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8章 ひとつの時代
ひとつの時代#1
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「――毎年気が重いけど、今年はちょっとだけ気が楽かも。昴が一緒に来てくれるから」
そう言って柔らかく笑う理月を眺め見て、昴は緊張で強張った頬を少し緩めた。
年末年始は理月と甘ったるく一緒に過ごし、来たる一月三日、水曜日。理月の父へ挨拶する日がついにやってきた。現在はまだ昴の部屋で着替えやら支度をしている真っ最中で、昴の方は今しがたシャツの袖に腕を通したところ。隣の理月は既にきちんと紺地のスーツに身を包み、髪もしっかりセット済みだ。
「お父さんに言うって決めてる分、いつも以上に気が重くなりそうなところなのに凄いなあ。僕、緊張でガチガチだよ」
付き合ってもいないのに関係を伏せられていたことは遺憾に思っていた。が、いざ付き合うとなったら隠しておいたほうが良いのでは、と少し怖気づく部分もある。これ以上なく今が幸せだから、壊されることを恐れてしまう。
けれど理月が案外頑固で、こうと決めたら一直線なことはよく知っている。そういう頑固者だから、これまで長年口説き落とせなかったわけで。そして昴を選ぶと決心してくれたからこそ、一転しての馬鹿真面目な交際宣言というわけだ。だから、選んでくれた理月の気持ちに応えたい。
「大丈夫だよ。ほら、リラックス。一万人の観客を前にしてもいつも通り出来てたじゃないか。僕の父ひとりくらい、どうってことないだろ」
理月は昴の頬を両手でそっと包み、目を細めて微笑んだ。昴の目から見た理月は今日も完璧に綺麗だ。いつ何時見ても、毎日見ていても惚れ直し、今日も今日とてぽけーっと見惚れてしまう。顔が好き、というとなんだか薄っぺらく聞こえるが、世界一綺麗だと思うのだから仕方ない。当然好きなところは顔だけじゃなく、というか理月を構成するすべてが好きだ。
「りっちゃん、今日も世界で一番綺麗だね」
「ああ、いつも通りで安心した。その調子なら大丈夫そうだね」
デレデレと見惚れながらに言うと悪戯っぽく上目遣いに見詰められ、ちゅっ、と軽く口づけられた。既にあんなことそんなことを済ませたものの、軽いキスだけでも火が付いたように顔が熱くなる。
「大丈夫じゃないよ。多分、今のキスで熱が出た」
「熱は出てないだろ。なのに頭が浮かれてるな」
恋人になったとしても、さらっと流されるのは相変わらずだ。昴がシャツのボタンを留め終えると、理月は昴の襟ぐりにネクタイを回した。顔が近づいて、やっぱり胸が高鳴る。
「ネクタイ結ぶよ――こら、昴、じゃれるな。結びにくい」
ちゅ、ちゅ、と理月の頬や瞼に軽く口づける。理月は喉を鳴らして苦笑した。
「家の中なら、いつでも、何度でもキスして良いって言ってたじゃん」
「とは言ったけど。んっ……こーら。そういうのは、帰ってからだよ。誰より一番格好良い男に仕立ててあげるから大人しくして。まあ、昴はそのままで一番格好良いけどね」
昴が頬や耳へとキスを続けていくと理月はクスッと笑い、まだセットしていない昴の髪をくしゃっと撫でた。元から理月は昴に甘かったけれど、恋人になってからと言うもの一層甘い。こうして甘やかされる度にきゅんとさせられて、とろとろに脳が蕩けていく。
「一番カッコ良いのはりっちゃんだよ。一番綺麗なのも、一番可愛いのもね。でも、君の隣に並んでも見劣りしないようにカッコよくして」
「分かった分かった」
理月がピシッとネクタイを結んでくれて、理月が選んでくれた新品のスーツのジャケットに袖を通した。それから「じゃあ、洗面所に移動しよう」と声を掛けられて移動する。髪もピシッと理月がセットしてくれた。昴が普段自分でセットするものとは違う、前髪を少し残して七三に分けたオールバックだ。額を出してセットすると普段よりか大人びる。
「――これで良し。宇宙で一番昴がカッコ良いよ」
「えへへ、ありがとう。りっちゃんからカッコ良いって言われるのが一番嬉しい」
ちゅっと軽く理月の口唇にキスをして目を細める。今までずっと子ども扱いするように理月から可愛い可愛いと言われ続けてきたから、カッコ良いと言ってもらえると単純に心が弾む。
「それじゃあ、そろそろ行こうか。今日さえ無事に終われば、もう何も気にすることなんてないしね。父に理解してもらえるように頑張るから――少しだけ、昴の力を貸して」
そう言って微笑んだ理月の表情は柔らかい。けれど、僅かに緊張の色が窺えた。
「勿論。りっちゃんのためなら火の中水の中、藤原家の新年会の中だって飛び込むよ」
「あははっ、ありがと」
