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国興し

32 新天地の方針

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 母艦の製造部階に行くと、三体の修理ロボットと鎮守様に王女とマリーまでもが居る。

 長机に並べられた三種類のアーチェリー.ベアボウと、やはり三種類の黒光りした滑車の付いた化合弓コンパウンドボウのほかに、梃子式大小クロスボウ二種類に大型連弩さえも置いてあった。

「ヒカリちゃんとマリーちゃんに、感想を聞いたが、いまいち弓矢の効果は、理解出来ないらしいの。」

 鹿島は、三種類のアーチェリー.ベアボウの前に立ち止まり、それぞれの弦を弾いてみた。
最初手に取った弓ベアボウは軽く引く事が出来、女、子供用だと感じた。
次の弓ベアボウの弦は、鹿島は引くのに少し強めの抵抗を感じたが、なじみやすい強さだと思えた。
三本目の弓ベアボウの弦は、渾身の力で何とか引く事は出来たが、支えた左手は震えが止まらない状態である。

 鹿島は子供の頃から剣道と弓道に強い関心があったので、一通りはこなせる自信があった。

 黒光りした滑車の付いた三種類の化合弓コンパウンドボウを手に取って矢をたがえると、修理ロボットは転がっている丸太を持って部屋の奥に立てかけた。

 矢を添えたコンパウンドボウの弦を引いたが、子供でも弾けるのではと思えた。

 照準器先の十メートルの丸太に矢は深く刺さった。
二本目のコンパウンドボウの矢は、さらに丸太深くまで食い込んだ。
三本目のコンパウンドボウの矢は、又もや鹿島の左手を安定させるのに抵抗したが、矢は丸太の脇を削り取り後ろの壁に刺さった。

 空母艦の壁は鉄よりも強い複合強化材で出来たものであったが、三本目のコンパウンドボウの矢はそれを貫いたのだった。

 鎮守様が鹿島に近付き、
「どうして弓矢なの、何故銃にしないの?」
「火薬が広まると、大量殺戮が起きてしまうのが、怖いから。」
「確かにね。でも、、、この世界でも花火は理解されているので、どうやら黒煙火薬はあるみたいよ。」
と、鎮守様は謎の微笑みを浮かべた。

 鹿島は、中強度の弓ベアボウの中と小強度のコンパウンドボウの増産を頼み、全ての製作済みの試作品を積んで、エントツ指揮する砦に向かった。

 鹿島は工事の邪魔にならない砦外の荒れ地に、全ての製作済みの試作品を並べた。

 エントツは製作済みの試作品を見回すと、慣れた手つきで弓の弦を弾いて行った。
「なかなかいい音だ。」
鹿島は思わずそれは楽器じゃないと言いかけると、何故か付き添って来た王女とマリーが、
「チンジュサマは、特別な弓だと言っていたが、エントツ殿はその意味が理解できますか?」
エントツは微笑んで、中強度の弓ベアボウを握り、矢を添えると空に向かって矢を射抜いた

 空からゆっくりと、矢の刺さった鳥が落ちてきた。
鹿島は驚いて天空を仰ぐと、はるか上空を渡り鳥の編隊が飛んでいた。
「もしかして、エントツ殿は、あの鳥の群れにいた鳥を落としたのか?」
「俺じゃない。この弓だ。」

