幽鬼のホームカミング! 〜ダンジョンを追い出された最強のラスボスとEランク冒険者が契って挑む悪夢の迷宮黙示録〜

赤だしお味噌

文字の大きさ
19 / 34
ダンジョンの入り口から帰宅する幽鬼

立ち上がる幽鬼

しおりを挟む
「へぇー、へぇー、へぇー。そうやって、ディーゼルさんでも凡ミスすることがあるんですねぇー。笑い。笑い」

 ショコラがそう言ってニマニマと俺の周りをぐるぐる回っていた。

「どんな気分? 今どんな気分なんですか?」

「……」

 その後、アンカーポイントからやり直した俺たちは、湖沼ゾーンを越え、今は三四階層のアンカーポイントにいる。これで再々序盤は越したことになる。

 シュコーっと嘆息をつく俺に、すっと、片手を差し出してくるショコラ。

「――帽子と上着、返してください」

「……」

 彼女のテンガロンハットは、俺の沈降に巻き込まれて沼に食われた。

 彼女の上着は、死に戻りの代償としてその場に残されていたのだが、戻ってみると例のワニも生き返っており、そいつを始末する勢いに巻き込まれて吹っ飛んで、やっぱり沼に食われた。

 おかげでショコラはズボン一丁で、上半身は肌着だけとなっている。涼しげな雰囲気になった。

「ないならぁ、新しい上着くださいよぉ。ぜひ可愛い服でお願いします!」

 答える代わりにシュコーッと瘴気を漏らし、ともしびの前にどっかと腰を下ろした。

 近くに転がっていた髑髏どくろを拾い上げ、手甲の中でもてあそぶ。

 万謝の燭がまき散らす光が眩しい。

 ――それにしても、だ。

 俺がダンジョンを出て一六日目。さすがに誰か迎えに来てくれてもいいのではないだろうか? これがこのダンジョン最大の功労者に対する仕打ちか?

 デンハムはどうした? 親友だと思っていたのに……。

 エドウィンは……だめだ、あいつは動けない。

 リーバイスは? 無理だ。興味なさそう。

 マグノリア……クラリスと一緒になってダンマスを甘やかしてそうだ。

 駄目だ。やっぱり自力で一〇〇階層まで潜らなくては……。

 ここから、さらに難しくなるんだよな……。

 再びシュコーーーーーッという嘆息が、長く長く兜から漏れた。

「もしもーし? ディーゼルさーん、私、風邪引きそうです。早く新しい上着探しに行きませんかー?」

 無言でショコラの顔を見上げ、しばし見つめ合い、また顔を万謝の燭に向けた。

 ――やっぱり、変だ。

 いくらダンマスの我がままとは言え、デンハムがそれに付き合って俺を迎えに来ない理由がない。あいつは真面目だから、適当にダンマスの癇癪かんしゃくに付き合ってから、こっそり俺を回収しに来るはずだ。

 他の階層の連中だって、俺とは仲が良い。自分で言うのもなんだが、上司として信頼されている自負がある。

 それぞれ自分の持ち場があるが、さすがに十日以上も俺が席を空ければ、誰かが心配をして俺を探しに来てもいいんじゃないか?

 ここに一番近いのは、ターチか……。

 ――自分の持ち場を、動けない理由がある?

 それは何故かと頭を巡らせた時、ふと、俺の眼前に顔を寄せて頬を膨らましているショコラが目に入った。

「ねぇねぇ、ディーゼルさーん。揶揄からかったのは謝りますからぁ、私の装備を探すの手伝ってくださいよぉ~。この格好だと乙女の沽券こけんに関わります。もうちょっと可愛いのか、セクシーな奴を――」

「ショコラ」

 俺の呼びかけに、彼女は「はい?」と首をかしげた。

「お前の追っている……イルバーンだったか? 何級冒険者だ?」

「えっとぉ……たしか、去年辺りにS級に上がったはずですけど、それがどうかしましたか?」

 何かが、カチリとはまり込んだ気がした。

 うつむいた兜から、エコーがかった低いうなり声が漏れる。

 分隊構成には、得られる報酬が少なくなるという決定的な問題がある。それゆえに廃れた攻略形態だ。

 だがしかし、今でも時折、そんな分隊を持ち出してくるケースがある。

 ダンジョンの完全攻略そのものを、目的としている場合だ。

 ダンジョンの完全攻略――すなわち、ダンジョンマスターの殺害。

 ……危険な侵入者を察知して、ダンジョン全体で防衛体勢レベルを上げた。

 すなわち今、絆の深淵は厳戒態勢をとっている。

 最奥から各階層に行き来する直通路がある。それは〈バイパスゲート〉と呼ばれる。

 バイパスゲートはマスタールームから接続できるのだが、当然、厳戒態勢の時は使わない。看破かんぱされると、一気に最奥までの侵入経路が出来上がる危険な行為だからだ。

 聞けば、イルバーンはショコラの姉を手玉にとって使い捨てる悪漢。そんなS級なりたてのイキリ小僧が、自分の名を上げるために、この悪名高い絆の深淵に目を付けた――。

 ……。

 クズが、ダンマスがぐうたらしている最奥に押し入るだと……?

 笑わせるなよ。

「ディーゼルさん……? なんか、急に寒くなりません?」

 ショコラが鳥肌の立った腕を抱えた。

「――喜べ、ショコラ。お前と俺の目的がピタリと合致がっちしたぞ」

「え? どういう意味ですか?」

 手に持っていた髑髏をパキパキと握りつぶし、立ち上がる。

「スターチェイサーを後ろから狩る――鏖殺みなごろしだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...