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壱 腐敗
(01) 縁 -エニシ-
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―――……。
ベシンと、音が響いている。辺りは暗くてよく見えないが、誰かが道具で殴られているのだ。それだけはわかる。
殴るなら自分を殴ればいい。
そうすれば……。
「カツミ様は起きてますか?」
声がする。
「いえ、まだですよ」
女の声と、男の声。まだ聞き慣れたというほどではないが、それでもカツミの真っ白な記憶の中に焼き付いた、つい最近覚えたばかりの声が鼓膜を震えさせている。
「起きたと思ったのですが……」
不意に、誰かが顔をのぞき込むような気配がした。ガタガタと体中に振動が伝わり、頬が痺れている。何かの上に寝かされているらしく、毛羽だった感触は心地よいが、振動をかき消すほどではない。むしろ擦れて痛い気もする。
「カツミ様?」
肩に手が触れる感触と、振動とはまた違った、揺り動かされる感覚に意識が浮上する。せっかく心地よいまどろみの中にいたというのに、そのまどろみの淵から引き上げられている。
「きゃっ」
ゆらりと手を伸ばしたところ、細い何かに触れ、掴んだそれを引いてそのまま組み敷く。それから首に手をかけて……そこで一気に意識が覚醒した。
「……その、この場でお戯れは……」
高い位置で纏められた赤い髪が、毛羽だった絨毯に散らばっている。昨日は低い位置でまとめていた団子が解かれ、ただ一つに結わっているだけなのだが、昨日よりも少し大人っぽくて可愛らしい。子猫のように丸い目は伏せられ、頬を染めて視線を逸らしている。
「うわぁっ……たっ」
思わず飛びのき背中をぶつけた。振り向くと、木箱が置かれており、どうやらこれに背中をぶつけたらしい。見回すと、隅に木箱や樽、毛布などが置かれていた。カツミは絨毯が敷き詰められた、このあまり広くない空間に寝かされていたらしい。
「カツミ殿、人の趣味趣向に口出しするつもりはありませんが……」
「違います、ヒイズ先生!」
そばに座っていたヒイズの言葉に思わず言い返したが、彼は愉快げに笑みを浮かべるばかりである。からかわれているのだろうが、いかんせん、彼には逆らいにくい。
「ココノも……っ」
―――すまない。と言うつもりだったのだが、そこで咳込んでしまった。喉がからからに渇いている。そういえば、昨晩から飲み物を欲していたのだ。
ちなみに彼女は名を呼ばれた瞬間に、大げさなほどに肩をはねさせていた。かわいそうに。
「カツミ殿、これをゆっくり飲みなさい。喉が渇いているのでしょう」
ヒイズから差し出された筒状の容器。栓のされたその中に、水が入っているということに察しがつき、思わず奪うように手に取り、慌てて栓を外した。ゆっくりと言われたことも忘れ、慌てて喉に流すとじんわりとしみて痛い。
「っ」
「ゆっくりと言ったでしょう? 慌てずとも、水は逃げません」
ヒイズの、まるで保護者のような物言いに、すこし照れくさい気持ちになり、落ち着いてゆっくり水を飲んだ。喉に浸透させるように、一度口に含んで、ゆっくり、少量ずつ流し込み、それから、筒に口をつけて直接飲む。
「落ち着きましたか?」
「……ハイ」
少しバツの悪い思いで返事をすると、ヒイズは笑みを浮かべた。人の良さそうな顔だが、笑われた身としては微妙である。
「ヒイズ先生、ここは……?」
「馬車の中ですよ」
ヒイズはあぐらをかいて座り、カツミにも座るように促した。ココノも姿勢を正し、そばに座っている。
馬車の中。どうりでガタガタと振動が伝わるわけである。少々顔がはれぼったいのは、うつぶせに寝ていたので、むくんでいるのだろう。
「ん……?」
カツミは己の記憶をたどった。アガタと手合わせをして、そのあとの記憶がないということは眠ってしまったのだろう。狭い空間で、窓もないので、時間がわからない。
「アガタ殿と手合わせをして眠ってしまわれたのですよ。アガタ殿の提案でそのまま馬車にお連れしました」
「アガタの……」
やはり間違いはなかったようだが、少し苛立った。既に一人で出て行く気は失せていたのだが、それほど信用がなかったらしい。
「せっかくなので、水晃にお連れしようと考えたのですよ」
「水晃……」
カツミは昨日見た地図を思い出す。いくつか国名が記されており、ヒイズはその地図に書き込みながら、教えてくれた。
「いきなり敵の本拠地に乗り込むんですか?」
まだ真新しい記憶だが、水晃は首都・陽妻の東にある港町で、敵の本拠地のすぐ近くだったはずだ。そちらに向かっているということは、船を出すのだろう。そう当りをつけて尋ねてみる。しかし予想に反して、ヒイズは首を横に振った。
「いえ。アガタ殿と話し合った結果、一度、この国の生命線である藏閒と水晃を見ていただこうということになったのです」
アガタ、と聞いて、思わず眉を寄せる。手合わせも結局敗北に終わったものだから、悔しい念が強く、今この場にいないので勝ち逃げをされている気分だ。
「そのアガタは?」
「アガタさんはお外で、御者を勤めてくださってますよ」
これにはココノが答えた。たしかに、冷静に考えれば、馬車なのだから馬を扱う人間がいなければならないだろう。
「カツミ様?」
カツミは無言で立ち上がり、ガタガタと揺れる車内を歩いた。振動で足元がおぼつかない気もするが、歩けないほどではない。
「……」
ザッと音を当て、馬車の帷を開いた。すると冷たい外気が顔に掛かり、背筋がゾワリと震える。これほど寒いというのに、冷気はまるで中に入ってこない。それが不思議で、帷をまじまじと見つめると、なにやら不思議な模様が、柱に刻まれていた。
もしかしたら……。
「術が不思議か?」
「……べつに」
すぐそばの御者台に腰掛けたアガタの言葉に、カツミはぶっきらぼうに返事した。するとアガタは愉快気にクツクツと笑みを漏らす。やはり術だったらしいのだが、どうも素直に認めるのは癪だ。
「外は寒かろう。特に用がないのなら、中に入っていろ。もうそろそろ藏閒につくから、さすれば声をかけてやる」
その言葉を受けたカツミは、御者台のアガタの隣にドカリと音を立てて、腰掛けた。
―――ブルル!