 次に滑車の付いたコンパウンドボウと、梃子式大小クロスボウ二種類に、大型連弩等を珍しそうに見まわし、機能と使用方法の説明を求めた。

 エントツは滑車の付いたコンパウンドボウを何度か弦を鳴らした後、遠くの森を見つめていた。

 エントツはゆっくりと矢を添えると、やはりゆっくりと弓をそらし気合声と共に弦を指から離した。

 七百メートルは離れている森の中に矢は消えていった。
「誰か!お館様に、馬を用意しろ!」
「私たちにも、お願いします!」
と、マリーが叫んだ。

 鞍の付いた馬が用意されて、
「では、お館様、参りましょう。」

 エントツは森に差し掛かると低木を踏み倒し、藪を切り開いていった。
藪の先にある幹のそばに二頭の狼魔獣が横たわっていた。
一本の矢は、風切り羽を一頭の狼魔獣の首中に隠し、重なり合っている狼魔獣の首をも貫いていて血に染まった鏃が光っていた。
「エントツ殿は、一本の矢で、二頭を狙ったのか?」
「二頭が重なり合うタイミングを見計らって、矢を射った。」
「エントツ殿には、二頭が重なり合うタイミングが見えたと?」
「異なこと、遠視を使えば、容易い事でしょう。」
鹿島は飛翔中のサニーに目を向けると、
「誰でも、子供のころから練習するので、誰でも遠視ができます。」
「お館様は、練習しなかったと?」
「狼魔獣は全く俺には見えなかったが、誰でも、練習すれば、出来るのか?」
「ハハハ、お館様にも、出来ないことがあったとは。」
と、エントツは豪快に笑った。
「私にも、森の中にいた狼魔獣の群れは、見えていました。」
と、王女も鹿島に笑いかけた。

 鹿島は、この惑星の住民の視覚機能ははるかに高いと、この後、衛士兵たちが順次矢を射た事で認識した。

「お館様。これはどこからお持ちになったのですか?」
「これは、女神様からの贈り物なのだ。」
「お館様。このいろんな種類の弓の配置と配給は、私に一任してください。」
「当然でしょう。必要な量は、揃えます。」
「タロー様。私たちにも、コンパウンドボウと小クロスボウを譲っていただけませんか?」
「コンパウンドボウは、滑車の仕組みを理解できないと、修理が難しいのですが。」
「滑車の仕組みも教えてください。」
「お館様、弓のことは、一応機密にして頂きたいのですが。」
「鎮守様の友達を、無下にもできないだろう。」
「でございますなら、仕方がないです。」
エントツは肩をすぼめて同意した。

 鹿島の遠視能力取得練習にサニーや五人の妖精たちに加えて、何故か王女とマリーまでもが加わりだした。

 鹿島の遠視能力取得練習を、衛士兵の装備したシンデレラが眺めていた。
キク妖精がシンデレラに気づき、
「あの子、厨房賄の子じゃない?」
「魔法弟子、希望の子ね。」
と、サニーはすぐに関心をなくした。
「なんか、あの子の食べている物から、いい匂いがするわ。」
と言ってキクはシンデレラの方へ飛翔して行った。

「いい匂いね、美味しい?」
「野生のジャガタラを蒸して、ヤギのバターで味付けしただけだ。」
「私にも貰える?」
「こんなの、腹をすかした子供達の、食事代わりのものだ。高貴な方たちの食べ物じゃないだろう。」
「美味しかったら、弟子にするぞ。」
「弟子にしてくれるなら、私の大好きな焼いた野生蔓芋もある。待っている物はみんな上げる。お願いします!」
と、ポケットから蒸したジャガタラと焼いた野生蔓芋を出すと、バターの入った瓶をも差し出した。

 キクはバターの香りを確認して、蒸したジャガタラにかぶりついた。
「香りはいいが、味はいまいちだな。」
「これは、私が大好きな焼いた野生蔓芋です。貴重な甘さです。」
やはり匂いを嗅いでからかぶりついた。
「お~。これは美味だ。もっとあるか?」
「野生蔓芋は獣等との取り合いになるので、見つけることは困難ですが、明日森へ入って探してきます。」
と言って残りの小さな焼き芋を惜しむように差し出した。
「森は危険だ。一緒に行ってやろう。」
「お願いします!」
「だけど、何であんたは、ここにいるの?」
「軍隊で賄いの出来る兵士を募集していたので、応募しましたら、試験採用されました。だけど、弟子にして頂けたなら、皆様の厨房賄に戻ります。」
「そんなに簡単に、軍はやめられないだろう。」
「まだ、試験採用期間です。体質的に合わないと言えます。」
「好きにすれば。」
「弟子にして頂けると!」
「いいよ。」
「では、試験採用を辞退してきます。」
シンデレラはステップ足で砦の方へ向かった。
キク妖精も両手の焼き芋をかじりながら、ステップ足で鹿島の遠視能力取得練習場所へと向かった。

