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第一章 ダンジョンを作った魔法使いと、魔王となった少年

第6話 冒険者登録

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稲田イナダ 育美イクミさんかー。あのコがこのダンジョンを作ったのか。彼のことは正直、苦手なんだよなぁ」

 ボクは、頭をかいた。
 
菜音ナオトくん。稲田さんって、どんな感じの生徒なの?」

「え? 緋依ヒヨリさんと同じ学校の生徒でしょ?」

 緋依さんの方が、詳しいと思っていたけど。

「だけど、クラスが違うの。面識がなくて」 

 ボクは緋依さんに、イナダさんの特徴を教える。
 
「いわゆる陰キャなんだけどさ、話が通じる相手じゃないんだ。女子だから、ボクも話しかけづらくて」

 ボクも大概ネクラだが、稲田さんは卑屈な人物なのだ。
 苦い妄想が強く、言動も攻撃的である。

 ボクは直接、被害にあったことはない。
 しかし、友だちになりたいかというと、NOだ。

「おじさんがインフルエンサーでさ。芸能人の暴露なんかをやってる」

 稲田の父は芸能界の裏を暴く本物のジャーナリストとして、一時期話題にもなった。
 発言が過激すぎて、結局表舞台からは消えている。
 ドバイだかインドネシアだかに身を潜めていたらしいけど、すぐに見つかったという。

 逮捕直前になって、変死体で発見された。

 それ以来、娘であるタスクも行方がわかっていない。
 友塚に引っ越していたのか。

「なるほど。危険だな。稲田 侑來の父『稲田イナダ 育美イクミ』こそ、本来のディレッタント・ファイブだったのだ」

 稲田が、世界のダンジョン化に加担していたのか。
 でも、理由はわからなくもない。
 稲田は自己の正当化を、世間に受け入れてもらえなかった。
 世界に絶望して、ダンジョン化に参加してもおかしくはない。


