16 / 43
第一章 新入生
16 エスコート事件
しおりを挟む
選挙が終わると、一週間ぐらい休みがあって、その後は年度末までラストスパートである。
生徒会の引き継ぎはこの時期に行われる、らしい。最上級生は卒業してしまうから、その前にする訳だ。
委員会の方は、新年度に入ってから新しい委員を選ぶ。
年間を通して最大の学園行事は、卒業パーティである。
生徒会の主催で、卒業生が主役だから、先日選挙で選ばれた新任役員が準備をする。協力する代表委員、企画委員、風紀委員も、送り出す側の在校生である。
ディディエの話では、授業や宿題の合間を縫って進める準備が、結構大変らしい。
となると、新しく書記に就いたアメリと、現委員であるシャルル王子、ディディエは、クラス以外でも一緒にいる時間が増えたことになる。
加えてリュシアンも、何か委員会に所属していた気がする。まさか、クレマン先生が生徒会顧問じゃないでしょうね?
調べてみたが、そこは違っていた。知らない間に、生徒会逆ハーレムが成立していなくて、よかった。
卒業パーティと言えば、断罪イベント。私が読んだ漫画のイメージである。
ヒロインも最終イベントへ向けて、攻略対象の好感度を上げるべく、追い込みにかかっているに違いない。
翻って私は、断罪対策については、効果的な手を打てないまま、一年の終わりを迎えつつあった。
サンドリーヌ個人としては、十分成果を上げた。
勉強しまくって、成績上がった。家族や召使いとの関係も良好で、いらぬ世話を焼く取り巻きが減った代わりに、フロランスみたいな素敵な人と友達になれた。ドリアーヌも私とクラスが離れて、取り巻き令嬢をしなくて済んだ。あの娘は、多分そういう立ち位置である。
この世界がゲームにせよ、漫画にせよ、シナリオを知らないというのが、一番の問題だった。
ヒロインも悪役令嬢も攻略対象者も、全ては推定である。
仮に、前提が間違っていたら、なんて、考えたくもない。
基本的な断罪回避策として、ヒロインに意地悪をしない、攻略対象、特に王子、に嫌われないよう近付き過ぎない、という方針で来た。
記憶を取り戻して以来、誰にも意地悪しないよう気をつけてきたつもりだ。実家の召使にも。
そして、恋愛に絡まないようにも気をつけてきた、と思う。
だから、もしヒロインがアメリじゃなかったとしても、攻略対象がどこかの従僕だったとしても、私が断罪される確率は、限りなく低くなっている筈だ。
とはいえ、断罪フラグを取りこぼした可能性までは、否定できない。いつどこに何のフラグが立つのか、知らないのだ。これは、避け難いリスクである。
前世で読み倒した異世界漫画から考えて、私が実行してきた作戦は、正しい方向と確信している。もはや信心である。
しかし、パーティ開催日が近付くにつれ、断罪が頭にちらつくのは、どうしようもなかった。
そんな時に、シャルル王子から呼び出しを食らった。
これは、あれだ。断罪イベント前のダメ押しみたいなものだろう。
これ以上、主人公をいじめるのを止めろ、さもないと‥‥という最後通牒。近付いてもいないのに。
漫画でも、悪役令嬢が無実なのに、罪を着せられる話をたくさん読んだ。漫画だと、そこから逆転して行くのだけれど、ゲームだったら、恐らくそこで終わりだろう。
とにかく、王子に呼び出されたら、無視できない。
何なら、既にヒロインと王子が寄り添う場に晒されるかも。想像するだに胃が痛い。
呼び出された先は、礼拝堂近くの人気がない庭園。春先のことで、放課後から陽が落ちるまで、あまり時間がない。
本当に王子の呼び出しだろうか。暗がりに紛れて殴られたりしないよね?
