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しおりを挟む手にしたフォークでさくりとした表面を割れば、とろりと濃厚なチョコが中から溢れだす。
鼻孔を擽る甘い香りに誘われるまま、皿に添えられた生クリームと一緒に口へと運ぶ。
「美味しいです」
満足そうな声に「ね」と頷く。
すっかりお馴染みとなった行きつけのカフェ。
半ば指定席と化している奥のソファへと腰かけ、舌鼓をうっているのは冬季限定のフォンダンショコラ。ほかほかと湯気をたてる濃厚なそれはオーナー自慢のコーヒーにも実によく合う。
俺は以前も食べたことがあるけど、レイヴァンにも気にいってもらえたようだ。
「まだ一年もたたないんだな」
ふと、意識せずに言葉が漏れた。
「何がです?」
「君と出会って」
季節は冬。
春に入学してきたレイヴァンたちに出会ってから、ようやく全ての季節が廻ろうというところ。
「 “もう” というべきか、それとも “まだ” というべきかな。もっと長いこと一緒に居たような気がしてるけど、実際は出会ってまだ一年もたってないんだな……って驚いてね」
いやぁ、マジで色々あったわ今年は。
豪華メンツと初体面からはじまって、新入生歓迎会に校外学習での大ピンチ。
クラウ・ソラスの面々とまで知り合いになるし、別荘でのアレコレに……レイヴァンとの交際。
ゼリファンには勧誘されるし、フィガロには絡まれ、スネークには面倒ごとに巻き込まれるは……。
王太子殿下に宰相閣下、隣国の王子とハンパなさすぎる人脈まで出来ちゃったし………………。
トドメに学園祭でのあの一幕。
「……本当に色々あったなと思って」
そう呟く俺の目は若干遠い目。
「すっかり有名人ですしね」
「…………」
そう、しがない伯爵家の次男坊の俺はわりと顔が知られてしまった。
何故なら、カイルやレイヴァンが言っていたように、あの時の光景はルシウスによって大画面にドドーン!と映し出されていたからだ。
そんでもって、あの場には学園の生徒はもちろんのこと、プラチナチケットを使って招待された親族・関係者等も大勢いたわけで……。
「アレは誰だ?」って結構な話題になっていたっぽい。
王都邸に帰ってから兄さんたちに「エルくんがビュッ!ってやって魔獣を倒すとこが大っきく映ってたんだよ!すっごい恰好良かった!!まわりの人も吃驚してたし、みんなエルくんたちの噂してたよ」と手を付き出す動作をマネしながら語られた俺は絶望した。
ふんすふんすしながら大興奮で「すごい!すごい!」と絶賛してくれるわんこ親子にキラキラした目をむけられつつ、「やっべぇ、もう外に出たくない」とわりと本気で思った。
しかも魔力中毒が回復し、渋々ながら復帰した学園で兄さんたちの言葉が全然誇張じゃないことを悟ってしまった。
めっちゃ大騒ぎだった。
校外学習やレイヴァンとの噂のとき以上の注目度。
「あのときなにをやったのか?」はクラスメイトをはじめ多くの人に聞かれたが完全黙秘を貫いた。
あれ以上ドン引きされるのは御免だ。
挙句の果てにはあの一件の功績だとかで王子の両親、つまりは国王夫婦から直々にお礼されたりまで。
俺の心境としては「お礼の気持ちがあるならそっとしといてくださいっ!」だから、マジで。
緊張しすぎて吐くかと思った。
ただの “モブ” だったハズの俺の人生がなにがどうしてこうなったのやら……。
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