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5章 甘いもの、苦いもの、唯一自分で選べるもの
甘いもの、苦いもの、唯一自分で選べるもの#4
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「――最近、昴くん沼にハマっちゃって。過去の動画も遡って観てるんだよね」
「あー、Crescendoriの新しいアンバサダーの子だっけ?」
「そうそう。今月クリスマスコンサートがあるんだけど、私がハマった時点ではもうチケット完売してて。当日券狙おうかなー」
買い物を終え、カフェで少し休んでから帰ろうとしてレジに並んでいた今時分。店内からファンの会話が昴本人の耳に飛び込んできた。昴に聞こえたということは、隣に居る理月にも当然聞こえたことだろう。ちらりと理月の顔を窺うと、ぱちりと視線が重なった。昴は気にしていないが、理月は被った黒い帽子の鍔を少し下げる。
今日は理月が各取引先等の利害関係者に対してお歳暮を買いに行くと言うから、昴もそれに付き合い銀座を訪れていた。このところ理月に疲れが溜まっているように見えたから心配で着いてきた、というのもあるが、単純に一緒に出掛けたかっただけだ。
昨夜実家から帰ってきた後の理月は嬉しげな表情をしていて、今日も普通に楽しげだったけれど、時折表情が翳っている。また何か難しいことでも考えているのだろう。
「イートインじゃなくて、テイクアウトにしようよ」
「ちょっと座りたかったけどなー。まあ、オッケー」
理月がそう言うものでテイクアウトにすることにして、理月は蜂蜜入りの温かいチャイラテを、昴はコーヒーを購入し、受け取って店を出た。ドリンクのカップを持ったまま、車を駐車してあるコインパーキングへと足を向ける。ホットだからやっぱり歩きながらだと飲みづらい。
Crescendori、というブランド名通り、Crescendoriの広告塔となって以降昴の人気は鰻上りだ。あの広告の効果は凄かった。国内では都内をメインに全国各地に広告が掲示されたらしく、海外でも掲示され、ネットの広告にも利用されたようだ。そんな訳で、昴のSNSのフォロワーや動画配信サイトのチャンネル登録者数は爆増。フォロワーは二十万人から四十万人に、チャンネル登録者数は二百万人から三百万人へ。
理月が冗談交じりに言っていた『動画のチャンネル登録者数一千万人』まではまだ先が長いけれど、この調子なら五百万人くらい行けるかも、と昴は手ごたえを感じている。
「それにしても、ファンに一緒に居るところ見られたって、りっちゃんが誰かなんて伝わらないし別にいーんじゃないの? もし誰かに写真撮られたところで、相手がりっちゃんなら熱愛スクープって感じにはならないだろうしさぁ」
駐車場に向かいながら昴が言うと、理月は黒縁の伊達眼鏡の縁に被った眉を顰め、少し口唇を尖らせた。
「例えばだけど『銀座で昴くんに遭遇しちゃった~! 軽く変装してたけど、変装してても超イケメンだった~! 一緒に居た人も軽く変装してるっぽかったけど芸能人とかなのかな?』とか言ってSNSに並んでる写真アップされたりとかしたくないし……」
「ふはっ! りっちゃん、ガチ恋ファンの解像度高いね」
ガチ恋ファンのモノマネをした後げんなりとした調子で口角を下げる理月を見て、声を上げてけらけら笑う。理月は伊達眼鏡と帽子のみだけれど、昴の方はそれに加えて黒のマスクで顔の下半分を隠して変装している。
「僕は昴が更新したら絶対見るし、コメント欄も目を通してるから詳しいんだよ。いつもコメントしてる『ちくわぷりん@昴くん最愛』とか『aoichan』とか覚えちゃったし、文体を完コピしてモノマネ出来る」
「えー、誰それ? 全然分かんない。コメント欄なんか見てないでりっちゃんがコメントしてよ。ていうかいい加減アカウント教えてってば」
「そんなことしたら昴が僕にだけ返信するから出来ないに決まってるだろ」
理月からファンの名前を出されても、昴は本当にさっぱり覚えていない。SNSは稀に更新するだけだし、フォローしている友達以外の通知を切っているから仕方無い。理月は昴のSNSを見るためだけの一切呟かないアカウントを持っているらしいが、コメントは付けてくれていないらしく、コメントしてくれれば良いのに、と思っている。