あるいは、攫われるとか。
シナリオを知らないと、予測不能という不安に襲われる。気分は、逃亡中の犯罪者である。しかも冤罪。
指定された東屋へ出頭すると、シャルル王子が座っていた。アメリは見当たらない。代わりに、バスチアンが控えている。
「お待たせいたしました」
恐る恐る挨拶しつつ、顔色を窺う。いまや、私たちは滅多に会わない。
従って、王子が何を考えているか、さっぱり読めなかった。
「いや。今来たところだ。そこへ座れ」
と隣を指す。王子の向かい側にも、同じ形のベンチがあるのに。
神経を逆撫でしないよう、言われた通り、なるべく距離を空けて腰を下ろす。王子の眉が、鋭角に上がる。
「大声で話す内容じゃない。もっと詰めろ」
そりゃ、婚約者以外の女性と懇ろです、なんて話は、大声じゃできまい。配慮が足りなかった。
そろそろと横滑りし、膨らみのあるスカートが触れる位まで、寄せた。
「最近、勉強の方は順調に進んでいるのか?」
「‥‥はい。今のクラスでは、先生方がわかりやすい授業をしてくださいます」
明後日の方向からの質問に、戸惑いつつ答える。
今のクラスに満足していることと、違うクラスにいる王子のご贔屓のアメリには会っていません、という遠回しのアピールでもある。
「そなた、今年は委員会活動もクラブ活動もしなかったそうだが、来年は代表委員会に入れ。根回しはしておく」
来年の話をしたら、鬼が笑うといいますよ。追放されたら、来年いないし。しかも根回しって。
婚約破棄の埋め合わせに、就職の斡旋でもしてくれないかしら。処刑とか追放はないのかな。野草図鑑まで買って勉強したのに。
「承知いたしました」
来年度も在籍していたら、ね。
「それから、卒業パーティの衣装は、こちらで用意する」
王子は、私の内心などつゆ知らず、話を進めた。
「そんな。何人分もの衣装をご負担させるのは、気が引けます」
前回、アメリのドレスを用意したのは王子だと、確信している。
「婚約者の分を揃えるのは当然だ。気にするな」
さりげなく嫌味を言ったのだが、スルーされた。
「はあ」
どうせすぐ断罪されるのに。婚約破棄後に、返せと言われたらどうしよう。
返したくないのではない。それにまつわるやりとりが面倒だ。
どうせ婚約破棄されるのなら、断罪を避けて、穏便に婚約解消できないものか。
「成績や行事の準備など、あまねくお気遣いいただき感謝いたします。以前も申しましたが、私よりもふさわしい方を見出されましたら、どうかお早めに、ご遠慮なくお話しください。謹んで身を引きます」
話しているうちに、王子の表情が冷たくなってきた気がした。
前世から、人に怒られるのは怖くて嫌いだ。アメリとのこと、バレていないとでも思っているのだろうか。
間違いだと自分でわかっていても、人から間違いを指摘されるのが嫌いな人って、いるよね。
私は声を励まして、最後まで言い切った。
王子は、返事をしなかった。あまりに沈黙が続き、声をかけようとしたところで、反応があった。
「‥‥わかった」
陽の翳りもあって、王子の顔が強張って見える。前世と合わせれば何十歳も年下なのに、やはり怖い。王族の威厳だろうか。
私は立ち上がった。言わなきゃよかった。しかしながら、言わなきゃ言わないで、いつまでも後悔するのだ。
「御用がお済みでしたら、これで失礼いたします。お仕事に追われてお疲れのご様子、体を労ってくださいませ」
逃げるように辞去するのを、引き止められることもなく、寮まで戻ってから思い出した。
アメリの話、聞き損ねた。
届いた卒業パーティ用ドレスは、前回に比べて地味だった。呆然と眺める私に、ジュリーが解説を始めた。
「卒業パーティは卒業生が主役です。このドレスは一見地味ですけれど、とても凝っていて、王子殿下の愛情を感じますわ。ほら、この裏地の布とか」
「そお?」
