。
僕と同じく【サンダーエンチャント】なる魔法の影響を受けて痺れているようだった。
「ライム!」
僕はようやく動くようになった体を起こして、相棒のもとに駆け付ける。
倒れるライムの前でしゃがみ込むと、苦しそうに顔をしかめる相棒の顔が映った。
【限界突破】が切れて水色に戻っている。
おまけに、ひどい弱まり方をしていた。
もしかしてライムは、雷属性の魔法が苦手なのか。
嫌な予感を抱き、一層顔をしかめていると、そんな僕に向けてオーランが吐き捨てるように言った。
「はっ……つまんねえなァ」
「……?」
「ちっと力入れただけでこれかよ。所詮は銅級の雑魚テイマーとFランクモンスターだな」
振り向くと、心底つまらなそうな顔をしているオーランがこちらを見ていた。
先ほどまで狂ったように笑い、苦戦を楽しんでいた彼が、今ではすっかり熱が冷めたように目を細めている。
強化魔法を使う前とは大違いだ。
おそらくオーランは、やっと力を振りしぼれる相手を見つけられたと思ったのだろう。
しかし僕らは、それに応えることができなかった。
よもやここまで強くなるとは思ってもみなかったのだ。
それにまだ、一度魔法を使わせただけで従魔をちゃんと戦わせていない。
オーランは余力を残している。
今一度、金級冒険者の真の実力に歯噛みしていると、奴は興味の失せた顔で僕に言った。
「悪りぃがこちとら雑魚と遊んでる暇はねえんだ。見たとこアイテムもほとんど持ってなさそうだしなァ。さっさと終わりにしてやるよ」
勝負を決めるつもりのようだ。
僕はその気配を察して、まだ少し痺れの残っている身を構える。
同じくライムもぎこちない動きで体を起こした。
絶望的な状況だが、負けるわけにはいかない。
なんとしても奴から、ファナのことを聞き出さなくてはならないからだ。
それに……
まだ尽きていない闘志を再び燃え上がらせて、僕は敵の一挙手一投足に集中する。
どんな攻撃でも受け流してみせる。
そしてライムが斬り込めるように隙を作るんだ。
そんな僕の思惑を見抜いたかのように、オーランは従魔に『主の声』を掛けた。
「【獣王威嚇】だ!」
「グオォォォォォ!」
獣の雄叫びが広場を震わせる。
空気が揺れているような感覚を味わいながらも、僕は密かに『チャンス!』と思った。
獣種のモンスターが得意としている【威嚇】。
ライムが覚えていることもあって、当然のように僕はそれを警戒していた。
【威嚇】は警戒している相手には効果がない。
だから僕はオーランの従魔――ゴルドレオが叫んでいるこの間に、一気に攻めようと走り出そうとした。
が……
「なっ――!?」
足が……動かない。
それだけじゃなく、腕も首も、まるで全身が石のように固まっていた。
同じく【威嚇】を警戒していたはずの相棒も、驚いた顔で硬直している。
「な……んで……」
これは間違いなく【威嚇】の影響を受けている。
そう確信を持つと同時に、僕は人知れず先ほどのオーランの『主の声』を思い出した。
【威嚇】は【威嚇】だったのだが、奴は確か「レオハウル」と口にしていた。
もしかして、通常の【威嚇】とは別種のものなのか。
たとえ相手が警戒していようと、強制的に硬直させるようなスキル。
ライムが持つ【威嚇】の上位型。
数瞬でそこまで考えが至った僕は、動かない体を意識しながら、懸命に声をしぼり出した。
「ライ……ム……【分裂】だ」
「キュル……ル……」
強制硬直を受けながらも、ライムは僕の『主の声』に応えてくれる。
足元にいる相棒は、ぎこちなく丸い体を揺らすと、ぽよんと心地よい音を立てて水色の塊を射出した。
分裂ライムだ。
硬直中でも、辛うじて口は動かせる。
そしてライムの本体から放たれた分裂体も、同じく自由に動くことができる。
これはかつて、冒険者試験中にマッドウルフの【威嚇】を受けた時に実証済みだ。
僕らだけでなく、クロリアやミュウ、『愛玩の条件』のメンバーたちも同様に動きを止める中、分裂ライムと二頭の獅子だけが時間の流れに乗っていた。
オーランは僕とライムの方に指を差す。
「ゴルドレオ――!」
僕は動きが鈍い喉を酷使して声をしぼり出す。
「分裂ライム――!」
テイマーと従魔を合わせて二対二の構図。
その真ん中で分裂体が飛び跳ねる姿を前に、二人のテイマーは『主の声』を重ねた。
「【サンダーボルト】!」
「【自爆遊戯】!」
「グ……オォォォ!」
「キュルルルゥ!」
ゴルドレオと呼ばれた従魔は、オーランの真横で再び吠える。
バリバリと凄まじい放電音を発しながら、全身を覆う体毛を眩い金色へと変化させた。
茶色の大獣から一転、金獅子へと変貌したゴルドレオは、カパッと大口を開く。
対して分裂ライムは、オーランたちのもとに急ぎながら、僕の『主の声』を聞いて声高く応えた。
そして、両者の従魔から、ほぼ同じタイミングで突き刺すような閃光が放たれる。
その場面は、まさに一瞬だった。
ゴルドレオの喉奥から迸った雷撃と、分裂ライムの小さな体から放たれた爆撃が、広場の中央で激突した。
目もくらむ眩しさと、耳を突き破るような轟音に、景色と意識が薄れていく。
まるでスローモーションのようにも感じる時間の中、僕は眼前で荒れる【自爆遊戯】の爆撃の中央から、一筋の稲妻が突き出てくる光景を見た気がした。
二つの技の衝突により、広場に激震が走る。
その衝撃はやがて砂塵を巻き起こし、この場にいる全員を呑み込んでしまった。
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