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ダンジョンの入り口から帰宅する幽鬼
タバコは身体に毒ですよ
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険しい山腹で繰り広げられる、俺の重量級の図体からは想像もつかないような曲芸的戦闘――。
ここは正規の攻略ルートではない。
だからダンジョン側の妨害にも一切の容赦がない。本気で殺しに来る。
俺も本気だ。急いでいる。
「ひええええええええええええええ」
顔面蒼白のショコラを脇に抱え、真っ赤に輝く〈溶鉄ガーゴイル〉を十匹以上同時に相手取る。
「落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん――」
すごく落とさないで欲しがるショコラ。
何故ならここは絶賛噴火中の火山。ぐつぐつと沸き立つ溶岩流の真上だからだ。
ぴょんぴょんと小さな岩場を渡り、立ち上る陽炎の向こうから飛び掛かってくる真っ赤なガーゴイルを大戦斧で打ち落として、また跳ぶ。その繰り返し。
着地と同時に〈闇黒に絶る大瀑布〉を片手で振り抜く。空間に滑らかな黒刃の円弧が描き出されると同時に、ガコォ……という硬い手応えがあった。
残り十二匹。
多いな……。
こんなに執拗にガーゴイルを置かなくても、そもそも、ここは溶岩地帯だから冒険者は通らない。通ろうという発想にすら至らないはず。
それでも念には念を入れる、ダンマスの偏執的な一面だ。
溶岩流程度の地形トラップだけであれば、ショコラの身軽さならば突破できたかも知れないが、このガーゴイルどものせいで無理だ。
奴らに捕まると、高く持ち上げられて、地上で潰れたスイカにされるか、あるいは溶岩でジュッ……される恐れがある。
「落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん――」
「少し黙ってろ。舌を噛むぞ」
死体がないと、全滅していなかったとしても、復活の際に装備品を供物として要求される。しかも、先のアンカーポイントで復活させた場合、装備を取りに“戻る”という無駄な手間まで発生してしまう。
ショコラの装備は既にズボンと靴、下着、髪飾りと指環だけだ。これ以上装備を落とさせたくはない。彼女の装備を補給している暇が惜しい。
だからこうして、彼女を小脇に抱え、ガーゴイルの魔の手から守りつつ強引に突破中なのだった。面倒くさいったらありゃしない。
「――ひぎッ! あっっつーーーーーーい‼」
見れば、彼女の尻尾の先がジュッ……となって煙を上げていた。
「――ふんッ!」
無視して大戦斧を振り抜き、飛びかかってきたガーゴイルの頭部を砕いた。
「よし、道が開けた。一気に駆け抜けるぞ――ッ⁉」
突如として視界の端から急降下してくる影があった。
岩の影からガーゴイルの体当たり気味の急襲だ。
その程度では俺の甲冑〈枯朽する曙光〉には傷ひとつ付かないが、バランスを崩して溶岩に落とされる危険がある。
慌てて身をひねって躱したが、ガーゴイルの爪が甲冑を掠めていった。
腰からブツッという音が聞こえたのは、その時だった。
「あ……」
俺の見つめる先で、溶岩流に向かって転げ落ちていくタバコ袋。
「しまっっっ――ッ!」
考えるよりも先に身体が動いた。
岩場から急いで駆け下りる。
「ああっ⁉ あっっぶなあああああい‼ そしてあっっつうううううい‼」
溶岩流の表面に近づいて腕を伸ばす。至近距離で赤い放射熱に炙られたショコラの切迫した悲鳴が火山に木霊した。
「――チッ……くっそ……」
