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波乱の建国記念式典

カレルヴォ兄上の婚約者

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微妙な空気のまま会場入りの時間になってしまった。流石に悪いことしたかな~と思ったけど、なんか父上が満足気だったから別に良いや。皇帝父上が良ければ全て宜しいなのだ。

「緊張してますか?ヴァイナモ」

「……少し、エルネスティ様のお隣にいて恥じないかと心配しております」

「大丈夫ですよ。ヴァイナモはかっこいいですし」

「……かっこいい?俺が、ですか?」

俺の言葉にヴァイナモはキョトンとした。自分とかっこいいが繋がらないのだろうか。これだから無自覚イケメンは!

「ええ。誰がどう見てもイケメンですよ」

「……そう、ですか……」

ヴァイナモはスっと俺から顔を逸らした。そして片手で顔を隠す。……もしかして、照れてる?

俺は顔を覗き込もうとした。ヴァイナモはくるっと俺から背を背ける。俺は尚も顔を覗き込もうと回り込むが、またしても背を背けられた。俺はムキになってヴァイナモの顔を追いかける。だがヴァイナモも負けじと顔を隠そうとする。

「……何やってんだ、お前ら」

そんなことをしていると、カレルヴォ兄上から呆れた声がかかった。カレルヴォ兄上は今日は婚約者と出席するらしく、隣に可愛らしいご令嬢を連れていた。

「聞いてください、カレルヴォ兄上。ヴァイナモが私から顔を背けるのです」

「それはお前が何かしたからじゃねえの?」

「私はただ、ヴァイナモがかっこいいと褒めただけです」

「……ふ~ん。ほ~ん。褒めただけ、ねえ」

「何ですかなんか文句でもあるのですか」

カレルヴォ兄上は意味深に俺とヴァイナモを見比べる。俺は訳がわからず首を傾げた。そしてヴァイナモは理解しているだろうと思い、ヴァイナモを見上げる。だが意外にもヴァイナモもわかっていないらしく、キョトンとしていた。その様子にカレルヴォ兄上は溜息をつく。

「……お前ら2人揃って鈍感かよ……」

「失礼ですね。私は割と察しの良い方だと自負しています」

「そう言う意味じゃねえ……」

呆れて手を振るカレルヴォ兄上の後ろから、控えめな笑い声がクスクスと聞こえてきた。ちらりと見ると、カレルヴォ兄上の婚約者が扇子で顔を覆って上品に笑っていた。

「あら、ごめんなさいね。ついついお2人の会話が面白くて笑ってしまいましたわ」

「笑うんじゃねえ、ユスティーナ」

婚約者の名前はユスティーナと言うらしい。え?なんで兄弟の婚約者の名前を知らないのかって?以前の俺が興味なかったからだよ。本当、びっくりするくらい周りのこと知らなかったんだよね。

じぃっとユスティーナさんを見ていると、俺の視線に気づいた彼女はスっと淑女の顔つきになって、美しいカーテシーを見せた。

「エルネスティ殿下とは初のお目見えとなります。私、カレルヴォ・ラリ・ユッタ・ハーララの婚約者であり、フルメヴァーラ公爵家次女のユスティーナ・カティ・フルメヴァーラと申します」

「ご紹介、ありがとうございます。私はハーララ帝国第四皇子、エルネスティ・トゥーレ・タルヴィッキ・ニコ・ハーララです」

ふわあ~これぞTheご令嬢って感じだなあ。なんか育ちの良さが仕草に滲み出ているって言うか。なんて呼ぼう。ユスティーナ嬢?いきなりファーストネームは馴れ馴れしいか?じゃあフルメヴァーラ嬢?でも兄上の婚約者でしょ?未来の義姉でしょ?そんなよそよそくていいのか?

「ふふっ。私のことはユスティーナ義姉上と呼んでくださると嬉しいですわ」

「えっ!?良いのですか!?」

「はっ!?やめとけ!」

ユスティーナさんは悪戯っぽく笑った。喜ぶ俺とは対照的に、カレルヴォ兄上は焦っている。なんだ?なんか問題でもあるのか?

