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第一章 ダンジョンを作った魔法使いと、魔王となった少年

第1話 ダンジョン転移に巻き込まれ 2

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 怪物の見た目は、ホワイトライオンの子どものような姿である。
 だが、黄色い右目と青い左目を持っていた。オッドアイっていうんだっけ。
 
「キミは?」

 声が、出せている?
 なぜだ?

「ああ、脳内で直接会話ができているんだお」

 動物が、ボクに話しかけている。

 夢か? それとも、彼も魔物?
 
「キミは、何者だ?」

「オイラの名前は、獣王 ダルデンヌ。ダンヌと呼ぶといいお」

 ダルデンヌことダンヌは、ボクの顔の前に座る。

「見ていたお、ナオト・ヒライ。キミの華麗なる動き! 惚れ惚れした! 明らかに自分の方が実力がないのに、麗しき乙女を守ったその行動力!」

「それでも、殺されたら意味がないよ」
 
「とんでもない! とっても、すばらしかったお。そこでさ、勇敢なキミにオイラから提案があるんだお」

「な、なんです?」

「オイラと融合するお。バケモノを倒せて、このダンジョンから脱出する力を与えるお」

 なんでもダルデンヌは、このダンジョンの元々の所有者だったらしい。

「それをさぁ、アウゴってヤロウが取り上げたんだおね」

 アウゴはダンヌからダンジョンを奪った直後、自身の支持者に支配させているという。
 
「まあこっちも、あいつを徹底的に痛めつけてやったお。そのせいで、今ではあんにゃろもまともに動けないんだお。小娘一人さらうにも、部下を使う有り様だお」

 魔王ダンヌとの戦闘で、アウゴは力の大半を失ったという。

 ダンジョンに残るわずかな魔力を食いながら、ダンヌは復讐の機会をうかがっていた。
 ボクの魂が流れ込んできたことで、会話する程度の力も手に入れたと。

「でさ、ナオト。キミのように勇敢なオトコがいるじゃーん。キミなら、あんにゃろを確実にブチのめせるって思ったってワケだお」

「でも、こんな身体じゃ」

「大丈夫だお。再生させてやるお。融合を許可してくれるなら」

 この魔物のいうことを、信用していいんだろうか。

 しかし、今ここでボクがこの要件を受理しなければ、緋依さんを救えない。

「やる。でも、問題が起きたら、切り離すよ。約束できないなら、ボクは自決する」

「OKOK。心配ないお。ナオトがレベルアップしたら、パワーをほんのちょっとだけ分けてもらうお。それでよしとするお」

「うん。どうやったらいい?」

「もうやったお」
 
 気がつくと、ボクは立ち上がっていた。

 ボクの肉体が、再生したのである。

「あれ? 治ってる」

 ボロボロだった制服まで、もとに戻っていた。
 制服の下に来ていた黄色いパーカーも、完全に復元されている。


 自分自身で、まったく信じられない。
 また、二本足で立てるなんて。
 
「おやおや。真っ二つにしたはずなのに、瞬時に再生するとは。手加減したつもりは、ないんですがねえ?」

 馬面の魔物が、怒りで口元を釣り上げる。

 白黒だった景色に、色が戻ってきた。
 止まっていた時間が、動き出したようである。

「なら、もう一度殺して差し上げましょう!」

 腕を振り下ろされた馬面の腕を、ボクは片手で受け止めた。

 なんの重さも感じない。
 こんな枯れ枝のような攻撃だったっけ?

「な!?」

 馬面が、口を歪める。

「ふう。ふう。ふう……」

 だが、驚いていたのはボクも同じだ。

 腕が……ボクの右腕が、毛むくじゃらになっている。爪も伸び放題で、丸太のように太い。さながら、獅子の腕を思わせた。

「おおお。あたまのなかが、もえる」

 同時になにか、知恵のようなものを授かった。
【スキル】や【魔法】の概念や、使い方を。

 ボクは冒険者でもなんでもない、ただの一般人だ。
 しかし、これらを習得したことで、戦えるようになったのか。

「ですが、ワタシに触れたら最後です! エナジードレイン!」

 馬面の瞳が、怪しく緑色に光った。

 だが、ボクから生気は抜かれない。

「コイツ、魂が二つある!?」

 ボクには魂が、ふたつもあるだって? 
 そうか。ボクはダルデンヌと融合したから。

「しかも、小僧の方は始めからレベルが初期値! これでは、エナジードレインも……無意味ぃ!」

 魔物の腹を、ボクは蹴り上げる。

「ぐぼお!?」

 馬面が、壁に背中を打ち付けた。盛大に、吐血する。

 ボク自身も、強くなっているようだ。
 だが、どこまでできるのか。
  
 まずは、ダルデンヌの実力を拝見といこう。
 
 ボクの腕が、盛大に膨れ上がる。丸太よりはるかに盛り上がった。
 
「その腕は。あなたは、この世界を統べていた魔王、【獣王 ダルデンヌ】か! 生きてい――」

 笑いを絶やさなかった馬面の顔が、恐怖で歪む。

「し、【神獣撃シンジュウゲキ】?」

 太い右腕から、猛烈なアッパーを繰り出す。
 教えてもらっていないのに、スキル名も威力もわかった。
 頭が勝手に、理解しているのである。

「ぺぎょおお!」

 馬面の頭が、半分吹っ飛んだ。魔物が、地面にうつ伏せに倒れ込む。

「見事だ。さすが獣王の力! だが、あなたたちは一生ここから出られない。ゲハハハ!」

 半分になった馬面の頭が、霧になって溶けていく。

 だが、出口もだんだんと閉ざされていった。
 道が塞がれ、ただの壁だけになる。

 完全に、ダンジョンに閉じ込められてしまったらしい。
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