「あー、Crescendoriの新しいアンバサダーの子だっけ?」
「そうそう。今月クリスマスコンサートがあるんだけど、私がハマった時点ではもうチケット完売してて。当日券狙おうかなー」
買い物を終え、カフェで少し休んでから帰ろうとしてレジに並んでいた今時分。店内からファンの会話が昴本人の耳に飛び込んできた。昴に聞こえたということは、隣に居る理月にも当然聞こえたことだろう。ちらりと理月の顔を窺うと、ぱちりと視線が重なった。昴は気にしていないが、理月は被った黒い帽子の鍔を少し下げる。
今日は理月が各取引先等の利害関係者に対してお歳暮を買いに行くと言うから、昴もそれに付き合い銀座を訪れていた。このところ理月に疲れが溜まっているように見えたから心配で着いてきた、というのもあるが、単純に一緒に出掛けたかっただけだ。
昨夜実家から帰ってきた後の理月は嬉しげな表情をしていて、今日も普通に楽しげだったけれど、時折表情が翳っている。また何か難しいことでも考えているのだろう。
「イートインじゃなくて、テイクアウトにしようよ」
「ちょっと座りたかったけどなー。まあ、オッケー」
理月がそう言うものでテイクアウトにすることにして、理月は蜂蜜入りの温かいチャイラテを、昴はコーヒーを購入し、受け取って店を出た。ドリンクのカップを持ったまま、車を駐車してあるコインパーキングへと足を向ける。ホットだからやっぱり歩きながらだと飲みづらい。
Crescendori、というブランド名通り、Crescendoriの広告塔となって以降昴の人気は鰻上りだ。あの広告の効果は凄かった。国内では都内をメインに全国各地に広告が掲示されたらしく、海外でも掲示され、ネットの広告にも利用されたようだ。そんな訳で、昴のSNSのフォロワーや動画配信サイトのチャンネル登録者数は爆増。フォロワーは二十万人から四十万人に、チャンネル登録者数は二百万人から三百万人へ。
理月が冗談交じりに言っていた『動画のチャンネル登録者数一千万人』まではまだ先が長いけれど、この調子なら五百万人くらい行けるかも、と昴は手ごたえを感じている。
「それにしても、ファンに一緒に居るところ見られたって、りっちゃんが誰かなんて伝わらないし別にいーんじゃないの? もし誰かに写真撮られたところで、相手がりっちゃんなら熱愛スクープって感じにはならないだろうしさぁ」
駐車場に向かいながら昴が言うと、理月は黒縁の伊達眼鏡の縁に被った眉を顰め、少し口唇を尖らせた。
「例えばだけど『銀座で昴くんに遭遇しちゃった~! 軽く変装してたけど、変装してても超イケメンだった~! 一緒に居た人も軽く変装してるっぽかったけど芸能人とかなのかな?』とか言ってSNSに並んでる写真アップされたりとかしたくないし……」
「ふはっ! りっちゃん、ガチ恋ファンの解像度高いね」
ガチ恋ファンのモノマネをした後げんなりとした調子で口角を下げる理月を見て、声を上げてけらけら笑う。理月は伊達眼鏡と帽子のみだけれど、昴の方はそれに加えて黒のマスクで顔の下半分を隠して変装している。
「僕は昴が更新したら絶対見るし、コメント欄も目を通してるから詳しいんだよ。いつもコメントしてる『ちくわぷりん@昴くん最愛』とか『aoichan』とか覚えちゃったし、文体を完コピしてモノマネ出来る」
「えー、誰それ? 全然分かんない。コメント欄なんか見てないでりっちゃんがコメントしてよ。ていうかいい加減アカウント教えてってば」
「そんなことしたら昴が僕にだけ返信するから出来ないに決まってるだろ」
理月からファンの名前を出されても、昴は本当にさっぱり覚えていない。SNSは稀に更新するだけだし、フォローしている友達以外の通知を切っているから仕方無い。理月は昴のSNSを見るためだけの一切呟かないアカウントを持っているらしいが、コメントは付けてくれていないらしく、コメントしてくれれば良いのに、と思っている。
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