「っ」
「バカ! 馬を驚かすな!」
カツミが腰をかけた瞬間に、馬車を引いている馬のうちの一頭が頭を強く振って立ち止まり、ほかの馬も歩みをやめた。
「わ、悪い……。四頭もいるのか?」
カツミはさすがに悪いと思って素直に謝ったが、少々居心地悪く感じたので、すぐに別のことを話題にした。思いがけず口にしてから、改めて馬を見ると、馬車を引く馬が四頭もいる。
「ああ。荷物が多いし、馬車自体も大きい物だからな。それに、いざという時に人数分の馬を用意すれば、馬車を捨てることも可能だ」
言われてみれば確かにそうである。しかしココノのような 体の小さい少女は馬を扱えるのだろうか。
「ハッ! 一応軍馬として訓練した馬だから音にも武器にも血にも強いが、賢い生き物だ。荷を運んでいる自覚があるから、足並みが揃わないとすぐに停止する」
アガタが手綱を引いて音を立てると四頭は一斉に歩き出す。どう調教したのかは疑問だが、賢い生き物というのも間違いではないらしい。
「寒くはないか?」
「べつに……クシッ」
寒くはないかと言われ、思わずそう答えたが、くしゃみが出てしまう。まったくもって格好がつかない。
「ふっ。随分と寒さに弱いのだな」
アガタは自分の膝にかけていた毛布をカツミに押し付けて、前を見る。特に話題があるわけでもないので、無言で馬を眺めた。見分けがつくようにという配慮なのか、馬の毛色は四頭とも違う色だ。
馬は四頭が二列に並んでおり、先行する左側には、鬣や尾が黒に近い色で、茶に近い体毛を持つ鹿毛の馬が歩いている。その右には全身が真っ黒の青毛の馬。
その二頭の後ろ、御者台のそばには、やや白に近い黄白色の体毛を持つ月毛の馬が左を、鹿毛よりも薄い色の体毛にさらに色素の薄い鬣や尾を持つ、尾花栗毛の馬が右を歩いている。
この四頭が馬車を引いているのである。
「馬が珍しいか……と、記憶がないのだったな。かわいいだろう」
少々獣特有の匂いがするが、悪臭というほどではない。可愛いかどうかはよくわからないのだが、ひとまず人の敵ではないという意味ならば可愛いのかもしれない。
「可愛いかは知らんが、すごい力だ」
「そういう生き物なのだ。ちなみに、この馬は私の馬だからな、やらんぞ」
アガタは顎をしゃくり、すぐそばの尾花栗毛の馬を示した。武人というだけのことがあるのか、馬にもこだわりがあるらしい。
「……あれがそうか?」
ふいに、遠くに建物が見えてきたので、話題を変える。自分で馬の話題をした手前、すぐに別の話題を出すことが気になったが、アガタは気にしていないようだ。
「ああ。あれが藏閒だ」
まだ時間はかかるのだろうが、小さな建物がこじんまりと集まっている。集落ということからかなり小規模なものを想像していたのだが、それに違いはないらしい。
不意に、カツミは空を見上げた。
広い。壁に囲まれず、窓から見た小さなものでもなく、今確かに、彼はこの広い空の下にいる。宮を出たのだと、今更のように実感する。
頬にぶつかる冷たい空気に、吐く息は白い色をもつが、それでも、胸いっぱいにその空気を吸い込み……そして。
切ない思いに駆られた。
空を見上げ、野を見渡し、その広さに言いようのない不安を覚える。
「どうした?」
「なんでもない」
尋ねられると、そう返す他なかった。自分でも分からぬ不安を、人に打ち明けるつもりにはなれない。ただ、その胸を締め付ける、あるいは胸の内に渦巻く何かを忘れまいと思った。
きっと、自分の中の、真っ白に染め上げられた記憶に関係しているのだと、そう考えて……。
「気をつけて降りるのだぞ」
アガタはそう言って、ココノに手を貸した。
“藏閒”という地図に乗らない集落にたどり着いた一行は、建物の裏手で馬車を停めた。芝生の草は短く刈り取られ、広い一帯には多くの馬車が停車されている。おそらく馬車を停めるために作られた場所なのだろうが、脇の方に水場があるので、人や馬が休憩する場所でもあるらしい。実際に何人かの御者が、馬に水を飲ませている。
「馬車が多いのですね……」
馬車から降りたココノが、キョロキョロと辺りを見回している。記憶のないカツミにとっても、宮以外の景色というのは見たことない物なので興味津々なのだが、このように、好奇心旺盛さを前面に出している、子猫のような姿を目にすると、自分は自重しなくてはと、妙に緊張してしまう。
「虹澑國の食品庫ですからね。商売人が集えば自然と人も集まるものです。遠方から来た者は皆このあたりに、馬車を停車しているのです」
ヒイズの説明に感心したカツミは、建物の裏手に停められている、他の馬車に目を向けた。停められている馬車には、紋章が描かれている物もあり、身分の高い家の者も、ここを訪れているのであろうことが伺えた。商売人が集まるというからには、珍しい物もたくさんあるのだろう。
「気をつけてな」
ココノが無事に馬車を降りると、アガタは再び御者台に座った。てっきり全員で藏閒を見るものだと思ったのだが……。
「アガタは行かないのか?」
「ああ。馬車も馬も放置するわけにはいかんだろう?」
言われてみれば、確かに、他人の馬車など気にかける者などいない。馬や積荷を盗まれれば厄介だし、場合によっては馬車ごと奪われてしまうかもしれない。そんな事態は御免なので、一人残る必要があるのだろう。
「それならば、ココノが残りますよ? 見張りなど、ココノの役目ではないでしょうか?」