彼女の説明を聞きながら改めて観察し、そうかもしれない、と納得した。そもそも婚約解消を望んでおきながら、粗略にされたと思って落ち込むのは、矛盾も甚だしい。
私は王子と結婚したいのだろうか。前世の記憶を思い出して以降、王子への恋心は失せていた。貴族の結婚に恋心は無関係だが。
それに、どうせ悪役令嬢の私は王子と結婚できない。
前回と違い、今回はドレスだけだったのも、粗略感を高めていた。
地味な靴や小物が手持ちにあるか、実家のクローゼットを確認しなくてはならない。以前のサンドリーヌの趣味からして、多分ない。買いに行かねば。
卒業パーティ当日。
私は王子から贈られたドレスに、自分で合わせた小物をつけて、会場へ行った。
服に合わせて、髪型も前回より落ち着いた風にまとめてある。これもジュリーが決めて、仕上げたものだ。
何で侍女が学園の行事に詳しいかというと、彼女もそう遠くない昔の卒業生だからである。女性の場合、結婚したくなければ、そういう道もあるのだ。
ただし、サンドリーヌは公爵家の出だから、ほぼ王宮か外国にしか勤め口がない。
出自より格下の家に仕えるのは、実家全体を貶める行為とされていた。
だから、お家断絶とか、勘当でもされない限り、伯爵以下の家にお勤めはできない。家格が高いのも良し悪しだ。
ちなみにジュリーは男爵家の生まれで、ヴェルマンドワ家と遠戚関係にある。
前回のパーティと同じ場所で待っている。
シャルル王子の姿は、まだ見えない。
同級生も上級生も、次々パートナーと入場して行く。服装に関しては、ジュリーの言った通り全般に地味目で、王子が意地悪したのではない、と分かって安堵した。
時間が経つにつれ、ちらほらと卒業生が集まってきた。
こちらは、最後のパーティで主役を張る。煌びやかな衣装が目に眩しい。
リュシアンが、婚約者のフロランスを伴ってやってきた。今日は違う色合いなのに、仕立てでお揃いに見える衣装を纏っていた。
「お。サンドリーヌ嬢は、委員会に入っていないのに、一人で出迎え係?」
「いいえ。シャルル王子を待っているの」
リュシアンが、え、という顔をする横で、フロランスの眉が、きりりと上がった。彼女が素早く耳打ちすると、彼は、婚約者を置いて姿を消した。
「フロランス様、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとうサンドリーヌ様」
フロランスが近くまで来て、両手で握手した。握り返すと、腕を引いて身を寄せられた。
「落ち着いて聞いてね。殿下は別の人をエスコートするの。今、あなたのパートナーをリュシアンに連れて来させるから、もう少しだけ待ってくださいな」
早口で囁き、離れた時も笑顔のままだった。私も笑顔を固定する。
「ありがとうございます。嬉しいですわ」
正直なところ、脈が速くなっていた。
しまった、やられた。
なまじ、衣装を用意してもらったことで、油断した。
卒パといえば、断罪イベントだって、自分で言っていたじゃん。
私のバカバカバカ。
生徒会の引き継ぎはこの時期に行われる、らしい。最上級生は卒業してしまうから、その前にする訳だ。
委員会の方は、新年度に入ってから新しい委員を選ぶ。
年間を通して最大の学園行事は、卒業パーティである。
生徒会の主催で、卒業生が主役だから、先日選挙で選ばれた新任役員が準備をする。協力する代表委員、企画委員、風紀委員も、送り出す側の在校生である。
ディディエの話では、授業や宿題の合間を縫って進める準備が、結構大変らしい。
となると、新しく書記に就いたアメリと、現委員であるシャルル王子、ディディエは、クラス以外でも一緒にいる時間が増えたことになる。
加えてリュシアンも、何か委員会に所属していた気がする。まさか、クレマン先生が生徒会顧問じゃないでしょうね?
