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国興し

42 工場見学

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 夜が明けて鹿島は眠気眼で目を覚ますと、五人の教官妖精は飛翔しながら、隙あらば鹿島に近づこうとしていたがサニーに追い払われた。
鹿島は身支度整えて食堂ホールへ向かった。

 食堂ホールで既に多くの妖精たちがせわしなく飛翔していて、それぞれのトレインにはいろんな料理を大盛りにし、空いたテーブルに向かっていた。

 鹿島が食堂ホールに入ると、五人の教官妖精は飛翔しながら鹿島にまとわりだした。
「いつも、サニーだけが一緒だけで、不公平だ。」
と火炎魔法の得意なサクラがほほを膨らました。
「私も一緒に、ボーボアと戦いたい。」
瞬間移動念力が得意なキクもまとわりだした。
「あたしにも匂いをかがせて!」
と土魔法使いのボタンが割り込んでくる。
もっと強引に割り込んできたのは、細い体の風魔法使いユリである。
雷魔法使いシャクヤクは、隙間が空いたなら飛びかかろうと身構えている。

「今日は一段と多くない?」
「ボーボアのから揚げが、すごい人気らしい。」
五台に増えた調理器からは次々と唐揚げが出てくるが、我先にとみんながみんな取り合っていた。

「あなた達、早くボーボアの肉を確保しないと、もっと混雑しだすわよ。」 
鹿島にまとわり付いていた教官妖精たちは、一斉に調理機の取り出し口々に向かったが、チャンスをうかがっていたシャクヤクは鹿島の匂いを嗅ぐふりをして、鹿島の耳を咥え込んでシャブリだした。
「やめろ!シャクヤクやめろ!」
と鹿島が叫ぶと、シャクヤクは素知らぬふりして飛翔して行った。
「段々と、遠慮なしになってきたな。」
と鹿島は濡れた耳をふき取りながら呟いた。

 鹿島とサニーに五人の教官妖精達は駆動車に乗り込み、兎耳種族頭領と長老格五人達が宿泊している宿に向かった。

 兎耳種族頭領と長老格五人達は駆動車が突然動き出したことで、
「これは、どんな付属魔石を使っているのだ?」
「魔石?」
と鹿島は初めて聞く魔石に興味を持った。
「これは、魔石では動いていない。燃える水を使っている。」
とサニーは魔石のことを知っている素振りの返事をした。
「サニー。魔石とは?」
「稀に洞窟から掘り出される鉱物の中に、魔力を蓄えきれる石があるのだ。」
「魔力を蓄えきれる石?」
「火魔法を魔石に込めると、魔法を使えないものでも、火力を起こすことができる。」
「光魔法を込めると、ライトになるとか?」
「そうだ。そして、雷魔法だと、戦場で使える。」
「どんな方法で?」
「魔石に雷をため込んで、投げるだけでその周りの兵隊は感電する。」
「魔石はどこにある?」
「わからん。稀に洞窟で見つかるらしいが、かなり高価だそうだ。」
「魔石は雷を溜める事ができるのだな?」
「出来る。」
鹿島は魔石を応用することができるなら、母艦のエネルギィーに応用できるかもと思い、モーターだけで動く駆動車やヘリコプターを思い描いた。
エンジンの製造は高度な技術を必要とするが、モーターだけだと簡単な移動車両ができると思えた。
「ドローンさえも簡単に制作できたなら、通信手段も監視網もたやすい。」
と独り言をつぶやいていると、
サニーはタローの思考は理解できたが、
「モーターとは何ぞや?」と怪訝そうに尋ねた。
「銅線と磁石だけで、動く機械だ。」
「なんか便利そう。では、魔石を探さないとね。」
「どこらにあるか見当できるか?」
「むり。」
と一刀両断に否定された。
鹿島はいろんな応用ができるであろう魔石に興味を持った。
しかしながらそれは存在しているが、どこにあるかが不明では、存在は無いと同じだと考え直した。

 兎耳種族頭領と長老格五人達は、神降臨街の商店街にある商品にかなりの興味を惹かれた様子で、商店主にいろんな質問と応用を尋ねていた。
一番の興味はいろんな薬であったと思われたが、果物屋や甘味店においては半狂乱となっていた。

「集落にも、すべてが欲しい。」
と長老格五人は口々に囁き合うが、頭領はいたって冷静であった。

 鹿島とサニーは鎮守様から、「神降臨街から離れ、工場に鱗と尾刃のサンプルをもって行くよう。」指示を受けていて、兎耳種族頭領と長老格五人達を、神降臨街の案内を終えると、妖精森の中にある岩山のふもとに建設された工場に向かった。

 爆撃機は岩山ふもとの花園を通り過ぎると無数のダムができていて、岩山の谷を塞いだダムのすそ野は荒廃としていた岩の群れの形跡もなく、碁盤目に道路が整理されていた。変電所と思える建物からは高圧線と思える電線が無数に張り巡らされていた。
平地となった場所には大きな建物が並び、多くの煙突が突き出ていて白い煙を出していた。