「ご機嫌ねキク。何かいいことあったの?」
「ひかえろ。ジャ~ン、これが目に入らぬか。」
と言って齧りかけの焼き芋を差し出した。
「何それ。だけど甘い匂いがするわ。」
「それ焼き芋?」
と鹿島が覗き込んだ。
「タローは、野生蔓芋を知っているのか?」
「俺の故郷の副食事に似た匂いだな。」
「城のメニューにもあるのか?」
「見たことは、、、ないな。だけど故郷では栽培していた。」
「野生蔓芋を栽培していた?可能なのか、、、栽培は?」
「水はけがよければ、可能だ。」
「是非とも、栽培してほしい。」
と、キクが意気込んだ。

 キクが鹿島と向き合っているすきに、両手の芋はサニーとほかの妖精達に奪われた。
「うん。美味だ。栽培する価値がある。タローは耕作者に栽培を委託しろ。」
「もう一つ料理次第で、おいしくなるものがある。これの根っこだ。」
と言ってキクは傍の雑草の根っこを蹴飛ばした。

「え、ジャガタラ!それは毒があるだろう。」
と、マリーが怪訝な顔をした。
キク妖精は、自分でむき出しにした雑草の根っこの球根を見つめ直し、
「なに!毒があるのか。私これ、食べてしまった。」
「干ばつ時に食した者が、、、時々死人が出ます。」
と、輪のはずれにいたマリーが憐れ顔でキクに顔を向けた

 鹿島は蹴飛ばされた雑草の根っこを堀り、球根を取り見つめながら、
「これ、もしかして、これジャガイモ?」
「タローは、これも知っているのか?」
「ジャガイモなら、みんなも食堂でよく食べているぞ。」
「毒を食わされていたと!」
「この球根は、発芽すると確か毒が在ると聞いた記憶がある。だが、俺の故郷では、地方によっては主食扱いだ。」
「発芽する前だと、食べられると?しかも主食。」
マリーが驚いた顔でジャガタラをつかみ取った。
「王女様。ジャガタラは年中そこら中に生えています。食文化の革命です。」
「干ばつ時に、餓死者が出ないと?」
「食料の心配がなくなるかも。」
「俺は、その栽培方法も知っているよ。」
「ぜひ栽培してほしい。そして、料理方法も知りたい。」
「料理方法は、何十とあるだろうから、城の調理マシンから調べるといいと思う。」
「王女様、このジャガタラの栽培と料理方法を、父上の領地で広めたい。手紙を出すことを許可して頂きたいです。」
「ゴールドルル領地は、毎年食糧不足だから、是非とも普及させなさい。」
「タロー様、野生蔓芋の栽培方法も、教えてほしい。」
「いいよ。では、明日は野生蔓芋を探そう。サニー、城にいる妖精たちに協力をお願いしたい。」
マリーには思わぬ食糧の出現に、食糧不足が解消できそうだとの希望が湧いてきた。

 農家出身の鹿島は耕作地での植菜種類が多いほど輪作が可能だと思え、畑養分土壌のバランスを崩すことなく、一毛作の連作で起きる病原菌の広がりや、害虫からの被害を少なくできる事で、収穫量や品質低下を防ぎ、被害を最小限にできるメリットがあると思えた。

 翌日の芋ほり大会は妖精たちも加わり、盛況な盛り上がりとなった。
「師匠、これはどういう事?」
「野性蔓芋の味が良すぎた結果だ。」
「妖精様たちが、野性蔓芋の味に釣られたと?」
「サニー達だわ。」
「大精霊様さえも?と。」
シンデレラは、配分が少なくなる憂いからか力なく頷いた。

 山と積まれた野性蔓芋の中から、鹿島は大きな芋を百個ほど選び出して種芋用に確保した。
「この百個は、収穫時には三千程になり、その翌年には九万個になるだろう。」
「そんなにも、収穫できるのか?」
王女は生の芋をかじりながら驚いた。

