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第四章 文化祭と秘密とJK

第59話 焼肉の中で、椎茸は隠れた主役問題

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「琴子オリジナルで、アイスコーヒーと思わせて、コーラとミルクを持ってこようかと」
「やめろっての」

 案外、炭酸コーヒーはいけると聞く。けれど、今は試したい気分ではない。

 ドリンクバーは遊び場ではないのだ。大学生のノリで変な飲み物を作らないで欲しい。
「普通にお茶を頼む。なかったら水で」
「あいよ」

 琴子がドリンクを運んでいる間に、また肉を焼く。
 モクテルは、機会があったら自分で作ってみることに。

「へいお待ち」
 おっさんか。
「おっサンキュ」
 お礼に、孝明は焼けたホルモンを琴子の皿へ。

「いいの? コメくんの分ないじゃん」
「また頼めばいいだろ。肉はこれからだ」

 残った肉をすべてロースターに敷き、店員を呼ぶ。

「さっきの盛り合わせと同じヤツで。あと椎茸。それと、ライスのおかわりをください」
「二つ! ライスは二つお願いします!」

 孝明に続いて、琴子もオーダーをする。

「コメくんは食べないの?」
「大人になるとな、焼肉は食べるより、焼く方が楽しくなってくるんだよ」

 ちょうどいい頃合いを見計らい、孝明は肉をひっくり返す。

「あー、肉の焼ける音と、ムワッとした煙と匂いのコントラスト、最高じゃねえか」

「そうなんだ。あたしは、子どものままでいいや」 
 なぜか、琴子にドン引きされた。

「お待たせしました。ライスおかわりです」
 これがなければ、やはり焼肉は始まらない。 

「でもさ、なんでまた椎茸を?」
「分かってねえな。この椎茸がタマランのだ」
 こんがり焼けた椎茸の傘に、少量のしょう油を垂らす。
 ジュワッと焦げたしょう油の香りが、煙と共に孝明の鼻を刺激した。

 箸で椎茸を摘まみ、一口で頬張る。

 一息で噛むと、凝縮された旨味が、しょう油をアクセントとして口内を塗りつぶす。

「うーん!」
 言葉にならなかった。肉も最高だが、よく焼けた椎茸も、味わい深い。

 琴子も試している。が、焦がしてしまって思ったような味が出なかった模様。
 ミスをすると、焦げた味しかしないのだ。

「あたしには、よく分からないなー」
 箸の行く末を、琴子は焼きトウモロコシにチェンジさせた。

「そのうち分かるさ。ウチの甥っ子だって、昔は『肉だけで腹を膨らませたい!』ってな、白飯を拒否ってたもんだ。今じゃあ、コメなしだと肉を食わんぜ」

 茶碗が食卓に出ていないだけで、不機嫌になるほどである。

「舌は変わる、と」

「おう。特にガキの舌なんざ、まるでアレにならん」

 そのうち琴子にも、肉より先に椎茸へと箸を伸ばすときが来るだろう。 
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