半分溶岩に飲まれたタバコ袋を持ち上げたものの、時既に遅し。袋は無残に炎上していた。
「溶岩から離れてくださぁい! 早くぅぅぅ‼ ディーゼルさんの鎧って熱伝導率が凄くいいんですからッ‼ まるで鉄製のお鍋でジュッてされているようなものなんですからッ‼ 早く溶岩からはなれてくださあああああああああああい‼ 私、カリッと美味しそうに焼けちゃいまああああああああすッッッ‼」
悲鳴とは裏腹に、まだまだ余裕がありそうなショコラを無視して、焼ける袋の中から慌ててタバコを取り出す。
無事だったのは数本だけだった。
「――ぉぉぉおんんのれらああああああああ‼」
大切なタバコをやられた俺は、怒りに身を任せて岩場に跳び上がった。
「頭に来た! もう勘弁ならんっ‼ 全員まとめてかかってこい‼ 俺が何者か、そのつまらん岩の体躯に刻み込んでくれるわッ‼ 身の程を知れッ‼」
俺の挑発に煽られたのか、ガーゴイルが一斉に殺到してくる。
腰だめに大戦斧を構え、気合いを込めて水平に振り抜く――、
「ぬぉおおおおおおおおおお‼」
「きゃああああああああああ‼」
〈虚空切り〉――大戦斧の一閃が幅広な黒刃を広範囲の空間に描き出し、殺到してくる溶鉄ガーゴイルをまとめて撫で切りにした。
ガーゴイルどもの首が一斉に刎ね飛んだ。
運良く残った一匹も、足と翼をもがれて岩場の上でジタバタするばかり。行き場のない怒りを込めて脚甲で踏み抜き、その脳天を砕いて溶岩に沈めた。内部からは血液のかわりに溶岩が飛び散って俺の甲冑を赤々と汚した。
「ふうううううぅぅ……」
「――つ、つめたあああああああああい‼ ディーゼルさんッ! 鎧からすっごく冷たい空気が漏れてますよおぉぉぉ……あ、でもちょうど良いかも……」
俺の甲冑から漏れ出した瘴気に当てられて、至福の表情を浮かべたショコラ。
「――クソボケ石人形どもがッ‼ 上司の顔くらい覚えておけ‼ これだから最近の若い連中は……ッ‼」
憤りの文句を残し、ペースを上げて溶岩地帯を突破した。
ようやく山の逆側に出れば、気温は急激に下がり、高原とも言うべき爽快な気候に早変わりする。
これで三階層を一気にスキップできたことになる。
「――少し休憩だ。アンカーポイントはもうすぐそこだが、一服する」
ショコラを下ろし、倒木にどっかと腰掛けてタバコを兜に突っ込んだ。
鎧から漏れ出す瘴気が収まらない。いったん落ち着かなくては。
俺の瘴気は基本的に生物に対して猛毒だ。ショコラに吸わせ続けると、許容量を超えたあるとき突然、真なる死が訪れる。そしてそれは、同じパーティメンバーの俺にも、真なる死が訪れる可能性があるということだ。
これがあるのでショコラの隣にいる時は本気を出さないようにしている。力むと、どうしても鎧から瘴気が漏れてしまうからだ。
瘴気耐性の装備をつけさせたいんだが、あれ、まだ先なんだよな……。
パチンと指を鳴らしてタバコに火を着けると、ショコラも同じように俺の隣に腰をかけた。
形の良い口を、なにやら猫めいたωの形に歪めながら、にょほほ……と俺を見上げてくる。
「うふふふー……私も真似しちゃお~っと!」
そう言って彼女が懐から取り出したのは――タバコだ。
「お」
俺の興味深げな声に、「えへへ」と笑ってショコラがそれを口に突っ込んだ。
「なんだ、お前も吸うのか……火はあるのか? ほれ、口を出せ」
スモーカーはスモーカーに優しい。
俺が指を伸ばしてやると、ショコラは口に咥えていたタバコを器用にベロで巻き込んでパクリ。
モグモグ――。
「……人の趣味をとやかく言うつもりはないが、タバコはそのまま食べると凄く身体に悪いぞ。中毒で死ぬ恐れがある」
「――ぷっ……あっははははっ!」
堪えきれず、といった具合に吹き出したショコラ。
