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「提供って言ってもよ、これに勝るもん置いてんのかよ?」
兄がそう言って家から持ち出した剣をおっさんの前に置く。


店主のこめかみがピクリと動く。
「言うか言わんか迷ったんだが、それ練習用だろ?」
鋭い勘だ。

「ああ。それがなんだ」
兄は少しイラッときたようだ。

「しっかりしたブランドで、高貴な身分じゃ無いと手に入らないだろな。値段が高いから貴族のステータス用か、練習用。一応真剣だが、そのブランドの本気に比べりゃナマクラだ。あんたの腕じゃもう気づいているんじゃねぇか?」
兄は店主から目を逸らす。

「練習用ってのは重さに慣れるためだったり木とか藁に傷をつけるような刃になってんだ。あんたのを扱ったことがねーから分からんけど、ひょっとしたら弟のムヅィルスィの方がいいかもしれねないぞ?」
すごい言われようだな。

「これを整備しても無駄か?」
兄が鞘から刃をだす。確かに所々欠けている。

「残念だがな。大切にしてるのはわかるが、実践には向かねないね。いいもんだから飾っときな」
兄は少し残念そうな顔をしている。
そらそうだ。
自信満々に出したお気に入りの剣が実は実践向けではないと言われたのだ。

「まともなやつくれや」
兄は諦めたように剣を腰に戻し、店主に言う。

「そうこなくっちゃ。な、これなんてどうだ?」
奥から大事そうに持ってくる。


高そうだ。ただ兄のほどではない。兄の剣は貴族ですよ!庶民は触るなよ!みたいなオーラがあるがコレはそんな感じはない。
貴族を喜ばせるような装飾や色使いはなく、あくまで実用的で、製作者が意匠を凝らして退屈させないようにしたデザインだ。
ただ、問題は使い心地なのだ。

兄が剣に手を伸ばす。

「ふん」
コレは多分文句がないってことなんだろう。

「練習用の剣でこれだけ稼げるんだから、何使ってもいけるだろ」
店主が言う。
僕もそう思う。兄さんは最強だ。

「隣町まで整備に来てくれるのか?」
さっきチラッと言っていた話だ。

「ああ、たまに行ってんだよ私用で。ついでだから整備もするぜ?わざわざ提供してんだから」
おー。いいじゃん。

「なら適当なやつもう一本くれ。買うから。使えなくなった時困る」
使えなくなって、すぐに整備ってわけにはいかなくなる。僕は多分だがそんなに使わないからもう一本はいらないだろう。

「これでも持ってけ」
普通の剣を渡される。たぶん使い心地も普通だろう。

「いくらだ?」
値段は恐るに足らずって感じだろう。

「いらねぇよ。俺が暇潰しに打ったんだから」
おっちゃん謹製か。
いいじゃん。
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