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帝国編

悪気はなかったのでした

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 黒い翼を切り飛ばした刃先無き短剣とディオールの杖を回収し、地面へと落ちていくレイブンを見下ろしていたのですが・・・ミリー達が動く気配がないのです。
「奥の手というのが何か分からないですが・・・油断するとしっぺ返しを受けそうなのです」
 リアの真後ろに墜落したレイブンが片膝を付いてこちらを見上げていますが、敵意を通り越して困惑した表情・・・警戒はしつつ高度を落とすのです。
「リアはんの言っていたのはこういう事かいな・・・端っから手を出したらあかんかったようや・・・」
「どんまいじゃな、最初から切り札が通用していない単純な問題ではあったのじゃ・・・妾達との与太話に興じて根幹に意識を向けなかったのも要因かのう」
「今時間を止めてるんはあんさんの仕業っちゅうことやな・・・力の消失の喪失感、初めての感覚やわ」
 時の流れを無理矢理止め過ぎなのです・・・そんな気軽に停止できるものではないと思うのですが。
 若干弱まっているようですが、レイブンの魔力は健在なのです。
「うちら天陽の民が個々に持っている力・・・翼が断たれた瞬間に失うなんて、正直知りとうなかったわ・・・神器を回収しようとしただけでなんでうちの力が没収されてん・・・」
「黒翼と共に高次存在の特性も散り、霊格自体が下がるのは・・・まあ稀じゃな、貴重な体験ではあるのじゃ」
「他人事やと思うて・・・」「他人事なのじゃ」
「没収と言われても私、力を奪うつもりはないのですが・・・特にそういった感覚も・・・」
「ノリで言っただけやねん・・・言い方なんてどうでもええんや、そう考えんと気が触れそうなんや」
 レイブンは空の光月を見上げながら茫然自失になっているようです・・・これは本当にやっちまったのですかね・・・?
 私も深く考えずに事を成してしまったようで、堕天どころか人族の領域にまで落ちるとは到底思いもよらないのです。
「話をまとめると・・・私が翼を切り落としたせいで天使から人になった・・・で合っているのです?」
「簡略すんなや・・・でもそうなるんよな・・・そうなると、うちどうやって光月に帰るん・・・」
 リアの方に視線を向けると少し悪い顔しているのです、あれはすぐにでも光月に転送できる・・・でもしない、そういう顔なのです・・・私の臆測ですけど。
「神器の件もお主の言い分は理解した上で、あの2人に忠告くらいはしてやるのじゃ・・・というより主にメーインティヴの霊狐だけなのじゃが」
「こんな状態では部下に示しがつかへんし・・・覚悟決めたる、煮るなり焼くなり好きにせえ・・・不条理甚だしいんやけどな」
 納得いってないご様子・・・きっと誰が悪いわけでもなかったのですけど、強いて挙げるなら私が過剰防衛した可能性かもですかね・・・物理的に地上に落とすだけのつもりが天使から脱落させてしまったのです。
「普段呑気なこやつ相手に前触れなく知人親族の命を奪う行動も理不尽に等しいじゃろう、覚悟の程とやらを実践してみるとよい」
 リアも興が乗っているのか饒舌なのです、最古の龍的にはイベント事が楽しいよう・・・

 リアの言葉は果たして有情なのか非情なのか、ジオの鎧を転送した所で時間の流れが戻ったようなのです。
 飛び退いて着地したユラが不思議そうに、前方のフィアさんと姉様を見ていたのです。
「・・・赤光が一瞬で消えた・・・?」
「メーインティヴ、凄まじい力・・・と言いたい所だけどアイギス越しに違う違和感が・・・気のせいか・・・?」
「?レイちゃん、今確かに使ったよね!なんか余韻全然なかったよ!?」
(アイギスに防がれたせいなのだわ・・・そのはずなんだけどここまで一瞬で掻き消されるのはおかしいのだわ!)
 姉様とレイちゃんによる攻撃がフィアさんのアイギスに衝突・・・その際にレイブンが介入した時に赫炎剣も打ち消したみたいです。
 リアと私的にはそれなりの時間を過ごした・・・止まった時間を過ごすというのも変な話ですが、それはいいとして皆にはあまりに一瞬の出来事を目にした感じ・・・なのですかね。
「不気味なくらいに音が消えましたわ・・・それとは別にフィオナが一瞬で移動したようにも見え・・・いつの間に杖まで持って・・・?」
 なるほど・・・そういう風に見えるのですね、どこに立ってたかうろ覚えだったのです。
「カァァ」「な・・・なんですの!?」
 ディオールの杖先に止まっているカラス・・・リアの無情でレイブンがレイブンになってしまったのです、ここまでしなくてもよかった気がするのです。
(やったな・・・やってもうたなリアはん、鬼やなあんさん・・・)
(龍なのじゃ、大人しくしておれば黒翼も含め戻してやるのじゃ)
「野鳥のようですわね・・・驚かさないでくださいまし・・・いえ、その前に何故フィオナの杖に・・・」
「その・・・小森で魔導術の練習してる際に遭遇したのです、実は屋根から眺めていたりするのです・・・たぶん」
 杖にカラスと、魔導師からどんどん離れている気がしなくもないですけど・・・これはどちらかといえば魔女なのです。
「それにしても野鳥にしては魔力が異常ですわ・・・フィオナに惹かれたともとれますけれど、魔物図鑑の隅に逃げ延びたカラスの小話がありましたわね」
「ふむ、そのカラスも相応に特殊な個体やもしれぬのぅ」
 これ以上ないくらいに白々しいリアの反応なのでした。
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