たしかココノは、世話役として付いてきたのではなかっただろうか。停車場は御者以外ほとんど人がいないので静かなものだが、それでも往来の賑わいは、ぼんやりと伝わって来る。賑わいや店を楽しむことを前提とするならば、奴隷であるココノ自身が残るべきと考えての発言だろう。
「いや、今後旅をするならば市井を覚えることも必要だろう。私は買い物などより馬の方が好きなので、ココノ殿はヒイズ殿の手伝いをしてくれ」
「はい。かしこまりました」
ココノは丁寧に頭を下げ、それから嬉しそうに顔を上げた。彼女のか弱い印象から、子猫のようだと思ったのだが、市を楽しみにしている姿が、じゃれつく子犬のようでもある。小動物的で素直な人間性なのだろう。
「市井に覚えるようなことがあるのか?」
不意にアガタの発言が気になったので、尋ねてみる。記憶はないが集落がどのような場所なのか、知識くらいならある。その上で考えると、集落を市井と言っていいのかも疑問である。しかし賑やかな気配が伝わって来る事を考えれば、確かに何かしらあるのかもしれない。
「藏閒は外部の者も多く訪れていて、集落とは言うが非常に活気があるからな。ココノ殿は宮の外に出たことは少ない。迷子にならぬように楽しんでくるといい」
「なるほどな」
どうり楽しそうにしていると思ったら、そういう事情だったらしい。しかし世話役として旅に出るというのに、世慣れていないココノを遣わされたということが気になる。
水晃に行くとしても、旅をするならば、もう一度陽妻に戻る必要があるだろう。陽妻の城壁は国の東側を囲むようにして作られているので、陸路ならば陽妻を避けることはできない。せっかく賑やかな地にたどり着いたというのに、すっかり気分が沈んでしまう。
「さて、それではカツミ殿、参りましょうか。アガタ殿、頼みました」
「ああ」
ヒイズに促され、三人で歩き出す。控えめに歩くココノだが、ときおりそわそわと肩が揺れている様子が少々おかしい。そんなに楽しみになる物ならば、自分も少しは興味を持っていいのかもしれない。
「……すごい人だな」
建物の間の細い通路を抜け、カツミが最初に漏らした言葉だった。行商の天幕が張られているので、気付かなかったのだが予想以上の人ごみである。人を呼ぶような声も聞こえるが、この人ごみにはぐれてしまったのかもしれない。行商人が客を呼び込む声が飛び交い、木箱には新鮮な果物や穀物が積まれ、加工品も扱っているようである。
流石に行商人が集まるだけあって、国の食品庫とは言っても、食品以外を取り扱う者もいるらしく、時折光り物が視界に映る。
「ここへ来ればそれなりの物は手に入りますからね。凝った物はやはり名産地へ足を運ぶ必要がありますが……」
硬い土を踏みしめ、辺りを見回しながらヒイズの説明に耳を傾ける。彼は藏閒と水晃を見せたいと言っていた。おそらく水晃に行くまでに、馬を休ませる必要があるのだろうが、その間に物見遊山で藏閒を見るというのも悪くない話だ。
「あれはなんでございますか? 不思議な香りがします」
不意に、清涼感のある香りが鼻を掠め、ココノの指差す方へと振り向いた。彼女が指し示した場所にはやはり天幕があり、がたいのいい男が、楕円の出来損ないのような形の、黄色い果実を輪切りにしているところだった。ナイフが果実を切り裂くたびに果汁が漏れて、台を濡らしている。
「あれは檸檬ですね。大変酸味が強いのですが、糖蜜などに漬け込むととても美味なのですよ。武士団の方が好んで食べているようです」
ココノと同様に、カツミも興味が惹かれたので思わず凝視する。すると視線に気がついたのか、果実を刻んでいた男から声がかかった。
「なんだい、兄ちゃん達。入り用かい?」
機嫌良さげなその声に、嫌味がかった口調も圧力めいた部分もなく、買うことを望んでいるというよりも、本当にただ質問をしているだけのように思われた。果物売りの男は、荷運びでもしていたのか、うっすらと汗をかき、襯衣の袖をまくっていた。
流石にここまで凝視しておきながら断っていいのだろうか。そもそも市というからには代金が必要なはずだ。カツミは金銭を持っていないし、奴隷であるココノも同様だろう。どうしたものかわからず、ヒイズに視線を向けると、彼は穏やかに微笑んだ。
「そうですね。できれば日持ちする加工品が欲しいのですが、蜂蜜漬けや、乾物の類を頂きたいですね。ああ、漬物もよいでしょう」
「乾物かい? それならもうちょっと奥だ。うちのカミさんが店番してる天幕なら、この木簡を持ってきゃちったぁ負けてやれる。果物の加工品ばっかだが、まぁ、いいだろう?」
「これはご親切に。それではそちらにいきましょう」
木簡を受け取るヒイズが丁寧に頭を下げるので、ココノもそれに習い深々と頭を下げ、カツミも会釈した。木簡は少し古いが、屋号のような記号の焼印が押されている。
三人は、果物売りの男に言われたとおり、集落の奥へ向かおうと振り向く。
「ああ、待ってくんな」
しかし、呼び止められたので、もう一度天幕の方へと振り返った。すると男はなにやら瓶を取り出し、蓋を開けた。
「これは俺の軽食で、カミさんが漬けた檸檬の蜂蜜漬けだ。身なりのしっかりした兄ちゃんにこんだけ丁寧にされちゃあな、こっちもこのまま行かせるわけにゃ行かねぇ。ひと切れずつ持ってきな」
「本当に親切ですね。それではお言葉に甘えさせていただきましょう」
ヒイズは瓶から輪切りにされた檸檬をひと切れ取り出し、それを口に運んだ。ココノもカツミも瓶に手を伸ばし、輪切りにされた檸檬をつまむ。先ほど男がナイフを入れていた物に比べ、少し色が濃くなっているが、しっかり漬かった証拠だろう。