「いつの間に、工業地帯となったのだ?」
と、鹿島は初めて訪れた工業地に驚いた。

 一際大きな工場の脇には多くのトラックが並べられていた。
トラックは端の方から次々と岩山のトンネルに入っていく。
「だれが運転しているのだ?」と、鹿島は不思議に思った。

 爆撃機は指定された場所に着陸すると、修理ロボットとは違う色違いロボットの出迎えを受けた。

「A―110号中尉どの、はじめてお目にかかります。私はC-001号機の複製で、C-002号とお呼びください。」
「外見は修理ロボットだが、中身はC-001号機の複製だと?」
「はいそうです。」
鹿島はA―110号中尉と呼ばれたが、すでに意識はタローであったので、戦闘知識しかないA―110号中尉の呼び名に愛着はすでになかった。
「C-002号。俺のことはタローと呼べ。」
「はい。これからはタロー様と呼びます。」
鹿島は軽く頷いた。

 兎耳種族頭領と長老格五人達が完成の声を上げたのは、溶解炉から出てきた鉄の延べ板を圧縮加工してさらに薄板となったときであった。
「溶解炉から出てくる溶けた鉄が多いうえに、何で?こんなに簡単に薄板となるのだ。」
「鱗の加工など、たやすく均一に伸ばせるぞ。」
長老格の一人が鱗加工の工程をしゃべりだすと、C-002号耳の奥が光ったのを、鹿島は見逃さなかった。

 厚板の鉄板を切断するレーザーにも驚いていて、
「尾刃の切り分けや、鱗の外周刃部分を剝離するなど、たやすいのではないか?」
と長老格五人達が自分らの技術をいとも簡単になされる感想に、C-002号は又もや耳の奥を光らせた。
「C-002号。又もや記憶したな。」
と鹿島は、C-002号は案内説明をしながら、技術獲得が役割だと理解した。
その後も長老格五人達が会話するたびに、C-002号耳の奥は光っていた。

 靴が製品化される前の部分品が次々と箱の中から流れてくる工場では、
「これは、靴の部品?」
「はい。後の工程は、神降臨街の職人たちが制作します。」
とC-002号が説明しだすと、
「我々にこの部分品を分けてくれるなら、人種よりも容易く早くできるぞ。」
「作り手は多い方がいいが、仕上りを重視しています。」
「俺らは、部品に憑依することができるから、細かい作業は得意だ。」
「部品に憑依?」又もや、C-002号耳の奥が光りだした。
「靴底を縫い固めるのには、人種では邪魔な部分が有るが、我々はそんな場所を通り抜けて、加工ができる。」
「じゃまな部分を通り抜けて、その奥を加工できると?」
「便利な能力だろう。」
「私があなた方の能力が、私が受け取った理解した加工方法なら、いろんな意味で素晴らしい。」
「靴底は最後に接着剤で加工するのが人種なら、我々は接着後にさらに縫い固めることができる。」
「素晴らしい。是非にここでその力を発揮してほしい。」
「神降臨街ではなくて、ここで?」
「ここはあなたたちの街に相応しい。」
「すべての技術を提供すると?」
「技術の指導学校を作ります。」
「職業訓練場を子供たちに与えると?」
「文字や数も教えます。」
「俺らの子供たちは、幼い頃から母親によって教育されるので、文字や数の教育は必要ない。」
「高度な計算も教える。」
「どんな教育だ。」
「物を作るに辺り、先ずは三角形の定義と定理は必要でしょう。」
「三角形の定義と定理?」
「直角三角形の線に対する辺は、三角方程式で計算できる。」
と言ってC-002号は直角三角形を描いた。
「直角部分線から、計算で辺の部分を割り出す。」

 頭領は腰のポケットから巻き尺を出すと、巻き尺の表と裏には、それぞれに細かいメモリがつけてあり、直角部分線を測りだした。
「そしてここは3センチ、こっちは4センチで、辺の部分は5センチだな。」
「それを計算で出せます。3×3=6。4×4=16。6+16=25
√25=5、よって辺の部分の長さの答えは5です。」
「巻き尺があれば、計算などいらないし、その答えも、裏にある数字を合わせ合うと、答えが出る。」
「巻き尺で測れない大型製造機だと、計算が必要です。」
頭領は何か思い至ったことがあるのか、つかの間ながらも考え込んで頷いた。

 鹿島は叔父が大工であったので、指金の裏寸法で三角形が正確に描けることで、回り階段の各踏板が正確に割り出せることを知り、驚いた記憶を思い出した。
叔父は、屋根や階段に筋違等を、指金の裏寸法で正確に全長と勾配を導き出していたことにも感心した。
数式を知らなくても指金の裏寸法は、√と2乗が導き出される優れ物である。

 おそらく、頭領の巻き尺もそのたぐいだと思えた。

 鹿島はサニーと長老一人が、グループから少しずつ離れだしている事に気付いた。
どうやらサニーは、憑依の魔法を知りたがっている様子である。
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