【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴

文字の大きさ
164 / 164

164

しおりを挟む


光を弾くシャンデリアの下でグラスを傾ける。
視線の先には微笑みを浮かべて招待客らと談笑するレイヴァンの姿があった。

宝石のような蒼い瞳が俺を捉える。

その瞬間……人形のような作りものの表情に本当の笑みが咲いた。

あまりにも劇的なその変化にほぅと吐息にもにた息が漏れ、騒めく人々。
その笑みを間近で目の当たりにした数名が薄っすらと頬を色づかせるのが面白くない。

人に向けられた笑みを勝手に取んなし……。

心の中で不平を漏らしつつも、俺にだけ “本当の” 笑顔を浮かべてくれるレイヴァンに優越感も込み上げる。

……とりあえず、今も頬を染めたまま彼をガン見してる数名の子息の顔はきっちり覚えた。

『 あ・と・で 』

手の中のグラスを軽く振りながら、ゆっくりと唇を動かす。

声には出さずに紡いだそれは無事にレイヴァンへと伝わったようだ。
小さくコクリと頷いた彼へと微笑みかけ、グラスの中身を空にした。


パーティーも中盤を過ぎた頃、腕を引かれた俺は賑やかな会場を後にしていた。
腕を引くのは本日の主役でもあるレイヴァンくん。

「主役が抜け出していいのかい?」

俺の手を引いて前を歩いていたレイヴァンが足を止めずに振り向く。

「主役だからこそ、ですよ。挨拶は済みましたし……僕は貴方にこそ祝われたいので。少しぐらいいいでしょう?誕生日なんですから」

そう、本日はレイヴァンの誕生日パーティーだ。

貴族ならではの豪華なそれに俺もお呼ばれしたってわけ。

緩やかな音楽や人々の笑い声を背に侯爵家の庭を歩く。
夜の庭は昼に訪れた時とはまた別種の美しさと神秘的な雰囲気があった。

会場の騒めきからもだいぶ離れた噴水のあたりでレイヴァンは足を止めた。
期待する子どものように見上げてくる姿に、頬にそっと手を伸ばす。

「じゃあ改めて。お誕生日おめでとう、レイヴァン」

誕生を言祝げば、嬉しそうに抱きつかれる。

「ありがとうございます」

しばらくそうして抱き合ってから、俺は胸元から小箱を取り出した。

不思議そうにレイヴァンの目がそれを追う。

「誕生日プレゼントだよ」

「でも……それはさっき頂きましたよ?」

「もう一個、ね」

さっきのあれは侯爵家のご子息への公的なもの。
こっちは完全私的なものだ。

……もちろんあっちだって吟味に吟味を重ねて選んだが。

彼の手に箱を乗せれば目で「開けても?」と問われたので「もちろん」と返す。

しなやかな細い指が急くように、だけど丁寧にリボンを解き、箱をあける。
箱の中にはさらに箱。
サファイアの瞳の色に似たジュエリーボックスの中身は…………。

「指輪……」

小さな紫の宝石のついたシンプルなリングと銀のチェーン。

彼の手から箱を取り上げ、ハンカチをひいて噴水の縁へと置いた。

片手でレイヴァンの手を取り、もう片方の手で彼の薬指に恭しく指輪をはめる。
息を飲んでそれを見守っていたレイヴァンが指輪を、そして俺をじっと見る。

「受け取ってくれるかい?」

誕生日プレゼントに指輪。

ベタすぎる自覚はあるし、目立たないようなシンプルなリングを選びつつも石の色が自分の瞳と同じ色とか独占欲まる出しの自覚もある。

掬い取った彼の指を指輪ごとするりと撫でた。

しなやかな指に自分の贈った、俺の色が嵌っているのはぶっちゃけ気分がいい。
満月の光をはじき、指輪がきらりと光った。

「実はコレ、特注品なんだよ。結界を練り込んだ魔法具でもあるからね。効果は一度だけだけど、君の身代わりとなってくれるんだ」

例え致命傷の攻撃だろうと防いでくれるはず。

「侯爵子息の君がつけるには見栄えのしない代物かも知れないけど、私の為と思ってどうか身につけてほしい。……もう二度と、君が傷つく姿を見たくないんだ」

細い指を持ち上げ、指輪へと唇を落とした。

その手を握ったまま、懇願するように瞳を合わせれば白い頬が淡く色づく。
その様子があまりにも可愛くて、悪戯するように指先をチュッと吸い上げた。

耳まで真っ赤になるのがめちゃくちゃ可愛い。

「嬉しいです、すごく」

指輪を嵌めた手を月へと翳し、感極まったように声が告げる。

「ラファエルの瞳の色……」なんて可愛いことを呟きながら愛おしそうに石を何度も撫でるから、堪らなくなってぎゅっと抱きしめた。

「ありがとうございます」

腕の中から見上げてくる彼に「ん」と頷く。

はにかみながら何度も指輪を撫でていたレイヴァンにふいにクイクイと袖口を引かれた。

なにそのあざとい動作、可っ愛いな!

「特注の魔道具っておっしゃってましたよね?同じものって作れるんですか?」

「ん?まぁ可能ではあるけど……」

媒体となる魔石が入手困難なのと、それなりな期間魔力を注ぎこむ必要があるが製作自体は可能だ。

1回限りって言ったから1つじゃ不安になったのかなと思ったのだが……違った。

「僕も貴方に贈りたいです」

「私に……?」

「僕だって貴方の傷つく姿は二度と見たくない。それに……僕の色を常にラファエルの身につけてほしい」

俺の薬指をするりと撫でながら切なげに瞳を細めたレイヴァンの表情は、次の瞬間には蠱惑的な笑みへと変わった。

「貴方に常に僕を想い出してほしいし……牽制にもちょうどいいでしょう?」

んっと伸びあがった彼の唇が俺のそれへと重なる。

遠くで微かに響く音楽と騒めき。
二人っきりの夜の庭。
咲き誇る花々の香りがほんのりと風に運ばれては甘く香る。

あの夜と同じ幻想的なまでの蒼い月が見下ろすその下で…………。

二つの影がそっと一つに重なった。


しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

植物チートを持つ俺は王子に捨てられたけど、実は食いしん坊な氷の公爵様に拾われ、胃袋を掴んでとことん溺愛されています

水凪しおん
BL
日本の社畜だった俺、ミナトは過労死した末に異世界の貧乏男爵家の三男に転生した。しかも、なぜか傲慢な第二王子エリアスの婚約者にされてしまう。 「地味で男のくせに可愛らしいだけの役立たず」 王子からそう蔑まれ、冷遇される日々にうんざりした俺は、前世の知識とチート能力【植物育成】を使い、実家の領地を豊かにすることだけを生きがいにしていた。 そんなある日、王宮の夜会で王子から公衆の面前で婚約破棄を叩きつけられる。 絶望する俺の前に現れたのは、この国で最も恐れられる『氷の公爵』アレクシス・フォン・ヴァインベルク。 「王子がご不要というのなら、その方を私が貰い受けよう」 冷たく、しかし力強い声。気づけば俺は、彼の腕の中にいた。 連れてこられた公爵邸での生活は、噂とは大違いの甘すぎる日々の始まりだった。 俺の作る料理を「世界一美味い」と幸せそうに食べ、俺の能力を「素晴らしい」と褒めてくれ、「可愛い、愛らしい」と頭を撫でてくれる公爵様。 彼の不器用だけど真っ直ぐな愛情に、俺の心は次第に絆されていく。 これは、婚約破棄から始まった、不遇な俺が世界一の幸せを手に入れるまでの物語。

処理中です...