調べてみたが、そこは違っていた。知らない間に、生徒会逆ハーレムが成立していなくて、よかった。
卒業パーティと言えば、断罪イベント。私が読んだ漫画のイメージである。
ヒロインも最終イベントへ向けて、攻略対象の好感度を上げるべく、追い込みにかかっているに違いない。
翻って私は、断罪対策については、効果的な手を打てないまま、一年の終わりを迎えつつあった。
サンドリーヌ個人としては、十分成果を上げた。
勉強しまくって、成績上がった。家族や召使いとの関係も良好で、いらぬ世話を焼く取り巻きが減った代わりに、フロランスみたいな素敵な人と友達になれた。ドリアーヌも私とクラスが離れて、取り巻き令嬢をしなくて済んだ。あの娘は、多分そういう立ち位置である。
この世界がゲームにせよ、漫画にせよ、シナリオを知らないというのが、一番の問題だった。
ヒロインも悪役令嬢も攻略対象者も、全ては推定である。
仮に、前提が間違っていたら、なんて、考えたくもない。
基本的な断罪回避策として、ヒロインに意地悪をしない、攻略対象、特に王子、に嫌われないよう近付き過ぎない、という方針で来た。
記憶を取り戻して以来、誰にも意地悪しないよう気をつけてきたつもりだ。実家の召使にも。
そして、恋愛に絡まないようにも気をつけてきた、と思う。
だから、もしヒロインがアメリじゃなかったとしても、攻略対象がどこかの従僕だったとしても、私が断罪される確率は、限りなく低くなっている筈だ。
とはいえ、断罪フラグを取りこぼした可能性までは、否定できない。いつどこに何のフラグが立つのか、知らないのだ。これは、避け難いリスクである。
前世で読み倒した異世界漫画から考えて、私が実行してきた作戦は、正しい方向と確信している。もはや信心である。
しかし、パーティ開催日が近付くにつれ、断罪が頭にちらつくのは、どうしようもなかった。
そんな時に、シャルル王子から呼び出しを食らった。
これは、あれだ。断罪イベント前のダメ押しみたいなものだろう。
これ以上、主人公をいじめるのを止めろ、さもないと‥‥という最後通牒。近付いてもいないのに。
漫画でも、悪役令嬢が無実なのに、罪を着せられる話をたくさん読んだ。漫画だと、そこから逆転して行くのだけれど、ゲームだったら、恐らくそこで終わりだろう。
とにかく、王子に呼び出されたら、無視できない。
何なら、既にヒロインと王子が寄り添う場に晒されるかも。想像するだに胃が痛い。
呼び出された先は、礼拝堂近くの人気がない庭園。春先のことで、放課後から陽が落ちるまで、あまり時間がない。
本当に王子の呼び出しだろうか。暗がりに紛れて殴られたりしないよね?
あるいは、攫われるとか。
シナリオを知らないと、予測不能という不安に襲われる。気分は、逃亡中の犯罪者である。しかも冤罪。
指定された東屋へ出頭すると、シャルル王子が座っていた。アメリは見当たらない。代わりに、バスチアンが控えている。
「お待たせいたしました」
恐る恐る挨拶しつつ、顔色を窺う。いまや、私たちは滅多に会わない。
従って、王子が何を考えているか、さっぱり読めなかった。
「いや。今来たところだ。そこへ座れ」
と隣を指す。王子の向かい側にも、同じ形のベンチがあるのに。
神経を逆撫でしないよう、言われた通り、なるべく距離を空けて腰を下ろす。王子の眉が、鋭角に上がる。
「大声で話す内容じゃない。もっと詰めろ」
そりゃ、婚約者以外の女性と懇ろです、なんて話は、大声じゃできまい。配慮が足りなかった。
そろそろと横滑りし、膨らみのあるスカートが触れる位まで、寄せた。
「最近、勉強の方は順調に進んでいるのか?」
「‥‥はい。今のクラスでは、先生方がわかりやすい授業をしてくださいます」
明後日の方向からの質問に、戸惑いつつ答える。
今のクラスに満足していることと、違うクラスにいる王子のご贔屓のアメリには会っていません、という遠回しのアピールでもある。
「そなた、今年は委員会活動もクラブ活動もしなかったそうだが、来年は代表委員会に入れ。根回しはしておく」
来年の話をしたら、鬼が笑うといいますよ。追放されたら、来年いないし。しかも根回しって。
婚約破棄の埋め合わせに、就職の斡旋でもしてくれないかしら。処刑とか追放はないのかな。野草図鑑まで買って勉強したのに。
「承知いたしました」
来年度も在籍していたら、ね。
「それから、卒業パーティの衣装は、こちらで用意する」
王子は、私の内心などつゆ知らず、話を進めた。
「そんな。何人分もの衣装をご負担させるのは、気が引けます」
前回、アメリのドレスを用意したのは王子だと、確信している。
「婚約者の分を揃えるのは当然だ。気にするな」
さりげなく嫌味を言ったのだが、スルーされた。
「はあ」
どうせすぐ断罪されるのに。婚約破棄後に、返せと言われたらどうしよう。
返したくないのではない。それにまつわるやりとりが面倒だ。