くつくつ笑いながらふたりで洗面所から出て玄関で靴を履く。出来ることなら、理月が家族と上手く行くように――もし万一上手く行かなくとも、どうなったとして絶対幸せにすると心に誓って、玄関のドアを開け部屋を出た。
そう言って柔らかく笑う理月を眺め見て、昴は緊張で強張った頬を少し緩めた。
年末年始は理月と甘ったるく一緒に過ごし、来たる一月三日、水曜日。理月の父へ挨拶する日がついにやってきた。現在はまだ昴の部屋で着替えやら支度をしている真っ最中で、昴の方は今しがたシャツの袖に腕を通したところ。隣の理月は既にきちんと紺地のスーツに身を包み、髪もしっかりセット済みだ。
「お父さんに言うって決めてる分、いつも以上に気が重くなりそうなところなのに凄いなあ。僕、緊張でガチガチだよ」
付き合ってもいないのに関係を伏せられていたことは遺憾に思っていた。が、いざ付き合うとなったら隠しておいたほうが良いのでは、と少し怖気づく部分もある。これ以上なく今が幸せだから、壊されることを恐れてしまう。
けれど理月が案外頑固で、こうと決めたら一直線なことはよく知っている。そういう頑固者だから、これまで長年口説き落とせなかったわけで。そして昴を選ぶと決心してくれたからこそ、一転しての馬鹿真面目な交際宣言というわけだ。だから、選んでくれた理月の気持ちに応えたい。
「大丈夫だよ。ほら、リラックス。一万人の観客を前にしてもいつも通り出来てたじゃないか。僕の父ひとりくらい、どうってことないだろ」
理月は昴の頬を両手でそっと包み、目を細めて微笑んだ。昴の目から見た理月は今日も完璧に綺麗だ。いつ何時見ても、毎日見ていても惚れ直し、今日も今日とてぽけーっと見惚れてしまう。顔が好き、というとなんだか薄っぺらく聞こえるが、世界一綺麗だと思うのだから仕方ない。当然好きなところは顔だけじゃなく、というか理月を構成するすべてが好きだ。
「りっちゃん、今日も世界で一番綺麗だね」
「ああ、いつも通りで安心した。その調子なら大丈夫そうだね」
デレデレと見惚れながらに言うと悪戯っぽく上目遣いに見詰められ、ちゅっ、と軽く口づけられた。既にあんなことそんなことを済ませたものの、軽いキスだけでも火が付いたように顔が熱くなる。
「大丈夫じゃないよ。多分、今のキスで熱が出た」
「熱は出てないだろ。なのに頭が浮かれてるな」
恋人になったとしても、さらっと流されるのは相変わらずだ。昴がシャツのボタンを留め終えると、理月は昴の襟ぐりにネクタイを回した。顔が近づいて、やっぱり胸が高鳴る。
「ネクタイ結ぶよ――こら、昴、じゃれるな。結びにくい」
ちゅ、ちゅ、と理月の頬や瞼に軽く口づける。理月は喉を鳴らして苦笑した。
「家の中なら、いつでも、何度でもキスして良いって言ってたじゃん」
「とは言ったけど。んっ……こーら。そういうのは、帰ってからだよ。誰より一番格好良い男に仕立ててあげるから大人しくして。まあ、昴はそのままで一番格好良いけどね」
昴が頬や耳へとキスを続けていくと理月はクスッと笑い、まだセットしていない昴の髪をくしゃっと撫でた。元から理月は昴に甘かったけれど、恋人になってからと言うもの一層甘い。こうして甘やかされる度にきゅんとさせられて、とろとろに脳が蕩けていく。
「一番カッコ良いのはりっちゃんだよ。一番綺麗なのも、一番可愛いのもね。でも、君の隣に並んでも見劣りしないようにカッコよくして」
「分かった分かった」
理月がピシッとネクタイを結んでくれて、理月が選んでくれた新品のスーツのジャケットに袖を通した。それから「じゃあ、洗面所に移動しよう」と声を掛けられて移動する。髪もピシッと理月がセットしてくれた。昴が普段自分でセットするものとは違う、前髪を少し残して七三に分けたオールバックだ。額を出してセットすると普段よりか大人びる。
「――これで良し。宇宙で一番昴がカッコ良いよ」
「えへへ、ありがとう。りっちゃんからカッコ良いって言われるのが一番嬉しい」
ちゅっと軽く理月の口唇にキスをして目を細める。今までずっと子ども扱いするように理月から可愛い可愛いと言われ続けてきたから、カッコ良いと言ってもらえると単純に心が弾む。
「それじゃあ、そろそろ行こうか。今日さえ無事に終われば、もう何も気にすることなんてないしね。父に理解してもらえるように頑張るから――少しだけ、昴の力を貸して」
そう言って微笑んだ理月の表情は柔らかい。けれど、僅かに緊張の色が窺えた。
「勿論。りっちゃんのためなら火の中水の中、藤原家の新年会の中だって飛び込むよ」
「あははっ、ありがと」
くつくつ笑いながらふたりで洗面所から出て玄関で靴を履く。出来ることなら、理月が家族と上手く行くように――もし万一上手く行かなくとも、どうなったとして絶対幸せにすると心に誓って、玄関のドアを開け部屋を出た。
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