「ぶっぶー。これはタバコではありませ~ん!」
「――何?」
訝しげな俺の声に、ショコラが舌をべーっと突き出してみせる。
その綺麗なピンク色の上には、溶けかけたタバコの茶色がどろり。
「タバコ型のチョコでした~」
シュコーッと嘆息が漏れる。
「好物なんです。これならたくさん持ってますよ? ヤニ切れで禁断症状が出たら困りますし、ディーゼルさんにも分けてあげますね」
「……俺は幽鬼だ。固形物は食えん」
まぁまぁ面白かったからか、揶揄われても特に不快な感じにはならなかった。
「ははぁ~、そういう設定だったんですね? じゃあそのタバコが、ディーゼルさんが食事しない秘密ってことなんですか? どんな味するんですか? 煙でお腹いっぱいになるんですか? 仙人なんですか? 面白そう! 私にもください!」
「あ、おい――」
その目を猫さながらに丸く、好奇心に輝かせたショコラが、あっという間に俺の兜からタバコを抜き取った。
吸いかけのタバコを咥え、スーッと胸を膨らませる。
「んきゅぅぅ」
ショコラは目を回して倒れた。
そっと首の脈をみる。
死んでいる。
「お前は……なんでそうやって……」
呆れ果てた俺の呻き声。
俺のタバコは特別製だ。幽鬼にも効く、超キツいやつ。
一般的に言うと、強毒だ。ショコラがつけている〈対毒の指環+〉を貫通するほどの。直接、しかも肺一杯に吸ったら当然こうなる。
ちなみに俺が吐き出す副流煙は、なんと無毒。
俺が成分を全部吸収してしまうからだ。
前からずっとそう言ってるのに……分煙などと……ダンマスめ……。
「……まぁ、今回は死体があるからいいか」
白目を剥いたショコラの瞼をそっと閉じてやり、彼女の口からタバコを取り返した。
溶岩で熱せられた甲冑に冷たい高原の風がぶつかり、結露して小さな水玉を作っていく。
高原で吸うタバコは、ひと味違う。湧き水で入れたコーヒーが美味しいという説と似ている。俺はコーヒーは飲めないが、シャレオツなクラリスがそう言っていた。
ここは正規の攻略ルートではない。
だからダンジョン側の妨害にも一切の容赦がない。本気で殺しに来る。
俺も本気だ。急いでいる。
「ひええええええええええええええ」
顔面蒼白のショコラを脇に抱え、真っ赤に輝く〈溶鉄ガーゴイル〉を十匹以上同時に相手取る。
「落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん――」
すごく落とさないで欲しがるショコラ。
何故ならここは絶賛噴火中の火山。ぐつぐつと沸き立つ溶岩流の真上だからだ。
ぴょんぴょんと小さな岩場を渡り、立ち上る陽炎の向こうから飛び掛かってくる真っ赤なガーゴイルを大戦斧で打ち落として、また跳ぶ。その繰り返し。
着地と同時に〈闇黒に絶る大瀑布〉を片手で振り抜く。空間に滑らかな黒刃の円弧が描き出されると同時に、ガコォ……という硬い手応えがあった。
残り十二匹。
多いな……。
こんなに執拗にガーゴイルを置かなくても、そもそも、ここは溶岩地帯だから冒険者は通らない。通ろうという発想にすら至らないはず。
それでも念には念を入れる、ダンマスの偏執的な一面だ。
溶岩流程度の地形トラップだけであれば、ショコラの身軽さならば突破できたかも知れないが、このガーゴイルどものせいで無理だ。
奴らに捕まると、高く持ち上げられて、地上で潰れたスイカにされるか、あるいは溶岩でジュッ……される恐れがある。
「落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん落とさないでディーゼルさん――」
「少し黙ってろ。舌を噛むぞ」