どうせ婚約破棄されるのなら、断罪を避けて、穏便に婚約解消できないものか。
「成績や行事の準備など、あまねくお気遣いいただき感謝いたします。以前も申しましたが、私よりもふさわしい方を見出されましたら、どうかお早めに、ご遠慮なくお話しください。謹んで身を引きます」
話しているうちに、王子の表情が冷たくなってきた気がした。
前世から、人に怒られるのは怖くて嫌いだ。アメリとのこと、バレていないとでも思っているのだろうか。
間違いだと自分でわかっていても、人から間違いを指摘されるのが嫌いな人って、いるよね。
私は声を励まして、最後まで言い切った。
王子は、返事をしなかった。あまりに沈黙が続き、声をかけようとしたところで、反応があった。
「‥‥わかった」
陽の翳りもあって、王子の顔が強張って見える。前世と合わせれば何十歳も年下なのに、やはり怖い。王族の威厳だろうか。
私は立ち上がった。言わなきゃよかった。しかしながら、言わなきゃ言わないで、いつまでも後悔するのだ。
「御用がお済みでしたら、これで失礼いたします。お仕事に追われてお疲れのご様子、体を労ってくださいませ」
逃げるように辞去するのを、引き止められることもなく、寮まで戻ってから思い出した。
アメリの話、聞き損ねた。
届いた卒業パーティ用ドレスは、前回に比べて地味だった。呆然と眺める私に、ジュリーが解説を始めた。
「卒業パーティは卒業生が主役です。このドレスは一見地味ですけれど、とても凝っていて、王子殿下の愛情を感じますわ。ほら、この裏地の布とか」
「そお?」
彼女の説明を聞きながら改めて観察し、そうかもしれない、と納得した。そもそも婚約解消を望んでおきながら、粗略にされたと思って落ち込むのは、矛盾も甚だしい。
私は王子と結婚したいのだろうか。前世の記憶を思い出して以降、王子への恋心は失せていた。貴族の結婚に恋心は無関係だが。
それに、どうせ悪役令嬢の私は王子と結婚できない。
前回と違い、今回はドレスだけだったのも、粗略感を高めていた。
地味な靴や小物が手持ちにあるか、実家のクローゼットを確認しなくてはならない。以前のサンドリーヌの趣味からして、多分ない。買いに行かねば。
卒業パーティ当日。
私は王子から贈られたドレスに、自分で合わせた小物をつけて、会場へ行った。
服に合わせて、髪型も前回より落ち着いた風にまとめてある。これもジュリーが決めて、仕上げたものだ。
何で侍女が学園の行事に詳しいかというと、彼女もそう遠くない昔の卒業生だからである。女性の場合、結婚したくなければ、そういう道もあるのだ。
ただし、サンドリーヌは公爵家の出だから、ほぼ王宮か外国にしか勤め口がない。
出自より格下の家に仕えるのは、実家全体を貶める行為とされていた。
だから、お家断絶とか、勘当でもされない限り、伯爵以下の家にお勤めはできない。家格が高いのも良し悪しだ。
ちなみにジュリーは男爵家の生まれで、ヴェルマンドワ家と遠戚関係にある。
前回のパーティと同じ場所で待っている。
シャルル王子の姿は、まだ見えない。
同級生も上級生も、次々パートナーと入場して行く。服装に関しては、ジュリーの言った通り全般に地味目で、王子が意地悪したのではない、と分かって安堵した。
時間が経つにつれ、ちらほらと卒業生が集まってきた。
こちらは、最後のパーティで主役を張る。煌びやかな衣装が目に眩しい。
リュシアンが、婚約者のフロランスを伴ってやってきた。今日は違う色合いなのに、仕立てでお揃いに見える衣装を纏っていた。
「お。サンドリーヌ嬢は、委員会に入っていないのに、一人で出迎え係?」
「いいえ。シャルル王子を待っているの」
リュシアンが、え、という顔をする横で、フロランスの眉が、きりりと上がった。彼女が素早く耳打ちすると、彼は、婚約者を置いて姿を消した。
「フロランス様、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとうサンドリーヌ様」
フロランスが近くまで来て、両手で握手した。握り返すと、腕を引いて身を寄せられた。
「落ち着いて聞いてね。殿下は別の人をエスコートするの。今、あなたのパートナーをリュシアンに連れて来させるから、もう少しだけ待ってくださいな」
早口で囁き、離れた時も笑顔のままだった。私も笑顔を固定する。
「ありがとうございます。嬉しいですわ」
正直なところ、脈が速くなっていた。
しまった、やられた。
なまじ、衣装を用意してもらったことで、油断した。
卒パといえば、断罪イベントだって、自分で言っていたじゃん。
私のバカバカバカ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
39
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる