屋根裏のネズミ捕まる

如月 永

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牢屋のネズミ

11.辰彦視点

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   ◆◆◆◆

私がネズミを捕まえてから数日後。古くの知人が尋ねてきた。
昔は友人で戦友で好敵手で、そして恋敵だったヤツだ。
しかし、ある事がきっかけで20年近く没交渉になっていた。
今になって何故顔を見せたのかと思い当たる点は一つだけ。あのネズミだ。
理由はともあれ、私は知人を部屋に通すように伝えた。
「久しぶりだな、友厚ともあつ
人のことは言えないが、ソイツは随分老けていた。
だが厳つく見える顔の古傷も昔のままで、懐かしく思った。
友厚は私の前で頭を下げた。
「まず、この屋敷に人を送り込んだ非礼を詫びたい。言い訳になるが、お前の屋敷だとは知らなかったんだ」
「まぁ私はなるべく表に出ないようにしていたからね。むしろ、そのせいで私とお前が知り合いだとも知らずにお前の所に間者を依頼した者がいたのだろう」
「詫びとして依頼者の情報を渡す」
依頼者の情報を渡すなど、それは信頼を失うほどの行為だ。
知己の私の館に忍び込んでも、頭を下げて幾らかの金銭を包めば終わる話だ。
何故だと思ったら友厚が再び頭を下げながら請うた。
「情報と交換で息子を返してほしい」
「息子……?」
替えのきく兵隊のためにわざわざ頭領に次ぐ地位の友厚が顔を出すなんておかしいと思ったら、あのネズミがコイツの息子だったなんて。
「ハハハハハッ!あれが息子だと?面白い冗談だな、友厚」
思わず笑い声を上げてしまう程可笑しかった。
友厚は、畳に額が付きそうなほど深く頭を下げた。
「頼む、辰彦。あれは俺の大切な一人息子なんだ。だからどうか、返してもらえないだろうか」
そうか、と私の中で合点がいった。
下働きに紛れていた四郎を見つけた時に目を奪われたのは、あの人の面影を見出していたからだったのだ。
友厚と競い、敗れた恋の相手。あの人が産み落とした子。
抱けば抱くほど愛おしくて仕方がなく思うのも必然だった。
あの人の子だと知った今は、四郎が尊い存在にさえ思えてくる。
「依頼者の情報はいらない。だから帰れ」
「辰彦!金もいくらでも払う!だから……」
「断る」
「辰彦!」
「身の安全は保障する。だがまだ帰す気は無い。だから帰れ」
そう言って私は友厚を屋敷から追い出した。
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