死体がないと、全滅していなかったとしても、復活の際に装備品を供物として要求される。しかも、先のアンカーポイントで復活させた場合、装備を取りに“戻る”という無駄な手間まで発生してしまう。
ショコラの装備は既にズボンと靴、下着、髪飾りと指環だけだ。これ以上装備を落とさせたくはない。彼女の装備を補給している暇が惜しい。
だからこうして、彼女を小脇に抱え、ガーゴイルの魔の手から守りつつ強引に突破中なのだった。面倒くさいったらありゃしない。
「――ひぎッ! あっっつーーーーーーい‼」
見れば、彼女の尻尾の先がジュッ……となって煙を上げていた。
「――ふんッ!」
無視して大戦斧を振り抜き、飛びかかってきたガーゴイルの頭部を砕いた。
「よし、道が開けた。一気に駆け抜けるぞ――ッ⁉」
突如として視界の端から急降下してくる影があった。
岩の影からガーゴイルの体当たり気味の急襲だ。
その程度では俺の甲冑〈枯朽する曙光〉には傷ひとつ付かないが、バランスを崩して溶岩に落とされる危険がある。
慌てて身をひねって躱したが、ガーゴイルの爪が甲冑を掠めていった。
腰からブツッという音が聞こえたのは、その時だった。
「あ……」
俺の見つめる先で、溶岩流に向かって転げ落ちていくタバコ袋。
「しまっっっ――ッ!」
考えるよりも先に身体が動いた。
岩場から急いで駆け下りる。
「ああっ⁉ あっっぶなあああああい‼ そしてあっっつうううううい‼」
溶岩流の表面に近づいて腕を伸ばす。至近距離で赤い放射熱に炙られたショコラの切迫した悲鳴が火山に木霊した。
「――チッ……くっそ……」
半分溶岩に飲まれたタバコ袋を持ち上げたものの、時既に遅し。袋は無残に炎上していた。
「溶岩から離れてくださぁい! 早くぅぅぅ‼ ディーゼルさんの鎧って熱伝導率が凄くいいんですからッ‼ まるで鉄製のお鍋でジュッてされているようなものなんですからッ‼ 早く溶岩からはなれてくださあああああああああああい‼ 私、カリッと美味しそうに焼けちゃいまああああああああすッッッ‼」
悲鳴とは裏腹に、まだまだ余裕がありそうなショコラを無視して、焼ける袋の中から慌ててタバコを取り出す。
無事だったのは数本だけだった。
「――ぉぉぉおんんのれらああああああああ‼」
大切なタバコをやられた俺は、怒りに身を任せて岩場に跳び上がった。
「頭に来た! もう勘弁ならんっ‼ 全員まとめてかかってこい‼ 俺が何者か、そのつまらん岩の体躯に刻み込んでくれるわッ‼ 身の程を知れッ‼」
俺の挑発に煽られたのか、ガーゴイルが一斉に殺到してくる。
腰だめに大戦斧を構え、気合いを込めて水平に振り抜く――、
「ぬぉおおおおおおおおおお‼」
「きゃああああああああああ‼」
〈虚空切り〉――大戦斧の一閃が幅広な黒刃を広範囲の空間に描き出し、殺到してくる溶鉄ガーゴイルをまとめて撫で切りにした。
ガーゴイルどもの首が一斉に刎ね飛んだ。
運良く残った一匹も、足と翼をもがれて岩場の上でジタバタするばかり。行き場のない怒りを込めて脚甲で踏み抜き、その脳天を砕いて溶岩に沈めた。内部からは血液のかわりに溶岩が飛び散って俺の甲冑を赤々と汚した。
「ふうううううぅぅ……」
「――つ、つめたあああああああああい‼ ディーゼルさんッ! 鎧からすっごく冷たい空気が漏れてますよおぉぉぉ……あ、でもちょうど良いかも……」
俺の甲冑から漏れ出した瘴気に当てられて、至福の表情を浮かべたショコラ。
「――クソボケ石人形どもがッ‼ 上司の顔くらい覚えておけ‼ これだから最近の若い連中は……ッ‼」
憤りの文句を残し、ペースを上げて溶岩地帯を突破した。
ようやく山の逆側に出れば、気温は急激に下がり、高原とも言うべき爽快な気候に早変わりする。
これで三階層を一気にスキップできたことになる。