三人はもう一度頭を下げ、それから人ごみの中ではぐれないように気を配りながら進んだ。
「ん。んまいな……」
檸檬を口に運んだカツミはそう漏らした。檸檬をかじった状態で口をほぼ動かさずに発した言葉だったが、短い言葉の意味は通じたらしく、ヒイズは口元を緩め、ココノもつまんだままの檸檬を見つめている。
「蜂蜜……甘い物……はむ……ん! ん~……!」
なにやらブツブツつぶやきながら、恐る恐るとそれを口に運び、そして口に入れたココノは何とも言えない音を発した。両手で口元を覆い、丸い目をさらに丸めて輝かせ、何度も頷いて頬を染めている。どうやらよほど気に入ったらしい。
「ココノはこんなに美味しい物を食べたのは初めてです! 甘い物とはこれほど美味しいのですね!」
しばらく咀嚼して、じっくりと味わう彼女だったが、その甘酸っぱい味を堪能し尽くしたと言わんばかりに、満足げに飲み込むと、興奮した様子で言葉を紡ぐ。確かにうまい物だが、それほどの物だろうかと、カツミは首をかしげた。
「たしかに、口にする機会はなかなかありませんね。旅の間、堪能するとよいでしょう」
「ココノのような者が食べても良いのですか? こんなに美味しい物をまた食べてしまって、罰が当たったりしませんでしょうか? もし食べれるのでしたら、ココノは幸せ者でございます!」
微笑むヒイズと、頬を染めて嬉しそうに困った顔を浮かべるココノの様子に、カツミはなんだか無性に癒されてしまった。空を見上げた時の、言いようのない不安が拭われていくのを感じる。世話役としてココノを選んだことだけは、ヤカタに感謝してもいいかも知れない。カツミはまるで何かをごまかすように、口の中の檸檬を飲み込んだ。
「大げさだな……」
「そうでもないですよ。本来甘味の類はとても高価な物です。蜂蜜漬けも例外ではないのですが……このように気軽に振舞うということは、もしかしたら、蜜教がいるのかもしれないですね」
「ミツオシエ……?」
「ええ。蜜蜂の巣を教えてくれる鳥です。人や熊に巣の在処を教えて、巣を壊してもらい、食べ残しの蜜や蜜蝋を餌にしているそうですよ」
そんな鳥がいるのかと驚き、それから鳥が人を誘導するさまを思い浮かべてみるが、いまいちピンと来ない。しかしおこぼれを期待する様を想像すると、まるで愛玩動物のようにも思え、どこかいじらしい。
「食べ残しが出るとは限らないでしょう」
「蜜教の分を残しておかないと、今度は猛獣のいる場所に案内されるそうです」
訂正。ほかの生き物に巣を破壊させて甘い汁を吸う姑息な生き物である。
「随分と頭が良いのですね……」
「鳥とは頭がいい者も多いのですよ。それに小さな鳥であれば生き残る知恵が必要ということなのでしょう」
弱肉強食の世界ということらしい。自然界は甘くない。それは小さな虫に至るまで言えることであり、そして今、世界中で“未蕾”という獣が暴れて、人という弱者を脅かしているらしい。
「兄さん魚はいらないかい?」
「山から汲んできたうまい水があるよ!」
「野菜ならうちが一番だ! どうだい?」
人々を呼び止めんとする商人の声は活き活きとしており、それはこの集落に活気を与えているようだった。そんな声に人々は惹かれ、対話して、笑いが生まれている。
これほどに平和な光景だというのに、召喚された。先ほど拭いさった不安が再び足元を蝕む。なぜ、己がここにいるのか。旅に出ることを強いられているのか。この光景に答えなど見つけることは出来なかった。
「あの店でしょうか」
「ん? ……っ」
思考に耽っていたところでヒイズの声が聞こえ、顔を上げる。すると人にぶつかってしまった。人ごみの中俯いて歩くのは、危険だろうと考えて前を見る。
ヒイズが指さす先には木簡と同じ記号の記された布が下げられている。おそらくその店で間違いないだろう。しかし夫婦で売ってる物が違うということもだが、離れた場所で店を出しているのはなぜだろうか。
「ごめんください」
「はい、いらっしゃい! ……旦那の紹介かい?」
恰幅がいいというほどではないのだが、ふくよかな女性が一人立っていた。ニコリと笑みを浮かべた気立ての良さそうな女性は、ヒイズが手に持つ木簡を見つめ、果物屋の主人と会ったことに気がついたらしい。
しかし、一瞬眉を寄せたことが気になった。
「ええ。これを渡すよう言われました」
―――ジャラ。
そこでヒイズが木簡を差し出した瞬間に、その音で合点がいく。彼の付けている枷が気になったのだろう。常識的に考えて、枷をつけている人間になど関わりたくはないはずだ。しかし果物売りの男は“身なりのいい”と言っていた。それゆえ口出ししないのかもしれない。
「ああ、ありがとうございますね。何が欲しいんだい?」
特に変わったふうでもなく、女性は笑顔だ。問題の無い様子にホッとして、ヒイズと女性のやり取りを見守る。
「旅をする身ですので、保存食が欲しいのです。何があるのか教えていただけますか?」
「そうだねぇ。兄香や檸檬、以知古なんかは蜂蜜漬けにしてるし。乾物は芋、無花果、菴羅なんか、手に入りやすい物だったら一通りあるねぇ」
手に入りやすいとは言え、カツミは記憶がないこともあって詳しくない。以知古や芋くらいならばわかるのだが、種類など尋ねられてもお手上げである。
「では、兄香と檸檬と、あれば金柑の蜂蜜漬けを下さい。乾物は、そうですね……。芋、無花果、棗と鳳梨が欲しいですね」
