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第三章 ダンジョン社長と、魔王の力を得たクラスメイト

第25話 高級車で、敵地へ突撃

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 羽鳥社長の運転する車に乗って、ボクと緋依ヒヨリさんは空を飛んでいる。
 飛行もできる車なんて初めて乗ったが、案外安定しているものだ。

「フォトンノードの開発以前から、構想はあったんだけどね」

 魔石をエネルギーにして、動く仕組みだという。
 ただ、実用化できた「空飛ぶクルマ」は、この一台だけらしい。

「すいません。すぐにぶっ壊すことになります」

「構わないよ、菜音ナオトくん。奴らに一発、かましてくれたまえ」

 私物を破壊する前提の作戦なのに、羽鳥社長はゲラゲラ笑っている。
 本当に、刹那的な人だな。こんな人だから、成功できたのかもしれない。

「ではワタシは脱出の際に、ルゥくんの馬車に乗せてもらうよ」

「そうしてください。ここから先は危険ですので」
 
「あとは、自動運転だ。勝手に敵地へ突っ込むからね。危なくなったら脱出するんだ」
 
「はい!」

「じゃあ、幸運を祈る」
 
 運転席のドアを開けて、羽鳥社長が脱出した。

 すぐ下に、ルゥさんの運転する馬車がある。

 ルゥさんはちゃんと、社長をキャッチできたようだ。

 羽鳥社長とルゥさんの無事を確認して、ボクと緋依さんはフォトン・コーポレーションに迫る。

「見えてきたわ」

 ダンジョンの入口が、見えてきた。

 六角柱のビルの頂上に、縦穴が。
 
 自衛隊が、カモフラージュのために攻撃を繰り返してくれている。
 
 あの攻撃が止んだとき、ボクが乗り込む作戦だ。

 キバガミさんの連絡で、ちゃんと自衛隊たちに話は通っている。
 海外の軍隊も、協力を志願してくれたらしい。
 だが、ボクたちがこのビルを止められなかったときに動いてくれと、チョーコ博士は頼んである。 

「いくよ。前進!」

 車が、速度を上げた。正面を向いて、縦穴へ突っ込んでいく。

 この縦穴は唯一、フォトンの影響が出ていない。

 ここに爆弾を落とせばいいじゃないかと、各国の軍隊は意見を出していたとか。

 だが、街の被害が拡大することを恐れたチョーコ博士が、その案を却下した。

 車一台くらいの炎上なら、問題ないだろうと、ボクは考えたのである。


「グラついているわ! 魔石が、磁場を出しているみたい!」

「そのようだ。しっかり掴まっていて」

 ボクは緋依さんを抱きかかえて、車から脱出した。
 
  空を飛んでいた車が、壁に激突する。

 ふっ飛ばされそうになったが、ボクたちは「壁に着地」した。壁と、垂直になっている。

 車も、天井で炎上していた。

「重力が、壁を伝っているわ」

「この壁一面が、足場のようだね」

 このビル自体が、ダンジョンの入口と化しているのだろう。

「菜音くん。ここから先は、あらゆる常識は通じないと思ったほうがいいわね」

「うん。気を引き締めるよ」


「たしか、羽鳥社長はダンジョンの権利を剥奪されたのよね?」

「本人は、そう言っていたね」

 つまり、このダンジョンを攻略しても、羽鳥社長は死なない。

 ただ、誰がこのダンジョンの所有者なのかは、社長にもわからないという。

 
 通路は、約二〇〇メートルほどである。
 先には、扉のようなものがあった。
 そこまで行けばいいのだろう。

 しかし、モンスターたちが湧き出て、行く手を遮る。

「来たわ!」

 ボクは、新装備で迎え撃つ。
  左手にあるブロードソードで、魔物たちを切り裂いた。

「すごい切れ味だ」

 アルマジロの硬そうな装甲も、チーズのようにスパッと切れる。
 以前に苦戦したサソリの鋼鉄のような甲羅も、簡単に切断した。
 
 前に装備していたショートソードに比べて幅が広いのに、とても軽い。刀身には黄色いラインが走っている。ボクが魔力を注ぎ込むと、中央の魔法石に魔力が集まっていった。

「ミノタウロスよ!」

 牛の頭を持つ巨人が、ボクらの前に立ちふさがった。
 リーチの長い槍斧を持ち、うかつに近づけない。
 大きいだけではなく、槍術も巧みに操る。

 緋依さんが抜刀して、斬りかかった。

 ミノタウロスは、緋依さんの動きを読んで、槍斧で刀を弾き返す。

「敵も、学習しているというの!?」

 緋依さんの剣術なら、これくらいの魔物は軽々と倒せると思っていたが。

 どうもこの敵は、カトウ・アウゴから力をもらってパワーアップしているようだ。
 相手方も、必死というわけか。
 
「別々に攻撃してはダメだ。二手に分かれよう。【ブレイズ・スラッシュ】!」

 炎属性の魔力を付与して、ボクは刀身のリーチを伸ばした。

 炎の刃が、ミノタウロスの足を斬る。

 予想に反した攻撃だったのか、ミノタウロスは転倒した。

 すぐにミノタウロスは体勢を立て直し、槍斧を構える。

 しかし、どこを探しても、緋依さんはいない。
 
「ここよ」

 緋依さんが、「破壊された車の上から」ミノタウロスに飛びかかった。

 スキをつかれたミノタウロスの首が、ドン、と、はねられる。

「重力に逆らってみたけど、少々気持ち悪いわね」
 
 緋依さんの足が、ふらついた。
 思っていた以上に、このエリアの足場は居心地がよくないみたい。
 
 ボクはダンヌさんと融合しているためか、耐性がついている。

「ナオト、気をつけるお。このビルの奥に、とんでもない魔力が集まっているお」

 ダンジョンの終点近くになって、ダンヌさんが珍しく震えだした。
 
「そうなの?」

「だお。それに……!?」

 ダンジョンの出口が、ひとりでに壊れる。

 破片から逃れるため、ボクと緋依さんは反対方向へ逃げた。

 現れたのは、三メートルほどデカい、毛むくじゃらの白い巨人である。
 顔が半分に分かれており、半分は獅子の顔だった。もう半分は、培養槽のようなカプセルになっている。
 培養槽には、見知った顔が入っていた。
 
「ずっとこの時を待っていた! この身体で、必ずあんたたちを殺す!」

 カプセルの中身は、イナダ・イクミである。胴体はなく、顔も半分だけ。

「ナオト! あの身体は、オイラのだお!」

 ダンヌさんの身体を使って、イナダイクミは復活したのか?
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