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しおりを挟む光を弾くシャンデリアの下でグラスを傾ける。
視線の先には微笑みを浮かべて招待客らと談笑するレイヴァンの姿があった。
宝石のような蒼い瞳が俺を捉える。
その瞬間……人形のような作りものの表情に本当の笑みが咲いた。
あまりにも劇的なその変化にほぅと吐息にもにた息が漏れ、騒めく人々。
その笑みを間近で目の当たりにした数名が薄っすらと頬を色づかせるのが面白くない。
人に向けられた笑みを勝手に取んなし……。
心の中で不平を漏らしつつも、俺にだけ “本当の” 笑顔を浮かべてくれるレイヴァンに優越感も込み上げる。
……とりあえず、今も頬を染めたまま彼をガン見してる数名の子息の顔はきっちり覚えた。
『 あ・と・で 』
手の中のグラスを軽く振りながら、ゆっくりと唇を動かす。
声には出さずに紡いだそれは無事にレイヴァンへと伝わったようだ。
小さくコクリと頷いた彼へと微笑みかけ、グラスの中身を空にした。
パーティーも中盤を過ぎた頃、腕を引かれた俺は賑やかな会場を後にしていた。
腕を引くのは本日の主役でもあるレイヴァンくん。
「主役が抜け出していいのかい?」
俺の手を引いて前を歩いていたレイヴァンが足を止めずに振り向く。
「主役だからこそ、ですよ。挨拶は済みましたし……僕は貴方にこそ祝われたいので。少しぐらいいいでしょう?誕生日なんですから」
そう、本日はレイヴァンの誕生日パーティーだ。
貴族ならではの豪華なそれに俺もお呼ばれしたってわけ。
緩やかな音楽や人々の笑い声を背に侯爵家の庭を歩く。
夜の庭は昼に訪れた時とはまた別種の美しさと神秘的な雰囲気があった。
会場の騒めきからもだいぶ離れた噴水のあたりでレイヴァンは足を止めた。
期待する子どものように見上げてくる姿に、頬にそっと手を伸ばす。
「じゃあ改めて。お誕生日おめでとう、レイヴァン」
誕生を言祝げば、嬉しそうに抱きつかれる。
「ありがとうございます」
しばらくそうして抱き合ってから、俺は胸元から小箱を取り出した。
不思議そうにレイヴァンの目がそれを追う。
「誕生日プレゼントだよ」
「でも……それはさっき頂きましたよ?」
「もう一個、ね」
さっきのあれは侯爵家のご子息への公的なもの。
こっちは完全私的なものだ。
……もちろんあっちだって吟味に吟味を重ねて選んだが。
彼の手に箱を乗せれば目で「開けても?」と問われたので「もちろん」と返す。
しなやかな細い指が急くように、だけど丁寧にリボンを解き、箱をあける。
箱の中にはさらに箱。
サファイアの瞳の色に似たジュエリーボックスの中身は…………。
「指輪……」
小さな紫の宝石のついたシンプルなリングと銀のチェーン。
彼の手から箱を取り上げ、ハンカチをひいて噴水の縁へと置いた。
片手でレイヴァンの手を取り、もう片方の手で彼の薬指に恭しく指輪をはめる。
息を飲んでそれを見守っていたレイヴァンが指輪を、そして俺をじっと見る。
「受け取ってくれるかい?」
誕生日プレゼントに指輪。
ベタすぎる自覚はあるし、目立たないようなシンプルなリングを選びつつも石の色が自分の瞳と同じ色とか独占欲まる出しの自覚もある。
掬い取った彼の指を指輪ごとするりと撫でた。
しなやかな指に自分の贈った、俺の色が嵌っているのはぶっちゃけ気分がいい。
満月の光をはじき、指輪がきらりと光った。
「実はコレ、特注品なんだよ。結界を練り込んだ魔法具でもあるからね。効果は一度だけだけど、君の身代わりとなってくれるんだ」
例え致命傷の攻撃だろうと防いでくれるはず。
「侯爵子息の君がつけるには見栄えのしない代物かも知れないけど、私の為と思ってどうか身につけてほしい。……もう二度と、君が傷つく姿を見たくないんだ」
細い指を持ち上げ、指輪へと唇を落とした。
その手を握ったまま、懇願するように瞳を合わせれば白い頬が淡く色づく。
その様子があまりにも可愛くて、悪戯するように指先をチュッと吸い上げた。
耳まで真っ赤になるのがめちゃくちゃ可愛い。
「嬉しいです、すごく」
指輪を嵌めた手を月へと翳し、感極まったように声が告げる。
「ラファエルの瞳の色……」なんて可愛いことを呟きながら愛おしそうに石を何度も撫でるから、堪らなくなってぎゅっと抱きしめた。
「ありがとうございます」
腕の中から見上げてくる彼に「ん」と頷く。
はにかみながら何度も指輪を撫でていたレイヴァンにふいにクイクイと袖口を引かれた。
なにそのあざとい動作、可っ愛いな!
「特注の魔道具っておっしゃってましたよね?同じものって作れるんですか?」
「ん?まぁ可能ではあるけど……」
媒体となる魔石が入手困難なのと、それなりな期間魔力を注ぎこむ必要があるが製作自体は可能だ。
1回限りって言ったから1つじゃ不安になったのかなと思ったのだが……違った。
「僕も貴方に贈りたいです」
「私に……?」
「僕だって貴方の傷つく姿は二度と見たくない。それに……僕の色を常にラファエルの身につけてほしい」
俺の薬指をするりと撫でながら切なげに瞳を細めたレイヴァンの表情は、次の瞬間には蠱惑的な笑みへと変わった。
「貴方に常に僕を想い出してほしいし……牽制にもちょうどいいでしょう?」
んっと伸びあがった彼の唇が俺のそれへと重なる。
遠くで微かに響く音楽と騒めき。
二人っきりの夜の庭。
咲き誇る花々の香りがほんのりと風に運ばれては甘く香る。
あの夜と同じ幻想的なまでの蒼い月が見下ろすその下で…………。
二つの影がそっと一つに重なった。
810
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