「……あ~、干した鳳梨は秋には売り切っちまってね。流石にないよ」
「そうですか。ではそれはいいです」
よくわからないが、商品の取り扱いがないらしい。
「ほーり?」
「ええ、南国の果物で、変わった形をしているのですが、中は黄色で、甘くて美味しいのですよ」
カツミの問いに、ヒイズも簡潔に説明してくれるのだが、イマイチ想像力が働かない。カツミの頭の中ではオレンジ色のグニャグニャとした物が描かれ、断面が黄色というおもしろおかしい、そして決して口にしたくない食べ物が出来上がっている。
「40石だよ」
「では。これで」
「ん。たしかに」
石……というのは、通貨である。カツミにはそれがわかったが、その価値までは分からなかった。記憶を失う前、己がどういう環境に置かれていたのかは未だ想像つかないが、とりあえず通貨の知識はあったのかもしれない。
ヒイズが懐から袋を取り出し、その中から出した、黒くて薄い石を差し出すと、加工品を売る女性はにこやかに目を細め、白くて同じく薄い石を差し出す。つり銭なのだろうが、量が多い。黒い石のほうが貨幣価値が上ということだろうが、どれほどの違いなのだろうか。
「あっ」
ヒイズは受け取ろうと手を差し出したのだが、量があったからか、三つほど落としてしまった。
「すみません」
「大丈夫かい?」
ヒイズが石を拾おうとしゃがみこむので、ココノが荷物を持とうと手を伸ばした。しかし、カツミがそれを阻み、受け取る。紙の袋で纏められてはいるが、かなり重いので、彼女では落としてしまうかもしれない。
「あと一つ……」
しゃがみこんだヒイズは二つの石を見つけたが、一つが見つからないらしく、キョロキョロと辺りを見回している。土の上に石を落としても、大きな音が鳴らなかったので、転がった先も分からなかった。カツミは荷物を持っているので、しゃがむことができないが、ココノもしゃがみこんで辺りを見回し、石を探す。
「……しょうがないですかね」
「先生、いいんですか?」
ヒイズは苦笑を浮かべて立ち上がり、手首の枷に連なる鎖が音を立てた。石は通貨のようなので、落として減ったら困ると思うのだが、ヒイズは諦めるらしい。
「ええ。この人ごみですし……。荷物も重いでしょう? 私も持つので一度馬車に置いて……」
「お兄さん、これ、落としましたよ?」
「えっ」
ヒイズは言葉を遮られ、振り向くが、そこに人の姿はない。人ごみなので完全にないというわけではないのだが、こちらを向く者がいなかった。
「下に……」
しかし、カツミはしっかり気づいていたようで、苦笑を浮かべて、助言する。そんな様子がおかしいのか、ココノも口元を押さえた。下、つまり低い位置から声がしたということで、視線を下げると、そこには黒いつややかな髪を、顎の高さで切りそろえた、可愛らしい少年がいた。
「これは失礼しました」
「ううん、大丈夫! 見つかってよかったですね」
この人ごみの中では、誰かに持って行かれたかもしれないし、既に諦めたところだった。それが見つかったのだから喜ばしいことと言えるだろう。
少年の身なりは、さほど裕福に見えないが、整えられた髪や、滲み出す空気がどこか高貴で、しっかりとした様子から、ただ者ではない人物に思えた。
「ええ。あなたは一人で……?」
「いいえ、師匠と一緒なんです!」
「師匠……? どこにいるんだ?」
元気のいい少年の発言に辺りを見回す。相変わらず人は多いが、こちらを気にかけている者はいないように思う。
「え、あれ、師匠? 師匠ー!!」
少年が声を上げると、人ごみの中で手が振られた。おそらく少年の保護者だろう。少し待っていると、人ごみを掻き分け、血相を変えた男性が現れた。もともと癖毛と思われるが、髪が乱れて、服もややよれていることから、少年の姿を必死に探していたことが伺えた。
「ナバリ!! 何も言わずにいなくなってはいけないと言ったではありませんか!?」
「ご、ごめんなさい、師匠」
男性はよほど心配していたらしく、少年の姿が目に入るやいなや、固く抱きしめた。そんな様子に反省したらしく、ナバリと呼ばれた少年は、眉を下げて素直に謝罪の言葉を発した。
「汗をかいておいでです。どうぞこれで拭ってくださいませ」
青年の様子を不憫に思ったのか、ココノが手巾を差し出した。
「ああ、これはどうも……。あなた方がこの子と一緒にいてくださったのですね。どうもありがとうございます」
男性は深々と頭を下げ、少しそのままでいてから、頭を上げた。どうやらナバリという少年のことを、本当に大事に思っているらしい。少年も、慌てて頭を下げるあたり、師匠というこの男性を慕っているのだろう。
「……クガ?」
不意に、隣に立つヒイズが声を上げた。
「えっ……あ、兄上!?」
驚いた様子の男性の顔は、柔和そうな目元と癖のある髪が、ヒイズとよく似ていた。
~・~・~・~・~・~・~・~・
兄香…セノカ、ショウガのこと。
檸檬…ネイモウ、レモンのもとの読み方。
以知古…イチコ。イチゴの古い漢字。
鳳梨…パイナップル
ベシンと、音が響いている。辺りは暗くてよく見えないが、誰かが道具で殴られているのだ。それだけはわかる。
殴るなら自分を殴ればいい。
そうすれば……。
「カツミ様は起きてますか?」
声がする。
「いえ、まだですよ」
女の声と、男の声。まだ聞き慣れたというほどではないが、それでもカツミの真っ白な記憶の中に焼き付いた、つい最近覚えたばかりの声が鼓膜を震えさせている。
「起きたと思ったのですが……」