「――少し休憩だ。アンカーポイントはもうすぐそこだが、一服する」
ショコラを下ろし、倒木にどっかと腰掛けてタバコを兜に突っ込んだ。
鎧から漏れ出す瘴気が収まらない。いったん落ち着かなくては。
俺の瘴気は基本的に生物に対して猛毒だ。ショコラに吸わせ続けると、許容量を超えたあるとき突然、真なる死が訪れる。そしてそれは、同じパーティメンバーの俺にも、真なる死が訪れる可能性があるということだ。
これがあるのでショコラの隣にいる時は本気を出さないようにしている。力むと、どうしても鎧から瘴気が漏れてしまうからだ。
瘴気耐性の装備をつけさせたいんだが、あれ、まだ先なんだよな……。
パチンと指を鳴らしてタバコに火を着けると、ショコラも同じように俺の隣に腰をかけた。
形の良い口を、なにやら猫めいたωの形に歪めながら、にょほほ……と俺を見上げてくる。
「うふふふー……私も真似しちゃお~っと!」
そう言って彼女が懐から取り出したのは――タバコだ。
「お」
俺の興味深げな声に、「えへへ」と笑ってショコラがそれを口に突っ込んだ。
「なんだ、お前も吸うのか……火はあるのか? ほれ、口を出せ」
スモーカーはスモーカーに優しい。
俺が指を伸ばしてやると、ショコラは口に咥えていたタバコを器用にベロで巻き込んでパクリ。
モグモグ――。
「……人の趣味をとやかく言うつもりはないが、タバコはそのまま食べると凄く身体に悪いぞ。中毒で死ぬ恐れがある」
「――ぷっ……あっははははっ!」
堪えきれず、といった具合に吹き出したショコラ。
「ぶっぶー。これはタバコではありませ~ん!」
「――何?」
訝しげな俺の声に、ショコラが舌をべーっと突き出してみせる。
その綺麗なピンク色の上には、溶けかけたタバコの茶色がどろり。
「タバコ型のチョコでした~」
シュコーッと嘆息が漏れる。
「好物なんです。これならたくさん持ってますよ? ヤニ切れで禁断症状が出たら困りますし、ディーゼルさんにも分けてあげますね」
「……俺は幽鬼だ。固形物は食えん」
まぁまぁ面白かったからか、揶揄われても特に不快な感じにはならなかった。
「ははぁ~、そういう設定だったんですね? じゃあそのタバコが、ディーゼルさんが食事しない秘密ってことなんですか? どんな味するんですか? 煙でお腹いっぱいになるんですか? 仙人なんですか? 面白そう! 私にもください!」
「あ、おい――」
その目を猫さながらに丸く、好奇心に輝かせたショコラが、あっという間に俺の兜からタバコを抜き取った。
吸いかけのタバコを咥え、スーッと胸を膨らませる。
「んきゅぅぅ」
ショコラは目を回して倒れた。
そっと首の脈をみる。
死んでいる。
「お前は……なんでそうやって……」
呆れ果てた俺の呻き声。
俺のタバコは特別製だ。幽鬼にも効く、超キツいやつ。
一般的に言うと、強毒だ。ショコラがつけている〈対毒の指環+〉を貫通するほどの。直接、しかも肺一杯に吸ったら当然こうなる。
ちなみに俺が吐き出す副流煙は、なんと無毒。
俺が成分を全部吸収してしまうからだ。
前からずっとそう言ってるのに……分煙などと……ダンマスめ……。
「……まぁ、今回は死体があるからいいか」
白目を剥いたショコラの瞼をそっと閉じてやり、彼女の口からタバコを取り返した。
溶岩で熱せられた甲冑に冷たい高原の風がぶつかり、結露して小さな水玉を作っていく。
高原で吸うタバコは、ひと味違う。湧き水で入れたコーヒーが美味しいという説と似ている。俺はコーヒーは飲めないが、シャレオツなクラリスがそう言っていた。
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