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トマト君とゲームの住人②
しおりを挟む「今日はなにしてたの?」
シュートは僕の今日一日を知りたがる。
話のきっかけに過ぎないのかもしれないけれど、僕に興味を持ってくれている気がして嬉しい。
「友達の家にノートを借りに行って課題をやってから、スケボーの練習してた。」
最近同じクラスの友人に誘われてスケボーを始めた。
母さんは怪我だらけの僕を見て、そんな危ないことやめてって毎回言っているけど。
「トマトは運動神経もいいんだね。」
「やったことある?スケボー。」
「ないよ。かっこいいなぁって思うけど、難しそう。」
興味があるのかないのか、彼の声色だけじゃ全然わからない。
彼の声のトーンはいつも穏やかで、僕みたいに喜んだり怒ったり表現があからさまじゃないから。
「一緒にやってみる?」
「・・いいの?」
ボードを持っていないという彼に、僕のを貸してあげるから買う前に試してみたらと提案した。
シュートが住んでいるのは隣の市だ。前に聞いたことがあったから、勇気を出して誘ってみる。
彼に会ってみたいという気持ちが抑えられずにいた。
土曜日、海が見える公園で待ち合わせ。
電話番号を交換しようと言った僕の提案は、スマホでもこのメッセージが見れるからとやんわり断られた。
オンラインゲームで知り合った関係。相手がどこの誰なのかもわからない。
彼は来ないかもしれない、そう思っていた。
ダメ元で誘ったのだし、会ったこともない相手なのだからそれも仕方ない。最初から自分の気持ちに目一杯の保険をかけて、僕は公園へと出掛けた。
「やっぱり来ないよなぁ。・・・そうだよなぁ。」
海辺に続く遊歩道のベンチに座って独り言を言いながら、海を眺める。
ここが海で良かった。
海は見ているだけで、嫌なことを全部忘れさせてくれるから。
僕は1時間だけ待つと決めていて、残り時間はあと3分。
「振られた・・・・」
変な話なんだけど、僕は勝手に振られたような気持ちになっていた。
来ないかもしれないって保険をかけまくっていたくせに、結局落ち込んでいる自分に苦笑する。
「トマト・・・?」
すぐ後ろからかけられた声に、僕の肩がびくっと反応した。
数秒の間、僕は固まっていた。
耳に届いた声が、彼の声だとすぐにわかったから。
おそるおそる振り返ると、海に反射する光を受けてキラキラと眩しいくらいのイケメンが、そこに立っていた。
「遅れてごめん、仕事の時間が長引いちゃって。」
急いできたんだけど、と彼は肩で息をしながら僕を見た。
眩しい。イケメンすぎる。
オンラインゲームで出会った人がこんなにイケメンだなんて、そんなパターンが本当にあるんだ。
「仕事?シュート、バイトしてるの?」
「あ・・うん。まぁね。一時間も待たせてごめん。」
「大丈夫大丈夫!!!僕、全然暇人だから!」
僕の隣に腰掛けたシュートから柑橘系の爽やかな良い香りが漂ってきて、俺はなんだか恥ずかしくて至近距離にいる彼を直視できなかった。
目を合わせようとしない僕を、不思議そうに彼が覗き込む。
綺麗だ。そう思った。
男性に綺麗だという感想を持ったのは生まれて初めてだった。
彼は耳が隠れるくらいの長さまである綺麗な濃紺の髪を、真ん中で分けている。
身長は170cmはあると思う。スラッと手足が長くて顔が小さくて、まるでモデルさんみたいだった。
「トマト、って可愛い名前だよね。本当の名前は何ていうの?」
彼は首を傾げて僕の顔を見ながら、そう言った。
すぐ隣から彼の視線を感じて、横顔がか~っと一気に熱くなる。
顔が真っ赤になっていないか心配で、気が気じゃなかった。
「それ、本名なんだ。トマトって名前。兎に写真の真に、北斗七星の斗って字。」
「え・・?」
彼の顔を見ると、驚いて目を丸くしている。
「変な・・名前だよね。びっくりするよね。トマトなんて名前・・・」
「違う。そうじゃない。」
彼は首を振ってそう言った。気を遣わせてしまったのかと思って、慌ててフォローする。
「変だよ~今まで散々からかわれてきたし!」
「違うんだ。俺も・・・シュートって本名なんだ。」
彼がいたずらのタネあかしをするみたいに、笑った。
「え?!シュートも本名!??」
「うん。修斗。修了式の修に、トマトと同じ斗って漢字。」
「嘘・・・!!」
僕は勝手に運命を感じてしまった。彼も本名で、僕と同じ漢字が入った名前だったなんて。
スケボーの練習をするっていう名目だったけれど、僕たちはそれから日が暮れるまでの間、ずっと二人きりで話し込んでいた。
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