【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

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壁に凭れ掛かって腕を組んだ姿は「なんの撮影ですか?」って聞きたくなるぐらいキマっている。

そんなイイ男が1人佇んでいれば女性が放っておくはずもなく、ナイスバディ―な美女二人組が熱心に話しかけていた。

「うっわ、モテモテ。どーする?ちょい待つか?」

あそこに割り込むのもどうなのか、と顔を見合わせていると男の視線が俺らを捉えた。

軽く上げられた手、微かに緩む口元。
そんな些細な動作にさえあちこちからきゃあと華やいだ声が上がった。


「場所はこっちで決めていいか?」

歩きながら問いかけてくる男、ゼリファンに肯定を返しその背に続く。

「別に……お詫びをしていただく必要はなかったんですが……」

もう数度目になるそんな言葉が口をついた。

「気にするな。休日に食事に付き合ってもらうだけだ。それと、勧誘もな」

ほんの少し唇を引き上げるだけで、どうしてこうも男の色気を放出できるのか。
羨ましいを通り越してもはや感心の域。

そしてゼリファンが俺へと話しかける度に握ったお手てをぎゅっとしてくるレイヴァンくんは今日も警戒MAXです。

やがて扉を潜ったのは照明が抑えめでオシャレなお店。
他の客が見当たらないこととバーのような雰囲気から、もしかしたら本来は夜だけの営業なのかも。

座った座席は俺の隣にレイヴァン、向かいにカイル。カイルの隣がゼリファンだ。

頑として俺の隣と向かいにゼリファンを据えたくなかったレイヴァンによる座席指定です。
特に不満はなかったが、ゼリファンもカイルも苦笑いだった。

「何でも好きなものを注文してくれ。先日の詫びも兼ねてるんだから遠慮はいらない」

かー!どこまでもモテ男感が溢れてやがんな、とか思いつつメニューをぺらり。

遠慮はいらないって言われてもやっぱり気が引ける小心者の俺とは異なり、「やりぃ!」と大喜びであれこれ指さしていくカイル。頼みすぎじゃね?

そしてレイヴァンも特に気にする素振りもなくメニューを決定。
こちらは奢りに喜んでるっているより、ただ慣れてんだろうな。

食事をしつつ雑談を交える。
なんで休日に俺らがゼリファンと食事をしているかといえば、先日のパーティーの詫びを兼ねてだ。

ゼリファンの申し出にカイルが一も二もなく食いつき、意外なことにレイヴァンも嫌がらなかった。

「色々と気に食わない面もありますが、あの人の実力自体は認めてますし尊敬もしてますよ。それに僕も入隊を視野に入れてますからクラウ・ソラスのことには興味があります」

ムスッとしつつそんなことを言っていた。

てっきり毛嫌いしているものと思っていたらそうでもないらしい。
とか思ったら、ものすっごく凄みのある笑顔で「貴方と二人で食事に、というのなら絶対に許しませんが」と続けられた。

要は……気に入らない面は主に俺絡みっぽいです。

ちなみに、怪我の件では近衛の隊長さんたちからもお詫びの品を贈られてしまった。

高級茶葉と菓子の詰め合わせと、駄目になった手袋の代わり。

お陰で俺が事件に巻き込まれたことが使用人たちにバレた。
髪型崩れてたから問い詰められたけど、適当に誤魔化してたのに―…………。
めっちゃ心配された。

なお、ゼリファンが俺らを食事に誘った時に最大の元凶であるスネークも「じゃー俺も」と名乗りを上げたのだが、全員一致でお断りした。

いやだって、あいつ絶対詫びの気なんてねぇし、面倒なことになる確信しかねぇ。

そんなこんなで実際には特に詫びる必要もないゼリファンだが、部下の不始末という名目で俺らに食事を奢ってくれることになったのだった。
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