「良いじゃない。未来の義弟に義姉上と呼ばれたいの」

「……いつ結婚出来るかわからないんだぞ?」

「あら。私は何が起きても貴方から離れるつもりは無くてよ。心配ならさっさと結婚しましょうよ」

「……それが出来ないから結婚していないんだろう」

「いつまで待たせるつもりかしら。もう結婚適正年齢を過ぎかけているのだけど」

「……次期皇帝が決まるまで」

「……本当、仕方のない人ね。だから好きになったのだけど」

ユスティーナ義姉上は悲しそうに笑った。公爵令嬢なら皇后に相応しい身分だ。いくら帝位継承権を返上しているとはいえ、余計な混乱を起こさないために結婚していないようだ。それほど帝位継承権争いは熾烈で、何が起きるかわからない。

ならさっさと第一皇子を皇太子にすれば?と思うだろうが、偉大な偉大な『皇帝説』の一文にこうあるのだ。

皇帝は崇高な血の筋にて
人の創りしものに依らず
神の気まぐれなるものに依らず
太上皇の意にも依らず
ただ才と実に依るべし

これには様々な解釈があるが、今この国で適用されている解釈は、

皇帝は先代皇帝の子供の中から
地位や母親の身分ではなく
性別や年齢などどうにもならないものでもなく
太上皇や先代皇帝の意見でもなく
ただ才能や実績の優れたものから選び出すべきだ

と言うものである。つまり一番初めに生まれた男の子だから君が皇太子ね、みたいな安直脳死決定はするなってことだ。だから帝位継承権争いなんて面倒なことをしている。

先代皇帝の指名じゃないならどうやって次期皇帝を決めるか。それは皇帝崩御時、または譲位時に行われる貴族投票だ。誰が一番皇帝に相応しいか投票し、その結果を枢密省が認可した場合、次期皇帝として初めて認められるのだ。皇帝不在時、ある意味最高位の権限を枢密省は持っているのだ。

まあ長々と話したが要するにカレルヴォ兄上は軍での功績を称えられ皇帝になることを避けるため、皇帝になる第一条件である『結婚し、子供を産める状況』にならないようにしているのだ。この条件は上記の『皇帝説』の一文目に基づく解釈だ。子供を産めない人が皇帝になったら次期皇帝の条件を満たす子供が生まれないじゃん、と言う考えである。

まあカレルヴォ兄上は帝位継承権を返上しているし、同じく『皇帝説』の一文の『武は剣を以て皇帝に忠誠し』に基づくと皇帝にはなれないのだけど。「そんなの関係ねぇ!」って言える立場にいながらも、他の兄弟姉妹たちに遠慮して皇帝の条件をとことん避けているのだ。

そしてそれは、ユスティーナ義姉上に混乱の火の粉が降り注がないようにするためでもある。

「……だからこそ、夢を見させてくださらない?貴方の弟に義姉上と呼ばれる、幸せな将来を」

ユスティーナ義姉上も理解しているのだ。だからこそ無理強いはしないし、ずっと待つつもりなのだ。でも、それでも、何時まで待てば良いの?と不安なのだろう。

カレルヴォ兄上はその意図を汲み取ったようで、申し訳なさそうな、それでも愛しいと感じているような、そんな複雑な表情を見せた。

この2人は本当に愛し合っている。なのに周りに配慮しすぎて最高の幸せを掴めないでいる。

そんな彼らを俺が少しでも幸福に出来るなら。

「……では、ユスティーナ義姉上と呼ばせていただきますね」

喜んでその役目を引き受けたい。そう、強く思った。

ユスティーナ義姉上はそれはもう美しく、そして哀しげに笑って、

バギッ

扇子を粉砕した。

俺とヴァイナモが瞠目していると、呆れたようなカレルヴォ兄上の声が零れた。

「だからやめとけと……すまん。萌えを感じたら怪力で物を粉砕してしまうんだ」

ユスティーナ義姉上はてへぺろしている。カレルヴォ兄上はペチンとその頭を叩いた。

いや、うん。一言言わせて。

俺の感傷を返して??
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