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35 (※)ゼリファン
しおりを挟むヒュッと風が切った。
刀身の大きさに比べ、その重さは驚くほどに軽い。
だが、風を切ったその音は、本来の剣の重さを十分に感じられる響きがあった。
数度握り直す。
信じられないぐらいに手に馴染む。
まるでもうずっと使い続けていた愛用の品であるかのように違和感がなかった。
「ちょっ、隊長っ!!なんっスかっ、その大剣っっ!!」
流石に目立つのだろう。
周囲の驚いた視線が集まった。
「丁度いい。誰か手の空いている奴はいるか?相手をしてくれ」
声を掛ければ何故か争いになった。
誰が俺の相手をするかトーナメントで決めるだと?
待てるか、そんなに。
「エデル、お前でいい」
一人を名指しすれば「ずりぃ!」だの「俺が!」だの声が飛んだが、無視して剣を構える。
トーナメントをするならするで、俺がエデルと手合わせしてる間にやっておけ。
そして一試合後。
思わず感嘆の息が漏れた。
「そんなバスタードソードそのスピードで振れるって一体どうなってるんですか」
土を払い、称賛を通り越して呆れの視線を向けてくるエデルに剣を投げ渡す。
慌てて受け取ったエデルの腕がその重さに僅かに下がった。
「重いか?俺には以前の剣と同じ重さだ」
「は?」
「今度はこの剣を使ってみろ。もう一戦だ」
そういってエデルの手から剣を回収し、代わりに渡したのは別の剣。
そして……_____。
「ゼリファン隊長、この剣……」
「やる」
試合後、自らの握る剣を食い入るように見つめ声を掛けてきたエデルに返したのは簡潔な言葉。
一瞬呆けたエデルに「使いやすいんだろう?」と問えば、真剣な表情で「……はい」と頷かれた。
闘ってみれば一目瞭然だった。
俺にこの剣が、エデルにあの剣がどれだけ適しているかは。
脳裏に思い描いた姿に薄っすらと笑みが浮かぶ。
「本当は俺がその剣を買おうとしていたんだがな。俺にはこの剣が合うと言われた。そしてその剣はエデル、お前に合うだろうってな」
「言われた……って誰にです?」
「ラファエル・エバンス」
「……って、あの時の兄ちゃんか?!」
「やたら指揮し慣れてた奴だよな」
「冷静で妙に色っぽい雰囲気の……」
俺が口にした名に観戦してた周りの奴らも口々に騒ぎだした。
「俺は相手の数が多いと特に、刃に魔力を纏わせて薙ぎ払うことがあるからな。アイツはそれを見抜いた。純粋な斬れ味と威力、それにプラスしてその闘い方にこの大剣は向いてるだとよ。そしてその通りだ。この剣は俺の為にあるように手に馴染む」
「見抜いた……って、あの男が隊長の闘い方を見たのなんてあれがほぼ初回。俺だってあの模擬試合で一戦見ただけでしょう……?」
信じられない、というエデルの言葉。
だが、それが事実。
次の試合相手を求め、剣を振り下ろす。
鋭く、重く、風を切る音。
相応しい武器を手に、血が踊るのは闘いにこそ生きるものの宿命だろう。
「ラファエル・エバンス」
声に出さず呟いた唇には、知らず笑みが浮かんでいた。
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