 焚火があちらこちらで始まり、香ばしい焼き芋の香りが漂いだした。

 鹿島の遠視能力取得練習は思わぬ出来事で中断したが、鹿島の再開と同時にシンデレラの魔法修業が始まった。
「貧弱な火炎魔法ぐらいで、何でへばる!気を確かに持って、精神力を高めろ!」
ぶっ倒れているシンデレラに、キク妖精は水魔法をぶっかけた。
「水魔法より、回復魔法をお願いします。」
「自分でやれ!」
「イメージがわきません。」
「自分の身体中の筋肉を、活性化するイメージだろ~。」
「筋肉活性。」
と、シンデレラは必至の力を振り絞って、両掌を自分の胸に向けた。
「あ、力がわいてきた。」
「ほら、回復薬。」
とキク妖精は小瓶をシンデレラに投げた。
「もう一度、やれ!」
「火炎。」
「お前は、灯火を火炎と呼ぶのか?」
シンデレラはほほを膨らますと、
「強力な火炎。」
「焚火じゃない、火炎を出せよ。」
再びシンデレラがぶっ倒れると、キク妖精は小瓶を手渡した。
「お前には、火炎魔法は無理だ。」
「努力は、報われます。」
「お前は、人間の体の構造がわかるか?」
「全く、いや漠然となら。」
「人間の体の構造を漠然となら、知っていると?待っておれ。」
キクは母艦に向かっていった。

 キク妖精は一冊の本を持って帰ってきた。
「この本から、ケガするであろう場所を探して、三日間でその構造を覚えたなら、治療魔法を教えてやる。」
キク妖精は鹿島達の所へ飛翔して行った。

「あら、弟子の訓練は、終わったの?」
「あの子は、変に火炎魔法を使えたために、本来持っている治療魔法色を濁してたので、これから元の色に戻すわ。」
「治療魔法を使えると?」
「回復魔法を使った時に気が付いたの。」
「だから、あの子は最初あったときに、強い魔力を感じた気がしたが、ちっちゃな貯蔵庫で循環が悪かったのは、そこが原因だったのね。それでこれからは、治療魔法を訓練させるんだ。」
「本人次第だ。」
「あの本の中身は?」
「タローも治療魔法に興味があるの?」
「興味はある。」
「じゃ~、鎮守様から医学とやらを教わったら。」
「医学を教わると、治療魔法を使えるのか?」
「体の構造を理解しないと、治すイメージが湧いてこないでしょう。」
「少しでも魔力を持っていれば、誰でも治療魔法を使えるのか?」
「素質にもよるかも?はっきりとはわからないわ。」
「医学校を創ろう。そして、治療魔法師を一杯育てよう。」
「字を読める人は少ないわ。」
「学校も創ろう。」
「頑張れば。」

 鹿島は教育の大事さはすでに知っていたので、文盲をなくすための運営委員会を立ち上げて、学校設立を提案した。

 最初に賛同したのは、財務官トニーヤマであった。
「私も、女神様から教わった簿記の偉大さを知りました。これは絶対普及させるべきです。いや、育てるべきです。それには、多くの人々に文字と数式は教育すべきだと思う。」
「富国強兵を目指すことが、最初の課題だと思っていたが、みんなが読み書きできない事で、いろんな支障が出ている。」
と、アチャカも加わった。
「確かに、地図を見せても、距離感がつかめないやつが多い。」
「まず、ヒカリ殿とマリー殿に協力を仰ぎたいが?」
と、鹿島が客員の二人に声がけした。
「弓の対価を払えと?」
「もっと、すごいものも贈答できますが。」
「武器か?」
「身を守る武器です。」
「まさか、魔道具か?」
と、マリーが身を乗り出した。
「爆裂を封じ込めた、魔道具です。」
「して、われらの任務は?」
「教師を育ててほしい。」
「それなら容易い。」
「では、内容は、鎮守様から教わってください。」
鎮守様は
「師範学校の設立することからね。」
と、了解の笑顔を鹿島に向けて二人に手を振った。

 王女とマリーはその後、師範学校校長と副校長に任命された。
師範学校教育内容の方針と内容理解講習を受けて、自ら教育した教え子の中から、初等教育教師の要請数確保をも任される、過酷な要請数ノルマが待っていた。
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