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135 (※)レイヴァン
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「母上が貴方を食事に招待するのをとても楽しみにしていますよ。シェフたちも張り切ってます」
「光栄だよ」と返したラファエルの笑みはほんの少し強張っている。
それもそうだろう。
僕だってラファエルのご家族に紹介され、家に招かれれば緊張する。
ましてや先日のパーティーで父上らのいる場で交際宣言をしたのだから尚更か。
「……怒ってますか?」
いまさらながら、上目づかいにそう聞いた。
「怒ってはいないよ。……驚きはしたけどね」
足を止めたラファエルは困ったように微笑んだ。
僕はずるい。
彼が怒ってないことなど承知のうえでこんな質問を口にする。
僕はずるい。
彼を手放さずにすむように、あえて関係を口に出した。
誰にもラファエルを盗られたくない。
卒業後も、その先だって誰よりも僕が彼の側に居たい。
生まれて初めて覚えた恋心とかいうものは、厄介で重い愛というものに変化して……到底もう彼の居ない未来なんて考えられない。
この愛を喪えば、残るのは糸を断ち切られ崩れ落ちる人形のような自分だけ。
最近また読み返しはじめた物語の一節が頭をよぎる。
愛に身を焦がしたオリフェリアの言葉。
彼女は運命の糸は操り人形の糸だ、と言った。
もしもラファエルを喪えば…………僕もきっと以前のような、いいやきっと以前以上に無感動で虚無な人形に成り果てるんだろう。
それが恐くて、僕は自分だけでなくラファエルまでも糸でぐるぐるに絡めとろうとしているのかもしれない。
「そんな表情をしないで?」
無意識に俯いていたらしい。
温かな手がそっと頬に添えられた。
「何一つ、君が悪いわけじゃない。不甲斐無い私が決断を出せないだけなんだから。側に居れば居る程に君がどんどん愛しくなって、だけど君を一生幸せにすると約束出来る程の力も覚悟もない」
要らない。
「なのに……この手を放すことさえできない」
苦い声で吐き出すように零したラファエルの胸元に額を預ける。
落ち着く香り、体温、トクトクと優しく響く鼓動。
ぎゅっと腰にまわした腕を絡める。
「例え貴方が手放そうとしても、僕の方が手放してあげません」
ああ、この人はずるい。
優しくて、誠実で……なんてひどい人だろう。
彼が僕との関係を躊躇うのは、僕の将来を想ってのこと。
だけど僕は……
体面だの立場だのよりもラファエルが欲しい。
約束なんて要らない、覚悟なんて要らない。
そんな余裕なんてないくらいに、僕に溺れて欲しいのに。
ぽんぽんと宥めるように背を叩く手。
顔を上げ、ほんの少し伸びあがるようにして唇を重ねる。
チュッ、と軽く響く音と感触に彼の目がぱちりと瞬く。
ラファエルはずるい。
こんなにも僕を甘やかして、なのに一番欲しい貴方をくれない。
あんなにも情熱的な口付けをする癖に、理性を捨ててはくれない。
誠実で理知的で、大人びたこの人が大好きだけれど……熱を帯びた瞳で僕を見て、その癖その熱を散らすように庭の散策へと誘うこの人がもどかしい。
止めていた足を動かして薔薇のアーチを潜った。
案内の催促をするようにラファエルの手を掴み軽く引く。
我が家とはまた異なった趣の素晴らしい庭園だが、散策は早めに終わらせて部屋へと戻ろう。
そして部屋へ戻ったらドアを閉めてすぐに甘く激しいキスをしよう。
囲い込んで、追いつめて、息も忘れる程の激しい口付けを。
ねぇ、もっと溺れて?
あのチョコのように、理性さえもドロドロに溶かして僕だけを見て?
貴方が僕の理性を溶かしてそうしたように。
「光栄だよ」と返したラファエルの笑みはほんの少し強張っている。
それもそうだろう。
僕だってラファエルのご家族に紹介され、家に招かれれば緊張する。
ましてや先日のパーティーで父上らのいる場で交際宣言をしたのだから尚更か。
「……怒ってますか?」
いまさらながら、上目づかいにそう聞いた。
「怒ってはいないよ。……驚きはしたけどね」
足を止めたラファエルは困ったように微笑んだ。
僕はずるい。
彼が怒ってないことなど承知のうえでこんな質問を口にする。
僕はずるい。
彼を手放さずにすむように、あえて関係を口に出した。
誰にもラファエルを盗られたくない。
卒業後も、その先だって誰よりも僕が彼の側に居たい。
生まれて初めて覚えた恋心とかいうものは、厄介で重い愛というものに変化して……到底もう彼の居ない未来なんて考えられない。
この愛を喪えば、残るのは糸を断ち切られ崩れ落ちる人形のような自分だけ。
最近また読み返しはじめた物語の一節が頭をよぎる。
愛に身を焦がしたオリフェリアの言葉。
彼女は運命の糸は操り人形の糸だ、と言った。
もしもラファエルを喪えば…………僕もきっと以前のような、いいやきっと以前以上に無感動で虚無な人形に成り果てるんだろう。
それが恐くて、僕は自分だけでなくラファエルまでも糸でぐるぐるに絡めとろうとしているのかもしれない。
「そんな表情をしないで?」
無意識に俯いていたらしい。
温かな手がそっと頬に添えられた。
「何一つ、君が悪いわけじゃない。不甲斐無い私が決断を出せないだけなんだから。側に居れば居る程に君がどんどん愛しくなって、だけど君を一生幸せにすると約束出来る程の力も覚悟もない」
要らない。
「なのに……この手を放すことさえできない」
苦い声で吐き出すように零したラファエルの胸元に額を預ける。
落ち着く香り、体温、トクトクと優しく響く鼓動。
ぎゅっと腰にまわした腕を絡める。
「例え貴方が手放そうとしても、僕の方が手放してあげません」
ああ、この人はずるい。
優しくて、誠実で……なんてひどい人だろう。
彼が僕との関係を躊躇うのは、僕の将来を想ってのこと。
だけど僕は……
体面だの立場だのよりもラファエルが欲しい。
約束なんて要らない、覚悟なんて要らない。
そんな余裕なんてないくらいに、僕に溺れて欲しいのに。
ぽんぽんと宥めるように背を叩く手。
顔を上げ、ほんの少し伸びあがるようにして唇を重ねる。
チュッ、と軽く響く音と感触に彼の目がぱちりと瞬く。
ラファエルはずるい。
こんなにも僕を甘やかして、なのに一番欲しい貴方をくれない。
あんなにも情熱的な口付けをする癖に、理性を捨ててはくれない。
誠実で理知的で、大人びたこの人が大好きだけれど……熱を帯びた瞳で僕を見て、その癖その熱を散らすように庭の散策へと誘うこの人がもどかしい。
止めていた足を動かして薔薇のアーチを潜った。
案内の催促をするようにラファエルの手を掴み軽く引く。
我が家とはまた異なった趣の素晴らしい庭園だが、散策は早めに終わらせて部屋へと戻ろう。
そして部屋へ戻ったらドアを閉めてすぐに甘く激しいキスをしよう。
囲い込んで、追いつめて、息も忘れる程の激しい口付けを。
ねぇ、もっと溺れて?
あのチョコのように、理性さえもドロドロに溶かして僕だけを見て?
貴方が僕の理性を溶かしてそうしたように。
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