不意に、誰かが顔をのぞき込むような気配がした。ガタガタと体中に振動が伝わり、頬が痺れている。何かの上に寝かされているらしく、毛羽だった感触は心地よいが、振動をかき消すほどではない。むしろ擦れて痛い気もする。
「カツミ様?」
肩に手が触れる感触と、振動とはまた違った、揺り動かされる感覚に意識が浮上する。せっかく心地よいまどろみの中にいたというのに、そのまどろみの淵から引き上げられている。
「きゃっ」
ゆらりと手を伸ばしたところ、細い何かに触れ、掴んだそれを引いてそのまま組み敷く。それから首に手をかけて……そこで一気に意識が覚醒した。
「……その、この場でお戯れは……」
高い位置で纏められた赤い髪が、毛羽だった絨毯に散らばっている。昨日は低い位置でまとめていた団子が解かれ、ただ一つに結わっているだけなのだが、昨日よりも少し大人っぽくて可愛らしい。子猫のように丸い目は伏せられ、頬を染めて視線を逸らしている。
「うわぁっ……たっ」
思わず飛びのき背中をぶつけた。振り向くと、木箱が置かれており、どうやらこれに背中をぶつけたらしい。見回すと、隅に木箱や樽、毛布などが置かれていた。カツミは絨毯が敷き詰められた、このあまり広くない空間に寝かされていたらしい。
「カツミ殿、人の趣味趣向に口出しするつもりはありませんが……」
「違います、ヒイズ先生!」
そばに座っていたヒイズの言葉に思わず言い返したが、彼は愉快げに笑みを浮かべるばかりである。からかわれているのだろうが、いかんせん、彼には逆らいにくい。
「ココノも……っ」
―――すまない。と言うつもりだったのだが、そこで咳込んでしまった。喉がからからに渇いている。そういえば、昨晩から飲み物を欲していたのだ。
ちなみに彼女は名を呼ばれた瞬間に、大げさなほどに肩をはねさせていた。かわいそうに。
「カツミ殿、これをゆっくり飲みなさい。喉が渇いているのでしょう」
ヒイズから差し出された筒状の容器。栓のされたその中に、水が入っているということに察しがつき、思わず奪うように手に取り、慌てて栓を外した。ゆっくりと言われたことも忘れ、慌てて喉に流すとじんわりとしみて痛い。
「っ」
「ゆっくりと言ったでしょう? 慌てずとも、水は逃げません」
ヒイズの、まるで保護者のような物言いに、すこし照れくさい気持ちになり、落ち着いてゆっくり水を飲んだ。喉に浸透させるように、一度口に含んで、ゆっくり、少量ずつ流し込み、それから、筒に口をつけて直接飲む。
「落ち着きましたか?」
「……ハイ」
少しバツの悪い思いで返事をすると、ヒイズは笑みを浮かべた。人の良さそうな顔だが、笑われた身としては微妙である。
「ヒイズ先生、ここは……?」
「馬車の中ですよ」
ヒイズはあぐらをかいて座り、カツミにも座るように促した。ココノも姿勢を正し、そばに座っている。
馬車の中。どうりでガタガタと振動が伝わるわけである。少々顔がはれぼったいのは、うつぶせに寝ていたので、むくんでいるのだろう。
「ん……?」
カツミは己の記憶をたどった。アガタと手合わせをして、そのあとの記憶がないということは眠ってしまったのだろう。狭い空間で、窓もないので、時間がわからない。
「アガタ殿と手合わせをして眠ってしまわれたのですよ。アガタ殿の提案でそのまま馬車にお連れしました」
「アガタの……」
やはり間違いはなかったようだが、少し苛立った。既に一人で出て行く気は失せていたのだが、それほど信用がなかったらしい。
「せっかくなので、水晃にお連れしようと考えたのですよ」
「水晃……」
カツミは昨日見た地図を思い出す。いくつか国名が記されており、ヒイズはその地図に書き込みながら、教えてくれた。
「いきなり敵の本拠地に乗り込むんですか?」
まだ真新しい記憶だが、水晃は首都・陽妻の東にある港町で、敵の本拠地のすぐ近くだったはずだ。そちらに向かっているということは、船を出すのだろう。そう当りをつけて尋ねてみる。しかし予想に反して、ヒイズは首を横に振った。
「いえ。アガタ殿と話し合った結果、一度、この国の生命線である藏閒と水晃を見ていただこうということになったのです」
アガタ、と聞いて、思わず眉を寄せる。手合わせも結局敗北に終わったものだから、悔しい念が強く、今この場にいないので勝ち逃げをされている気分だ。
「そのアガタは?」
「アガタさんはお外で、御者を勤めてくださってますよ」
これにはココノが答えた。たしかに、冷静に考えれば、馬車なのだから馬を扱う人間がいなければならないだろう。
「カツミ様?」
カツミは無言で立ち上がり、ガタガタと揺れる車内を歩いた。振動で足元がおぼつかない気もするが、歩けないほどではない。
「……」
ザッと音を当て、馬車の帷を開いた。すると冷たい外気が顔に掛かり、背筋がゾワリと震える。これほど寒いというのに、冷気はまるで中に入ってこない。それが不思議で、帷をまじまじと見つめると、なにやら不思議な模様が、柱に刻まれていた。
もしかしたら……。
「術が不思議か?」
「……べつに」
すぐそばの御者台に腰掛けたアガタの言葉に、カツミはぶっきらぼうに返事した。するとアガタは愉快気にクツクツと笑みを漏らす。やはり術だったらしいのだが、どうも素直に認めるのは癪だ。
「外は寒かろう。特に用がないのなら、中に入っていろ。もうそろそろ藏閒につくから、さすれば声をかけてやる」
その言葉を受けたカツミは、御者台のアガタの隣にドカリと音を立てて、腰掛けた。
―――ブルル!
