転生ババァは見過ごせない! 元悪徳女帝の二周目ライフ

ナカノムラアヤスケ

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第7章

第四十六話 根幹

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 思考を重ねていたはずが、いつの間にかまた微睡んでいたようだ。

 想像していたよりもずっと体力の回復が遅い。普段なら寝起きの良いラウラリスも今は瞼が重い。怪我の影響で体力の回復が遅くなっているのだ。

 このまま意識を手放したい欲求に駆られるラウラリスであったが、瞼が閉じるよりも先に遠くから複数の足音が響いてくる。刻々と近づいてくるそれらを無視して呑気に寝息を立てられるほど、今のラウラリスに余裕はなかった。

 重たい瞼をどうにか開き、足音の主たちが訪れるのを待った。

「……あら、起きていたのですか。見張りからは寝ていると聞いていましたが」
「そりゃぁ、一国の王妃様が来るとならば、イビキをかいている暇なんぞないでしょうに」

 鉄格子を隔てた一歩先に現れたのは、セディア・エフィリス。

 側にはやはり、王妃付き近衛騎士隊隊長のアイゼンが控えている。被っている兜が以前と違うのは、ラウラリスによって破壊されたからだ。

「王妃様ともあろうお方に、こんなカビ臭いところまでご足労頂いて悪いね。なんのおもてなしも出来なくて申し訳ない」
「構いません。火急の要件があれば、たとえ汚泥の中であろうとも足を踏み入れるのが王族の勤めですから」

 王妃が現れたこと自体は、意外ではあれど驚くことではない。遠からずうちに接触してくることは分かっていたからだ。ただそれは、ラウラリスが連行されてという形とばかり考えていたのに、まさか王妃様の方から来るとは。

「王都の方もまだ騒がしいだろうに。王妃様がお忍びで城を抜け出して大丈夫なのかい?」
「ご安心を。今日この日のための段取りは以前から整えておりました。それに、此度の来訪も公務の一環として周知してあります。加えて、あなたの行動はほんのごく一部を除けば秘匿されています」

 二人は穏やかに言葉を交わすものの、和やかな会話ではあり得ない空虚が漂っていた。

「それより、見たところ随分と顔色が悪いですね」
「どこぞの騎士さんに腕を抉られてんだ。体力も血も何もかもが足りてないんだよ」

 牢の中でずっと考えていたことがある。

 近衛騎士隊を自由に動かせるのは、セディア王妃のみだ。町に先行して潜んでいた獣殺しの刃の構成員を排除し、ラウラリスを待ち受ける算段を組んだのも彼女に相違ない。

 ただその理由は果たして何なのか。

「教えてくれよ、セディアさん」

 他愛もない会話で時を伸ばすのももう終わりだ。

 一時、あるいは一瞬でも存在していたであろう、この優しい関係に終止符をうつ言葉を、ラウラリスは紡ぐ。

「どうして獣殺しの構成員を殺し、わざわざ手間をかけて私を罠に嵌めたんだ」

 ラウラリスはまるで、一縷の希望を抱くように、王妃に声を投げ掛ける。自身に向けたあの何気なくも穏やかな笑みが、偽りであったとは思えなかった。思いたくなかった。

「自ら名乗っていたわけではありませんが」

 少女の言葉を受けた王妃──セディア・エフィリスは毅然とした面持ちで応える。

「『亡国』を影から操っていたという意味で──この私があなた方の考えている『盟主』に他ならないからです」

 告げられた事実を前にして、ラウラリスは目を閉じ、喉の奥で声を噛み殺していた。

「あまり、驚かないのですね」
「これでも十分以上に驚いてる。顔に出さないように必死になって堪えてるだけさ」

 ラウラリスも、考えなかったわけではなかった。

 長年にわたって亡国を憂える者に資金を提供する財力と、それらの行動を獣殺しに一切合切悟らせない政治的手腕。可能とするのは国の中枢に食い込む権力者に他ならない。

 セディア・エリフィスはその条件を、これ以上もなく満たした人物である。

 けれども、それはあくまで数ある候補者の一人であったに過ぎない。

 亡国を憂える者が活動を開始したのはおよそ二十年前。その当時、セディアはまだ十歳ほど。十代の半ばにも届いていない少女が、無害な宗教団体を凶悪なテロ組織に変貌させたなど、常識的に考えなくても普通にあり得ない。

 ラウラリスの個人的な感情としても、セディアが盟主である可能性は低いと思っていた。それを確かめる意味もあって、セディアの誘いに乗り城に幾度も足を運んだのである。

 けれども、近衛騎士隊に襲われ背後にセディアがいると判明した時点で、彼女こそが亡国の『盟主』であるという可能性を、ラウラリスは嫌でも見据えるほかなくなっていた。

 十歳の少女がいかなる手段を用いて『亡国』を生み出したのか。

 ……否、手段を考えるのは後回しだ。
「だとしてもまだ分からないことだらけだ」

 この後に及び王妃がどうのこうのという、ありきたりな言葉ぶつける気は毛頭なかった。その段階など、とっくに超えている。この瞬間に見据えるべきは『根幹』。 

「動機はなんなんだ。国を丸ごと巻き込んでまで、あんたは何をしようってんだい」

『亡国を憂える者』の目的は、皇帝を初めとするエルダヌス帝国の復興にあることは周知の事実。しかし、それは信徒たちを動かす為の都合の良い幻想に過ぎない。彼らが事を成せばそれだけ帝国の愚かしさが人々に広まり、反感と拒絶が満映する。これでは帝国の復興など夢のまた夢だ。

 であれば、亡国を作った盟主には何か別の目的があって然るべき。

 ラウラリスのいう通り、無辜の民を大勢巻き込み被害や、被人道的な実験も多く行う犯罪集団を生み出してまで果たすべき本懐とは果たして。

「────復讐……と言ったら、納得していただけますか?」
「……どうだろうね」

 復讐とはつまり、誰かしらへの恨み辛みが根源。聡明な王妃を突き動かす強烈な衝動があった。セディアの口から聞かされながらも、ラウラリスは素直に納得できなかった。
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