「カトウ・アウゴは【ディレッタント・ファイブ】を解散させた。今は自分たちのことを【デヴァステーション・ファイブ】……【荒廃させる五人】と名乗っている」

 世界を破壊する、五人か。
 
「我々は稲田 イクミを追って、このダンジョンに入った」

 しかし敵の強さに、キバガミさんたちは撤退を余儀なくされた。

 そこまで、稲田さんは強いのか。

「明日、救護班がゲートを開いてくれる。キミたちは安心して、ダンジョンを出ていきたまえ。あとは我々に任せてもらおう」
 
「行きます」

「協力はありがたい。しかし、クラスメイトを殺せるのか?」

「やるしか、ないんですよね? だったら、戦うしかありません」
 
 別に、稲田に同乗するつもりはない。

「殺せるのか? 殺し合いの戦いになるぞ」

「でも、ダンジョンをこのままにはしておけないでしょ?」

「うむ。だが人道的には、キミらは帰すべきだと考えている。明日まで気が変わらないなら、同行を許可しよう。逃げ出すのは、臆病ではない」

 また、救護班に頼んで、ライカン化について調査もできる。
 場合によっては、ダンヌさんの除去も可能かもしれないとも。

「大丈夫です。検査だけ受けます」

「わかった。ひとまず、ここでできることをしてもらう。構わないかね?」

「はい」

「では、冒険者として登録を行ってもらう。GPS機能も付与されるが、構わないだろうか?」

「お願いします」

 もしボクがダンジョンで迷ったら、救護班がかけつけてくれるらしい。
 期待はできないけど。

 テントの中で、ドクターから注射を打たれた。

「ナノマシンです。これが体内の電力を取り込んで、能力値やバイタル面をデータ化します」

 女医さんが、そう説明してくれる。 

「ご説明は必要ですか?」

「結構です。じゃあ、ステータスオープン」

 異世界ものの、お決まりのセリフを言うことになるなんて。

「おおっ」
 
 ゲームのようなステータス画面が、黒いウインドウとして虚空に表示される。
 いわゆる【拡張現実】というやつだ。

「異世界側の協力者によって開発した、能力値の表示システムだ。決して危なくはないので、安心してくれたまえ」

「ありがとうございます」
  
 これが、ボクの能力値か。

 あとは、採血と爪や髪の毛のサンプルを渡して、検査は終わり。

「これでいいんですね?」
 
「調べようにも、設備がありませんからね」

 現地の機材では、限界があるという。

「冒険者登録は、可能なんですね?」

平井ヒライ 菜音ナオトさんのように、突然スキルが覚醒したりする人も、いますので」

 どうも、スキルが発動する現象が起きるのは、ボクだけじゃないみたい。 

「では今のうちに、休んでおきたまえ」

 キバガミさんに、食堂と宿舎を案内してもらった。

「本音をいうと、テーマパークのコラボラーメンがうれしいけど、これはこれでいいね。めちゃくちゃおいしい。ありがたいです」

 簡易食堂にて、自衛隊特製カレーを食べさせてもらう。

「冒険者って、特典があるの?」

「あるわよ。ありとあらゆる税金が、免除されるんですって」

 ダンジョンは、正確にはどこの領地にも属さない。
 定着した土地ではなく、『異世界』だからだ。
 各国家が税金を取りたくても、どこの国に属するのかわからない。
 また、定住するには危険が多すぎる。
 そのため調査費用も兼ねて、冒険者は免税を受けられるのだ。

 甘い言葉に誘われてか、冒険者の中には、ならず者も多い。

「私たち冒険者は、独自のゲートを使ってダンジョンに入っているの。でも数度までと、回数は決まっているわ」

 へたにゲートを開けると、魔物がいる中に飛び込んでしまう可能性もある。
 逆に、地球側に魔物が入り込むことはない。

「どうして?」
 
「地球には、魔力がないためだ」

 キバガミさんが、回答を引き継ぐ。

 魔物は、魔力がないと生きられない。魚のように、息切れを起こすのだ。
 そのため、世界を完全にダンジョン化して魔物を放つことが、【デヴァステーション・ファイブ】の目的である。
 
「といっても、魔力が豊富な元の世界の方が、彼ら魔物にとって住みやすい。デヴァステーション・ファイブは、魔物にとっても不必要で無価値な存在なのだ」

 だから、ダンヌさんと揉めたのだろう。

「じゃあ、ボクと融合しているダンヌさんって、地球に行くとヤバイんじゃ?」

 ダンヌさんに、ボクは復活させてもらった。
 ボクが地球に帰ると、ダンヌさんが死んじゃうのでは?

「その心配はないお。オイラはちゃんと地球で過ごせるお」

「ホント?」

「ナオトから、わずかに魔力をもらえるからだお」

「そっか。よかった」

「でも、地球では力を発揮できないお」

「わかった。注意するね」

 とにかく、稲田イクミと戦わないと。  

平井ヒライくん。稲田イクミとは、殺し合いになるぞ。考え直さないか?」
 
「いじめられていたのは、気の毒だと思います。だが、稲田 イクミのいじめにいたっては、あの人自身に問題があるんで」

 稲田イクミは、どのみち人間界でも生きていけない。
 あらゆるものを、拒絶しすぎている。

「そんなに、危険な人だったの?」
 
「廊下でカッターナイフを振り回して、無関係の女子にケガをさせるくらいには」

「十分すぎるわね」

「すべての人間に対して、攻撃的なんだよね。目に映るものすべてが敵みたいでさ」

 とにかく、出くわしたら倒すつもりである。
 
「そうだ。武器はどうしよう?」

 ボクはオークとの戦いで、蛮刀を拾った。
 これを何に使おうか。

「装備する? でも大きすぎるね」

 蛮刀の大きさは、サーフボードくらいある。
 オークの巨体だからこそ、これでも軽々と振り回せた。

 ボクには、扱えないかな?

「冒険者ギルドに、預けておくといいわ。素材として提供すれば、それなりの装備になるわよ」

「そうなの? わかった。じゃあ、預けてくるね」

 ボクは、ギルドに手持ちのアイテムを提供した。
 ポーションなどの消耗品以外、使えそうな素材はすべて利用してもらう。

「こんなに素材を。ありがとうございます……」

 テントいっぱいの素材を見て、ギルドの職員さんが唖然としていた。
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