【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

文字の大きさ
163 / 164

163

しおりを挟む


細く長い、だけど節のある剣を持つ者の指が重なった。
しなやかな指はなぞるように、弄ぶように俺の手の甲や指を滑る。まるで秘め事めいた指の動きと感触にンッと空咳をしてその感覚を意識から逃す。

「僕としては “まだ” であってほしいです」

密やかな声と、上目遣いで見つめてくる瞳。

「これから長く続く人生の中のほんのひと時。そうあることを祈ってますし願ってます」

ね?と蠱惑的に投げ掛けられた視線にパシンと手で口元を押さえる。

「レイヴァン……」

弱々しい声で咎めるように彼を呼ぶ。

マジで最近、小悪魔化が激しすぎませんか?

ちょくちょく誘惑してくる彼に俺は理性を試されてばっかりだ。

「なんですか?」

しれっとした顔でお咎めをかわしたレイヴァンはご機嫌そうにフォンダンショコラをパクリと食べる。
僅かに赤いだろう俺の顔を見るその表情はとっても楽しそうだ。

「たまにはこうして僕が貴方を翻弄するのもいいですね」

「……?たまに、というよりいつもだろう?」

なんかやたらと “僕が” に力が入ってた気がするけど、いつだって翻弄されてるのは俺の方では?という疑問を浮かべれば何故かジト目で見られた。

「自覚のない天然ってタチが悪いですよね」

はぁ、と溜息と共に謎の言いがかりまでつけられた。

「それと」

ピッとフォークの先が胸元へと突き付けられる。

「浮気は許しません」

唐突に釘を刺され、パチパチと瞬く。

「それは勿論。するわけないだろう?そんなこと」

「貴方が積極的にそんな不誠実なことをするとは思ってません。でも危なっかしくて仕方ないんです」

顔を歪めたレイヴァンは苦々しく呟く。

「むやみに笑顔や色気を振りまかない。危険な相手とは距離を置く、2人っきりとか言語道断です。特に男。あとはとにかく警戒心をもつ!わかりましたか?」

「私は小さい子かい?」

おかしを貰ってもついて行っちゃいけません!みたいな注意に苦笑いを浮かべれば、「まだ小さい子の方が口説かれる心配がないです」と吐き捨てられた。

知名度があがったことで声をかけてくる相手が増えたこともあってか、近頃のレイヴァンはますます心配性だ。

俺からしたら超絶美形で優良物件のレイヴァンの方がよっぽど心配なのに……。

それともうひとつ……。

「ああっ!あんな狼たちの群れに貴方を放り込むなんて……!心配で気が狂いそうです」

フォンダンショコラにブスッ!とフォークを突き刺したレイヴァンが嘆く。

狼の群れ。
それはクラウ・ソラスのことだ。

散々迷った結果、俺は卒業後はひとまずクラウ・ソラスに入隊することになった。

ただし、カイルのように完全な正規メンバーではない。
貴族の跡取りや役職持ちもいる関係で、クラウ・ソラスのメンバーは仕事を掛け持ちしている者もなかにはいる。
領地の手伝いがしたいならそういった形での入隊はどうだ?と進めてくれたのは王子だ。

ゼリファンたちからも「とりあえず入隊しろ」って勧誘されたし、遠い領地とのやり取りのために王太子殿下が転移魔法陣の定期的な使用許可までくださった。
吃驚するぐらい破格の対応。

そんなこんなで卒業後もレイヴァンとは一緒にいられる。

王都邸に在留しつつ、クラウ・ソラスの任務やら書類仕事なんかをこなし、必要があればエバンス領を行き来する生活だ。
さらに2年後にはレイヴァンやアレンも入隊予定。

現在は保留にしているが将来的には王子の側近に……なんてスカウトも相変わらずあったりする。

モブがとんだ大出世だ。

今後も離れずに一緒にいられることには大喜びしてくれたレイヴァンだが……ゼリファンやスネークをはじめクラウ・ソラスの面々を大いに警戒しているようで「なんで学園在籍中は入隊できないんです!仮入隊でもいいから一緒に!」と頭を掻きむしって王子に入隊規制の改定を求めてた。

最終的にはカイルの肩をがっしり掴んで「わかってますね?!」と俺のお目付け役に任命してたし……。

別にモブの俺に本気で手を出す奴らなんてそう居ないと思うんだけど……。

でもスネークとかゼリファンとか愉快犯気質あるから気をつけよう、うん。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

処理中です...