「っ」
「バカ! 馬を驚かすな!」
カツミが腰をかけた瞬間に、馬車を引いている馬のうちの一頭が頭を強く振って立ち止まり、ほかの馬も歩みをやめた。
「わ、悪い……。四頭もいるのか?」
カツミはさすがに悪いと思って素直に謝ったが、少々居心地悪く感じたので、すぐに別のことを話題にした。思いがけず口にしてから、改めて馬を見ると、馬車を引く馬が四頭もいる。
「ああ。荷物が多いし、馬車自体も大きい物だからな。それに、いざという時に人数分の馬を用意すれば、馬車を捨てることも可能だ」
言われてみれば確かにそうである。しかしココノのような 体の小さい少女は馬を扱えるのだろうか。
「ハッ! 一応軍馬として訓練した馬だから音にも武器にも血にも強いが、賢い生き物だ。荷を運んでいる自覚があるから、足並みが揃わないとすぐに停止する」
アガタが手綱を引いて音を立てると四頭は一斉に歩き出す。どう調教したのかは疑問だが、賢い生き物というのも間違いではないらしい。
「寒くはないか?」
「べつに……クシッ」
寒くはないかと言われ、思わずそう答えたが、くしゃみが出てしまう。まったくもって格好がつかない。
「ふっ。随分と寒さに弱いのだな」
アガタは自分の膝にかけていた毛布をカツミに押し付けて、前を見る。特に話題があるわけでもないので、無言で馬を眺めた。見分けがつくようにという配慮なのか、馬の毛色は四頭とも違う色だ。
馬は四頭が二列に並んでおり、先行する左側には、鬣や尾が黒に近い色で、茶に近い体毛を持つ鹿毛の馬が歩いている。その右には全身が真っ黒の青毛の馬。
その二頭の後ろ、御者台のそばには、やや白に近い黄白色の体毛を持つ月毛の馬が左を、鹿毛よりも薄い色の体毛にさらに色素の薄い鬣や尾を持つ、尾花栗毛の馬が右を歩いている。
この四頭が馬車を引いているのである。
「馬が珍しいか……と、記憶がないのだったな。かわいいだろう」
少々獣特有の匂いがするが、悪臭というほどではない。可愛いかどうかはよくわからないのだが、ひとまず人の敵ではないという意味ならば可愛いのかもしれない。
「可愛いかは知らんが、すごい力だ」
「そういう生き物なのだ。ちなみに、この馬は私の馬だからな、やらんぞ」
アガタは顎をしゃくり、すぐそばの尾花栗毛の馬を示した。武人というだけのことがあるのか、馬にもこだわりがあるらしい。
「……あれがそうか?」
ふいに、遠くに建物が見えてきたので、話題を変える。自分で馬の話題をした手前、すぐに別の話題を出すことが気になったが、アガタは気にしていないようだ。
「ああ。あれが藏閒だ」
まだ時間はかかるのだろうが、小さな建物がこじんまりと集まっている。集落ということからかなり小規模なものを想像していたのだが、それに違いはないらしい。
不意に、カツミは空を見上げた。
広い。壁に囲まれず、窓から見た小さなものでもなく、今確かに、彼はこの広い空の下にいる。宮を出たのだと、今更のように実感する。
頬にぶつかる冷たい空気に、吐く息は白い色をもつが、それでも、胸いっぱいにその空気を吸い込み……そして。
切ない思いに駆られた。
空を見上げ、野を見渡し、その広さに言いようのない不安を覚える。
「どうした?」
「なんでもない」
尋ねられると、そう返す他なかった。自分でも分からぬ不安を、人に打ち明けるつもりにはなれない。ただ、その胸を締め付ける、あるいは胸の内に渦巻く何かを忘れまいと思った。
きっと、自分の中の、真っ白に染め上げられた記憶に関係しているのだと、そう考えて……。
「気をつけて降りるのだぞ」
アガタはそう言って、ココノに手を貸した。
“藏閒”という地図に乗らない集落にたどり着いた一行は、建物の裏手で馬車を停めた。芝生の草は短く刈り取られ、広い一帯には多くの馬車が停車されている。おそらく馬車を停めるために作られた場所なのだろうが、脇の方に水場があるので、人や馬が休憩する場所でもあるらしい。実際に何人かの御者が、馬に水を飲ませている。
「馬車が多いのですね……」
馬車から降りたココノが、キョロキョロと辺りを見回している。記憶のないカツミにとっても、宮以外の景色というのは見たことない物なので興味津々なのだが、このように、好奇心旺盛さを前面に出している、子猫のような姿を目にすると、自分は自重しなくてはと、妙に緊張してしまう。
「虹澑國の食品庫ですからね。商売人が集えば自然と人も集まるものです。遠方から来た者は皆このあたりに、馬車を停車しているのです」
ヒイズの説明に感心したカツミは、建物の裏手に停められている、他の馬車に目を向けた。停められている馬車には、紋章が描かれている物もあり、身分の高い家の者も、ここを訪れているのであろうことが伺えた。商売人が集まるというからには、珍しい物もたくさんあるのだろう。
「気をつけてな」
ココノが無事に馬車を降りると、アガタは再び御者台に座った。てっきり全員で藏閒を見るものだと思ったのだが……。
「アガタは行かないのか?」
「ああ。馬車も馬も放置するわけにはいかんだろう?」
言われてみれば、確かに、他人の馬車など気にかける者などいない。馬や積荷を盗まれれば厄介だし、場合によっては馬車ごと奪われてしまうかもしれない。そんな事態は御免なので、一人残る必要があるのだろう。
「それならば、ココノが残りますよ? 見張りなど、ココノの役目ではないでしょうか?」
たしかココノは、世話役として付いてきたのではなかっただろうか。停車場は御者以外ほとんど人がいないので静かなものだが、それでも往来の賑わいは、ぼんやりと伝わって来る。賑わいや店を楽しむことを前提とするならば、奴隷であるココノ自身が残るべきと考えての発言だろう。
「いや、今後旅をするならば市井を覚えることも必要だろう。私は買い物などより馬の方が好きなので、ココノ殿はヒイズ殿の手伝いをしてくれ」
「はい。かしこまりました」
ココノは丁寧に頭を下げ、それから嬉しそうに顔を上げた。彼女のか弱い印象から、子猫のようだと思ったのだが、市を楽しみにしている姿が、じゃれつく子犬のようでもある。小動物的で素直な人間性なのだろう。
「市井に覚えるようなことがあるのか?」
不意にアガタの発言が気になったので、尋ねてみる。記憶はないが集落がどのような場所なのか、知識くらいならある。その上で考えると、集落を市井と言っていいのかも疑問である。しかし賑やかな気配が伝わって来る事を考えれば、確かに何かしらあるのかもしれない。
