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3-3 LOと早食い対決 ~温泉宮廷ビバノン~

LO【ドピュ】と、早食い対決

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 女将さんは、仕事に戻るという。

「本日はごゆっくりご堪能くださいませ。お疲れでしょ? 当旅館の自慢は、【血の池地獄風呂】をお楽しみくださいませ。ヴァンパイアらしいでございましょ?」

「は、はあ。そうですね」
 女将さんのギャグに、ボクは苦笑いを浮かべる。

「では皆様、ごゆっくり」
 頭を下げて、女将さんが廊下を歩いていく。

「アヒル、もうちょっとほしい」
 お昼が質素だったからか、チサちゃんは食い気のほうが勝ってしまっていた。 

「あ、あそこにおみやげ屋さんがあるよ。行ってみよう」

 やはり、ラバ太くんまんじゅうが積まれている。

「ハッハッハッ。よく来たな」

 腕を組んで現れたのは、LOらしい。
 サソリの着ぐるみを背負った、浴衣姿の男性だ。
 スタッフと同じ衣装を着ているところから、彼がおみやげ屋さんの店主らしい。

「あっ、こいつ【ドピュ】よっ!」
 マミちゃんが、LOを指差す。

「ちゃんと正式名称でお呼びせねば。【ドン・パピルサグ・フューリー】ですよ」
「あんたは口を挟まないで!」
「びゅる!」

 マミちゃんとケイスさんの度付き漫才は健在だ。

「いかにも。俺はマミ・ニムの世界に現れたLO【ドピュ】の兄弟!」

 このモンスターが、マミちゃんと戦った相手か。

「ラバダッくんまんじゅうが欲しいのか。売っても構わん。その代わり、俺と勝負せよ」
「勝ったら、なにかあるの?」
「スタンプをやろう」

 受付にスタンプを提示すると、このまんじゅうを自国でも開発できる「カード」をもらえるらしい。

「勝負形式は?」
「【ラバ太くんまんじゅう】の早食い対決だ。負けたら、宿泊料金は倍になるぞ。おみや代も含めてだ」

 言いながら、ドピュはまんじゅうを一パック開けた。

「二四個入りだ。結構大きいね」

「おいしそう。また食べられるなんて」
 チサちゃんが、目を輝かせる。

「大きい箱一つ分、二四個入りを先に食べたほうが勝ちだ。そっちは二人、こっちはオレサマ一人で挑む。

「スタートの合図は?」
 チサちゃんが、ルールの確認をした。

「そちらで決めてくれたらいい。ドリンクも、飲み干さなくてもいい。ただし、ドリンクの量は数に含まれないからな」

 ジュースは、好きなのを選んでいいらしい。

「でも、おまんじゅうの早食いだよ。大丈夫?」
 辺りを見回して、ボクは不安になる。

 お腹を擦りながら、他の魔王たちがダウンしているではないか。
 子供の胃袋では、まんじゅうの早食いなんてツライようだ。

「平気。余裕」

「ノドに詰めないでね」
 ボクは普通の牛乳をチョイスする。

 チサちゃんは、コーヒー牛乳を選んだ。
 お風呂に入る前に飲んじゃうのか。

「ジャッジは、アタシがしてあげる!」
 号令役は、マミちゃんが買って出てくれた。

「行くわよ、準備して!」
 マミちゃんの合図に、チサちゃんも封を開ける。

「待って。ハンデをあげる」
「なにい⁉」

 突然、チサちゃんがストップを掛けた。
 あろうことか、縛りプレイを行うという。

「ダイキが五コ食べた後、わたしが食べる」

「そんな舐めプをしていいのか? 後悔してもしらんぞ?」
 プライドを傷付けられたからか、ドピュの眉間に青筋が立つ。

「大丈夫。ダイキとわたしはきっと勝つ」
「その余裕ヅラを、絶望に変えてやるぜ!」

 まんじゅうを両手に構えながら、ドピュが開始の合図を待った。

「用意、スタートッ!」

 ボクは、一つ目を食べる。

 アンコがぎっしり詰まっていた。

 まんじゅうは、一つずつ小分けに封をしているタイプではない。詰め込もうとするならできる。

 でも、口の中がそれを許してくれない。

 手間取っているボクを尻目に、ドピュはもう五個目を平らげていた。飲み込んでいるのではないか、という程の速度でムシャムシャとまんじゅうを片付けていく。一気に三個食いするなんて。

「ダイキがんばって」

 チサちゃんが応援してくれるけど、ボクのペースは上がらない。
 戦闘以外のバトルが、こんなにも大変だなんて。
 大食いの人ってスゴイ。

 四分の三近く食べ終わったところで、チサちゃんと交代する。

「お願いチサちゃん」
「任せて」

 不甲斐ない。結局チサちゃんだけに負担をかけてしまった。

「フハハ。ガキになにができ……エエエエ⁉」

 なんと、チサちゃんの箱には、もうまんじゅうがない。
 箱を持ち上げたかと思ったら、一息で、全部流し込んでしまったのだ。

「じょ、冗談だろ⁉ オレサマは、甘味大食いチャンピオンなんだぜ⁉」
 息を切らしながら、ドピュが呆然となる。

 ドピュのまんじゅうは、後一個を残すのみだった。

 なのに、チサちゃんはその差を一秒で縮めてしまったのである。

「ごちそうさまでした」
 当のチサちゃんは、悠々とコーヒー牛乳を飲み干す。

「ば、バカな⁉ もう一回勝負しろ!」
「いいえ! もう勝負はついているわ!」
「なんと⁉」
「だってその箱、二四箱目よ!」

 マミちゃんのいうとおり、チサちゃんの足元には、空の箱が二四個あった。

「俺は、箱単位で食べろなんて言ってないぞ!」
「しってる。でもおいしかったから」

「ま、負けだ」
 ヒザを落として、ドピュは四つん這いになる。
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