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【第3話】禁じられた灯火
しおりを挟むキノーの心に初めて火が灯されたのは、十歳の時。
隣の居室に住む、友達の弟に出会ったその瞬間だった。
小さな手足。丸っこい顔。ふわふわの髪に、柔らかそうな唇。
(これがきっと、司教さまのおっしゃる“天使”ってヤツなんだろう……)
彼女はそう理解し、この少年が困っているときは率先して助けようと心に決めた。
しかしその日を境に”天使”は複数見つかる様になる。
居住区の年下の男の子。聖歌隊の男の子。ジャンク屋の男の子。
何故か自分より年下の少年に限られた。
数年後のある日、大聖堂にて“神”の画像を見せられた時だった。
キノーの体に電撃が走る。
綺麗に散髪された黒髪。長いまつ毛。整った顔立ち。
美しかった。
そして何より、その容姿はまるで五歳くらいの少年だった。
(神は美しい少年の姿をしているっ……という事は、
私が抱いて来た気持ちは正当なものだったんだっ……!)
三日後、彼女は児童誘拐の罪で審問に掛けられた。
居住区にいた五歳の少年を自室へ連れ込んだのだ。
「……君は、自分が何をしたのか解っているかね?」
キノーは審判室の床に座らされ、審問官とその他数名の教団員から失望の眼差しを向けられた。
「料理や掃除を誰よりも早く上手にこなすと、教団の中で評判だったのに……」
「大人しくて真面目な子だと思っていた……大変残念だ」
取り囲む男たちからの失意の声。
重苦しい空気に押しつぶされそうになりながら、キノーは何とか言葉をひねり出す。
「あの……神はっ、五歳児の姿をしていましたっ!
なので同じ五歳児に好意を抱くのはっ、至極当然ではないでしょうかっ!?」
「いや、問題はそこじゃないぞ!?」
「もし仮にっ! 五歳児の身体に触れたとしても、それは信仰から来る神聖な感情であって……」
「おいッ! コイツ自供を始めたぞッ!」
唐突で早口な彼女の弁解に、教団員は騒めいた。
しかし幸い、彼女は自他共に認める熱心な信仰者でもあった。
危うく収容所行きになりかねない事態だったが、本当は『迷子の児童を一時的に家で保護した』という事実をなんとか信じて貰えた。
……その代わり、今後一切の児童との接触を禁じられた。
キノーの心に二度目の火が灯ったのは、同室者が隠し持っていた書物を見たときの事。
比較的おおらかな教団なため、禁書の類は少なかった。
にもかかわらず、同室者の少女がコソコソ隠れて読んでいる本……。
好奇心が疼く。
キノーは、少女が留守の間に本を盗み見る事に成功した。
”船の本”と少女は言っていた。
しかしその実、中身は肌を寄せ合う男性同士の絵が描かれていた。
すぐさま本を閉じる。
衝撃……というより、ほぼ拒絶に近かった。
良くない物を見てしまったという気持ちと、同室者への罪悪感。そして、それとは別の得も言われぬ感情……。
三日間、キノーの脳内を”船の本”が支配した。
そして四日目には“船の本”が沼へと誘う泥舟であった事を理解した。
“船の本”は衣食の配送業者を利用し、教団内で密かに流通していた。
主に外部からの輸入品だったが、教団員の中にも数名の執筆者が潜伏している事もわかった。
ルールは一つ。
愛好家以外に、本の存在がバレてはいけない。
流通経路は“女神”と呼ばれる謎の人物が管理しており、新刊は必ず彼女の元から流通が始まる。
不穏な動きは瞬時に女神に捕捉され、部外者の預かり知らぬ場所で速やかに処罰が下されていた。
キノーが沼にハマってからしばらくの後、事件が起きた。
『この本を書いた者を、女神の間にて待つ』
新刊と共に回された、女神直書と思われる手紙。愛好家たちに電撃が走る。
「私がっ、その本の作者ですっ!」
キノーは迷う事なく、正直に名乗り出た。
呼び出された女神の間。
それはなんと、大司教の妻の居室だった。
「貴女には今後、“船の本”閲覧と執筆の一切を禁じます」
女神は無表情にそう言い放ち、手に持っていたキノー著作『大司教の身体に群がる司教たちとの酒池肉林』の本を焼却した。
(私はなんて事をしてしまったんだ……)
自室への帰り道、キノーは改めて自分の行いを悔いた。
イケメン過ぎる大司教に、創作意欲を抑えることが出来なかったのだ。
(でもまさか……女神様の正体が、大司教様の奥方だったなんてっ)
収容所送りもあり得た。
しかも、これで二度目だ。
今回も温情により罰を免れたが、罪の意識は重く心に残された。
(もう二度と……二度と心に火を灯しちゃダメだっ……)
彼女は自戒の念を込め、禁欲の誓いを立てた。
それからまた、数年が経った。
キノー、二十六歳。
惨劇の夜の一ヶ月前へ。
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