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第一章 ダンジョンを作った魔法使いと、魔王となった少年

第1話 ダンジョン転移に巻き込まれ 1

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「どこだよ、ここ?」
 
 気がつくと、ボクは見知らぬフロアにいた。一面が、茶色い壁に囲まれている。土壁のようだ。

 たしか修学旅行中に、別の学校の女子生徒から写真撮影をお願いされたんだよな。

 スマホを預かった途端、誰かに腕を引っ張られて……そこから世界が暗転したんだった。
 
 ここは、単なるテーマパークだったはず。
 廃業寸前だったところ、VTuberがススメて人気になった。

 しかし、目の前にいるバケモノはなんだ?
 犬の頭を持っているが、テーマパークのマスコットではない。もしマスコットなら、もっとデフォルメされているはず。しかしコイツらは、明らかにリアルな犬の頭であった。

「ウヘヘヘ! 人間なんて、久しぶりだなあ」

 ソイツらは大きく口を開けて、女子生徒たちを食べようとしている。

 やっぱりコイツらは、テーマパークのキャラでもスタッフでもなさそうだ。
 人を食べる設定なんて、マスコットにはないから。
 
 三人組のうち、二人は足がすくんで動けない。
 だが黒髪ロングの少女だけは、毅然として二人をかばっている。

「来るな! この子たちに手を出したら、承知しないわよ!」

 黒髪の女子生徒が、何も無い空間から黒くて長い物体を取り出す。
 あれは、刀?
 黒い鞘を抜き、少女は一瞬で怪物たちを両断する。

 あの刀は、本物?

「ふううう」

 少女が、呼吸を整えた。疲れている様子はない。油断しないように、辺りを見回していた。

「みんなは逃げなさい。あそこに行けば、逃げられるわ!」

 黒髪女子の誘導で、女子生徒たちは避難する。

「あなたもよ!」

「え、ボク?」

 少女の視線が、ボクに移った。

 あんな状況から、ボクを見つけたのか。

「そうよ! 逃げなさい」

 誘導する少女に、ボクもついていく。

「ここはどこ? こんなアトラクションって、パークにはなかったよね?」

「ここは、ダンジョンに変わってしまったの」
 
 そうか、これ、【ダンジョン化】か。

 近年、世界各地でダンジョン化が発生し、問題になっていた。
 内部にはモンスターが溢れ、ソイツらに近代兵器は役に立たない。
 魔物がダンジョンから出てくることはないものの、一度迷った人間は、二度と出られないという。

 眼の前の少女は、ダンジョン化した場所でも平気で動けた。ということは、この少女は【冒険者】なのかも。
 ダンジョン化した世界から、人々を救出することを任務とする、国家機関がある。それらは総じて、冒険者と呼称されていた。
 
「助けてくれて、ありがとう。ボクはナオト。平井ヒライ 菜音ナオトです」

 走りながら、自己紹介をする。

「私は明日葉アシタバ 緋依ヒヨリ。【冒険者】よ。緋依でいいわ」

 ダンジョンに迷い込んだ人々を救うため、冒険者という組織が結成されたというけど。 緋依と名乗る黒髪の女子高生は、自分を冒険者だと言った。
 見た目は普通の人間なのに、強さから見て、相当な実力者なのかも。

菜音ナオトくんと言ったわね。無関係なのに、巻き込んでごめんなさい。逃がそうと思ったんだけど、間に合わなかった」

「いえ。この子たち以外の、生徒さんたちは?」

「一部は脱出できたみたい。でも、大半は取り残されたわ。あなたも、修学旅行に?」

「はい。木島高等学校の二年です」

「二年生なら、同い年ね。私は、友塚高校の生徒。敬語は不要よ」

 友塚か。私立のお嬢様学校だな。

「そうなの? キミも、修学旅行中だったの?」

「ええ。どちらかというと、とある生徒の監視が……」

 薄暗い通路の向こうに、出口が見える。
 出口の向こうには、人だかりができていた。
 心配してこちらに声をかけてくれる人もいれば、ニヤニヤしてスマホを構えている無神経な人も。

 野次馬を、軍服っぽい格好の人たちが抑え込んでいた。彼らも、冒険者だろう。自衛隊にしては、装備が本格的で物騒すぎる。日本刀を、堂々と担いでいる人もいるし。

「あなたから脱出して」

 出口に辿り着いて、誘導された。
 
「ボクはいいんです。女性から先にどうぞ」

 道を譲って、女子生徒から逃げてもらう。

「ああああ、ありがとう」と、女子生徒が光の先へ。

「では、あなたも」
 
「は、い……危ない!」

 出口に入ろうとした瞬間、黒い影が緋依さんに伸びた。

 ボクは、とっさに緋依さんをかばう。

「な、私が気づかないなんて!?」

 振り返った緋依さんの後ろには、誰もいない。
 
「緋依さん、大丈夫?」

 ボクは、そう言ったはずだった。
 しかし、声を出せない。
 ボクの身体が、肩から下がなくなっていたからだ。

 おそらく、ボクは死んだのだろう。

菜音ナオトくん!?」

 緋依さんの叫びが、バケモノの手によってかき消される。

 ボクを殺したバケモノが、姿を表した。
 馬の頭を持った、半裸のモンスターである。
 
「おやおや。連れの少年は死にましたか。まあ、こんなガキをいくら殺しても、ダンジョンの糧にはならないでしょう。まあ、下級モンスターのエサくらいにはなりますか」

「貴様!」

 緋依さんが、刀を抜く。怪物の腕を、武器で切り落とそうとした。

 鋭利なはずの刃は、魔物の強固な皮膚によって阻まれる。

「ムダですよ。触れたと同時に、【エナジードレイン】をかけましたから。今のあなたは、冒険者レベル一のひよっこに過ぎません」

「エナジードレイン!?」

 たしかゲームだと、相手のレベルを下げるスキルだったっけ。
 
「あなたは我が主、神籐カトウ 有迂醐アウゴの大事な客人です。ご同行願いましょうか?」

「か、神籐カトウ 有迂醐アウゴ!?」

「はい。この日本に存在する、魔法使いの一人。このダンジョンを生み出した、魔王です」

 魔王なんて、現実に存在するのか。

 くそ。助けないと。しかし、身体が動かない。
 眼の前で、人が苦しんでいるのに、何もできないなんて。

「ふう、ふう」

「おや? まだ、息があるようですね。トドメを刺しておきましょう」

「くっ!」

 狂ったように、緋依さんが刀を振り回す。
 だが、この魔物は相当強いのか、傷一つつけられない。


 
――やられる。

 そう思った瞬間だった。


 
 ストップモーションにかかったように、すべての時間が止まる。世界も、モノクロ調に。

「やあ。ナオト・ヒライ。勇敢なる少年。オトコの中のオトコだお」

 小さくて白い怪物が、ボクの前に現れた。
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