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しおりを挟む我が伯爵家の威厳は露と消えたが……兄さんの存在は無事受け入れられた。
メンツが大物すぎてビビッていたのはあるけど、元々の性格は人懐っこいし、シエルと違って人見知りでもない。
最初こそ緊張していた兄さんだが、俺の話題になった途端に積極的に会話に参加しはじめ……いまやめっちゃ馴染んでる。
「それでエルくんが……」
「兄さん、私の話はもういいから」
「えー……こっからがいいとこなのにぃ~」
「そうですよ。ラファエルの小さな頃の話なんて貴重ですし、もっと聞きたいです」
王太子殿下いわくの “ふんす、ふんす” な兄さんを止めれば、不満そうな反応が返された。
そんでもってめっちゃ仲良くなってるし……。
出会って数十分にもかかわらず、レイヴァンが全然警戒してない素の状態……だとっ?!
兄さんの社交力、恐るべしっ!
純粋な社交力……っていうか、表裏のない性格の賜物かも。
貴族って腹黒いの多いからか、普段腹の探り合いに疲れてそうな大物貴族にわりと受けがいいんだよな。
あと単純に可愛がられる性格だし。
マイナスイオン効果。
まぁ、今回は俺の話題で意気投合してるのもあるけど。
なんにせよ、そろそろやめて欲しい。
自分の昔話をされるのも、それに微笑ましい目を向けられるのも恥ずかしいんだっての。
魔力中毒の怠さだけで身体的な影響は他にないし、兄さんたちの乗ってきた馬車で一緒に帰ることになった。
兄さんたちは10日ほど王都邸に滞在予定だ。
ゼリファンや王子たちとは別れ、お互い馬車を待つ間にもレイヴァンや兄さんの話題は俺。
準備を整え、侯爵家の家紋が入った馬車がゆっくりと近づいてくるのを見てレイヴァンが眉を小さく下げる。
「残念です。もっと色々とお話を伺いたかったのですが……」
「僕もです……。あっ、宜しければ今度ぜひ邸にお越しください!」
「いいんですか?」
「もちろんです!エルくんのお友だちなら大歓迎ですっ」
「恋人です」
サラッと、だけどきっぱりはっきりとした発音と笑顔で告げたレイヴァンに思わず吹き出しそうになって口を押さえる。
いま、ここで言いますかっ?!
ちゃんと兄さんたちには話すつもりだったけど、予想外のタイミングに心の準備が出来てなく、思わず目を見開いてレイヴァンを見る。
涼しいお顔だ。
「え?」とポカンとする兄さんと、無言でパチパチと瞬きをするエルザさん。
2人の視線が俺とレイヴァンを往復する。
じっと見られ、こくりとひとつ頷いた。
頷いた俺の反応に、レイヴァンの笑みがふわりと解ける。
花開くような、幸せそうなその笑みを見て……ちゃんと言葉にして伝えようと決めた。
「急に驚かせてごめん。彼と……レイヴァンと付き合っているんだ」
零れ落ちそうに瞳を真ん丸に開いた兄さんは俺をじっと見て、それからレイヴァンをじっと見た。
「アシュフォース様は……エルくんが、好きなんですか?」
「はい。愛しています、狂おしいほどに」
「……わかりました」
珍しく表情のないまま、真剣な顔で兄さんは大仰に頷いた。
次いでにっこり笑顔になる。
「エルくんを好きな人に悪い人はいないよねっ!」
……俺は犬か?
いつも通りのテンションでうんうん頷く兄さんに思わずそんなツッコミが漏れそうになった。
なにその「犬好きに悪い人はいないよね」的発言。
いるよ。犬好きにだって悪い人はいるし、俺のことが好きかどうかはいい人悪い人の判定にはなりません。
……ってかそれ以前に。
「……いいんですか?」
呆然としたレイヴァンの反応には大いに賛同。
表情はずっと笑顔だったけど、拒絶を想定してか肩に力が入っていたレイヴァンはぽかんと兄さんを見る。
「ここは身内なら謙遜するべきとこだろうけど、エルくんは恰好いいし優しいしすごいんですよ!」
「それは知ってます」
「アシュフォース様すごい話合いそう。性別のことなら僕はエルくんが幸せなら別に気にしませんよ」
「……兄さん」
「それよりっ!それならぜひ遊びに来てください!小っちゃい頃のエルくんの写真とかも見せちゃいますよ」
「それはぜひっ!」
すっごい可愛い!と自慢する兄さんと前のめりに食いつくレイヴァン。
……やべぇ、マジでこの2人意気投合しすぎじゃねぇ?
話題が俺なのに若干の疎外感すら感じるんすけど。
馬車が来たため、リーゼロッテ様達とお話ししているシエルを呼びに「随分と大物捕まえたわね」と悪戯っぽく囁いて離れてくエルザさんの背を見送りつつ、2人のテンションに入れず疎外感を覚える俺でした。
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