転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第7章

第三十九話 過去編──鬼教官だった皇帝陛下

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 ──校長は他の者よりはラウラリス・エルダヌスという人間については知っているつもりだ。

 世間で呼ばれるほどの暴君でないのは理解している。愛用の大剣を振り下ろすのは最終手段であり、それまでに徹底調査を行い改善要請を出すあたりはむしろ、先代の暴君に比べれば情け容赦は十分以上に有している。

 わかってはいるが、鬼教官ラウラリスから与えられた素晴らしい思い出トラウマはそう簡単に克服できるものではない。彼女のしごき・・・に比べれば、軍事転覆クーデターの際に最前線で剣を振るうなど楽園に近かった。

「ところで、私好みのイキ・・の良い奴がいたりはしないか?」
「無茶をおっしゃられますな」

 よって、貴婦人ラウラリスから声を頂くたびに、背筋が伸びてしまうのも無理からぬ事なのだ。

「あなた好みともなれば、それこそ何十年に一度の逸材と呼べる者でしょうに」

 校長を伴って校舎を練り歩くラウラリスは、授業中の教室や教練を覗き込んでは考え込むそぶりを見せていた。お忍びの視察と最初に口にしていたが、どうやら目的の半分ほど『こちら』にあったようだ。

「面白い者がいれば声を掛けようかと思っていたんだがな」
「少なくとも、在校生でお眼鏡に適う若者はいないかと。士官学校で探さずとも、卒業した優秀な者から見繕った方が早いのでは?」
「肉体面でも精神面でも、下手な癖が付く前の素材だ」
「おっしゃられる意味は……何となくわかりますが、やはり難しいかと」

 元々、エルダヌス帝国は痩せている土地が多くあり、特に国内における食料生産性が壊滅的だ。ラウラリスが私財を投じて改善の研究を行っており、結果は出始めているものの国内全土に供給できるほどではなく、末端部は未だ貧困が続いている。

 故に、帝国は他国への侵略を止めることができない。侵略し得た版図が、征服国に搾り上げられて痩せ劣ると分かっていながらも。

 この悪き流れをラウラリスは断ち切りたいと考えている。

 けれども、いかに優れた皇帝であろうともラウラリスという偉人はこの世に一人しか存在しない。彼女を補佐する者はいるにはいるが、どれもが彼女の求める水準を満たしてはいなかった。

 ラウラリスが求めているのは、戦乱において政治的意図や貴族の思惑に左右されず、皇帝たる己に付き従う絶対的な配下。

 しかし、校長の述べる通り、彼女の『目に付く』ということは、それこそ一軍を任されるほどの才覚──あるいはまさしく一騎当千の武勇を見据えた若い芽である。士官学校が優れた才能が国内から集う場所とはいえ、そうひょっこりと現れるはずがないの。流石に市井の中から生え抜きを探すよりかは確率はあるが、だとしても石クズの山から宝石の一欠片を探し出すようなものである。 



 ふと、ラウラリスが足を止めたのは、二階の廊下に差し掛かった時だった。

 目を向けた窓から覗ける外の広い校庭では、制服姿のままで延々と外周を走らされている生徒たちの姿があった。後ろからは木剣を担いだ教官。窓越しで距離も遠くいが、怒鳴り声を上げながら追い立てているのが見てとれた。

「士官学校と上等に謳ったところで、ああいうのはどこも変わらんな。我儘盛りな子息令嬢クソガキは、泣きべそかくまでとことん走らせるに限る」
「毎年の風物詩でありますな」

 もし教官に追いつかれようものなら容赦無く尻に木剣が叩き込まれた上で、周回が追加される。おかげで誰もが必死になって足を動かしていた。

 おそらくは規則違反や揉め事を起こしたのだろう。

 校長の言葉通り、新入生が入ってくる度に見られる光景だ。まだ貴族根性の抜けない甘ちゃんが舐めた真似をすると、こうして徹底的に教官にしごかれて上下関係と規則を文字通り叩き込まれるのだ。

 基本的にはそれ込みで我が子を入学させるものの、中には『ただ拍が付く』程度の認識の貴族もいる。その為、入学時に『教育方針は学校に一任する』という誓約書に親と子の連名で署名させている。

 これも、帝国士官学校の後援うしろにラウラリス・エルダヌス皇帝陛下の威光があればこそである。

 ただし、叱る側の教官とて相応の責任を有する事となる。生徒を追い立てている教師とて、実質的には叱りつけている子供と同じ距離を走る事になる。処罰をする側にも処罰ができるだけの体力や技量があってこそ成立するのだ。

(あれは……)

 先頭を走る生徒を目にすると、校長の小さく眉尻が反応する。幸いにも貴婦人は皇帝を見据えたままで、校長が浮かべる表情の変化に気が付かなかったが──。

「おい」
「は、はっ! なんでありましょう!」
「だからそう肩肘を張るな。互いの立場というものがあるだろうに」

 不意に声を投げかけられると、骨身の髄にまで染みついた過去の習慣が表面化する。脊髄反射で敬礼した校長を一瞥もせずに、ラウラリスは窓越しの校庭を見据えたままだ。

 彼女はそのまま、ある一点を指差す。懲罰として外周を走らされている一人の生徒。

 ──まさしく、校長が懸念を抱いた青年に相違なかった。
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