官能男子

トマト君とゲームの住人①

僕の名前は、橋本 兎真斗はしもと とまと。

トマト君、ってみんなに呼ばれている。
キラキラネームって周りがどう思っているのかわからないけれど、僕自身はあまり好きじゃない。
トマトって野菜だっけ？果物だっけ？

漢字はカッコイイって言われることもあるけど、口に出してみたら食べ物の「トマト」と変わらない。

その上僕はトマトが苦手だ。
「兎真斗君なのに、トマト苦手なの？」って給食のとき何度からかわれたことか。
トマトの味とともに、そんな苦い思い出が蘇る。
名前を決めたのは僕じゃない。両親だ。


この名前で唯一良かったなぁと思うことは、オンラインゲームで本名を使えるところ。
ゲームで使うキャラの名前を「トマト」にしても、誰も本当の名前だって気付かない。


『サイドプラネットストーリー』。

今僕がハマっているオンラインゲームだ。
神様が作った失敗作の惑星を、自分たちで立て直して作り上げて行こうっていう創作系のゲーム。

街を作ったり人を作ったり法律を作ったりしながら、自分たちの思い通りの星を作ってそこで暮らして行くっていう内容なんだけど、これがすごく面白い。
僕はオンラインで出会った３、４人の仲間たちと、話し合ったり試行錯誤しながら惑星を作っている。
ゲームの中のことなのに、惑星一つを自分たちの思い通りに創造していると思ったら、なんだかとても偉くなったような気になるから不思議だ。
仲間たちは運命共同体。
この惑星が良い星になるのか悪い星になるのかは、僕たち次第。


仲間の一人に「シュート」という名前の子がいる。
一ヶ月前、ダイレクトメッセージがきて２人で話すようになった。

『今夜、２２時から話せる？』
画面上での付き合いに、声でのやりとりが加わった。

彼の声はとても穏やかで落ち着いていて、僕の好きなアニメに出てくる声優さんに似ていた。
彼は僕と同じ高校２年生で、来年は受験生だからゲームが親に禁止されるかもしれないと言っていた。僕の親も同じようなことを言ってるよ、と言うと、どこの親も同じだな、って優しい声で笑った。

同じ歳にしては彼は少し大人びている。
自分が話すというよりも人の話を聴く方が好きだと言った。


『うん。２２時にね。』

「シュートはどんな人なんだろう・・・」
OKの返事をしながら、呟く。

声だけしか知らない相手。それなのに、彼を知りたいという気持ちはどんどん強くなっていた。