「藏閒は外部の者も多く訪れていて、集落とは言うが非常に活気があるからな。ココノ殿は宮の外に出たことは少ない。迷子にならぬように楽しんでくるといい」
「なるほどな」
どうり楽しそうにしていると思ったら、そういう事情だったらしい。しかし世話役として旅に出るというのに、世慣れていないココノを遣わされたということが気になる。
水晃に行くとしても、旅をするならば、もう一度陽妻に戻る必要があるだろう。陽妻の城壁は国の東側を囲むようにして作られているので、陸路ならば陽妻を避けることはできない。せっかく賑やかな地にたどり着いたというのに、すっかり気分が沈んでしまう。
「さて、それではカツミ殿、参りましょうか。アガタ殿、頼みました」
「ああ」
ヒイズに促され、三人で歩き出す。控えめに歩くココノだが、ときおりそわそわと肩が揺れている様子が少々おかしい。そんなに楽しみになる物ならば、自分も少しは興味を持っていいのかもしれない。
「……すごい人だな」
建物の間の細い通路を抜け、カツミが最初に漏らした言葉だった。行商の天幕が張られているので、気付かなかったのだが予想以上の人ごみである。人を呼ぶような声も聞こえるが、この人ごみにはぐれてしまったのかもしれない。行商人が客を呼び込む声が飛び交い、木箱には新鮮な果物や穀物が積まれ、加工品も扱っているようである。
流石に行商人が集まるだけあって、国の食品庫とは言っても、食品以外を取り扱う者もいるらしく、時折光り物が視界に映る。
「ここへ来ればそれなりの物は手に入りますからね。凝った物はやはり名産地へ足を運ぶ必要がありますが……」
硬い土を踏みしめ、辺りを見回しながらヒイズの説明に耳を傾ける。彼は藏閒と水晃を見せたいと言っていた。おそらく水晃に行くまでに、馬を休ませる必要があるのだろうが、その間に物見遊山で藏閒を見るというのも悪くない話だ。
「あれはなんでございますか? 不思議な香りがします」
不意に、清涼感のある香りが鼻を掠め、ココノの指差す方へと振り向いた。彼女が指し示した場所にはやはり天幕があり、がたいのいい男が、楕円の出来損ないのような形の、黄色い果実を輪切りにしているところだった。ナイフが果実を切り裂くたびに果汁が漏れて、台を濡らしている。
「あれは檸檬ですね。大変酸味が強いのですが、糖蜜などに漬け込むととても美味なのですよ。武士団の方が好んで食べているようです」
ココノと同様に、カツミも興味が惹かれたので思わず凝視する。すると視線に気がついたのか、果実を刻んでいた男から声がかかった。
「なんだい、兄ちゃん達。入り用かい?」
機嫌良さげなその声に、嫌味がかった口調も圧力めいた部分もなく、買うことを望んでいるというよりも、本当にただ質問をしているだけのように思われた。果物売りの男は、荷運びでもしていたのか、うっすらと汗をかき、襯衣の袖をまくっていた。
流石にここまで凝視しておきながら断っていいのだろうか。そもそも市というからには代金が必要なはずだ。カツミは金銭を持っていないし、奴隷であるココノも同様だろう。どうしたものかわからず、ヒイズに視線を向けると、彼は穏やかに微笑んだ。
「そうですね。できれば日持ちする加工品が欲しいのですが、蜂蜜漬けや、乾物の類を頂きたいですね。ああ、漬物もよいでしょう」
「乾物かい? それならもうちょっと奥だ。うちのカミさんが店番してる天幕なら、この木簡を持ってきゃちったぁ負けてやれる。果物の加工品ばっかだが、まぁ、いいだろう?」
「これはご親切に。それではそちらにいきましょう」
木簡を受け取るヒイズが丁寧に頭を下げるので、ココノもそれに習い深々と頭を下げ、カツミも会釈した。木簡は少し古いが、屋号のような記号の焼印が押されている。
三人は、果物売りの男に言われたとおり、集落の奥へ向かおうと振り向く。
「ああ、待ってくんな」
しかし、呼び止められたので、もう一度天幕の方へと振り返った。すると男はなにやら瓶を取り出し、蓋を開けた。
「これは俺の軽食で、カミさんが漬けた檸檬の蜂蜜漬けだ。身なりのしっかりした兄ちゃんにこんだけ丁寧にされちゃあな、こっちもこのまま行かせるわけにゃ行かねぇ。ひと切れずつ持ってきな」
「本当に親切ですね。それではお言葉に甘えさせていただきましょう」
ヒイズは瓶から輪切りにされた檸檬をひと切れ取り出し、それを口に運んだ。ココノもカツミも瓶に手を伸ばし、輪切りにされた檸檬をつまむ。先ほど男がナイフを入れていた物に比べ、少し色が濃くなっているが、しっかり漬かった証拠だろう。
三人はもう一度頭を下げ、それから人ごみの中ではぐれないように気を配りながら進んだ。
「ん。んまいな……」
檸檬を口に運んだカツミはそう漏らした。檸檬をかじった状態で口をほぼ動かさずに発した言葉だったが、短い言葉の意味は通じたらしく、ヒイズは口元を緩め、ココノもつまんだままの檸檬を見つめている。
「蜂蜜……甘い物……はむ……ん! ん~……!」
なにやらブツブツつぶやきながら、恐る恐るとそれを口に運び、そして口に入れたココノは何とも言えない音を発した。両手で口元を覆い、丸い目をさらに丸めて輝かせ、何度も頷いて頬を染めている。どうやらよほど気に入ったらしい。
「ココノはこんなに美味しい物を食べたのは初めてです! 甘い物とはこれほど美味しいのですね!」
しばらく咀嚼して、じっくりと味わう彼女だったが、その甘酸っぱい味を堪能し尽くしたと言わんばかりに、満足げに飲み込むと、興奮した様子で言葉を紡ぐ。確かにうまい物だが、それほどの物だろうかと、カツミは首をかしげた。
「たしかに、口にする機会はなかなかありませんね。旅の間、堪能するとよいでしょう」
「ココノのような者が食べても良いのですか? こんなに美味しい物をまた食べてしまって、罰が当たったりしませんでしょうか? もし食べれるのでしたら、ココノは幸せ者でございます!」
微笑むヒイズと、頬を染めて嬉しそうに困った顔を浮かべるココノの様子に、カツミはなんだか無性に癒されてしまった。空を見上げた時の、言いようのない不安が拭われていくのを感じる。世話役としてココノを選んだことだけは、ヤカタに感謝してもいいかも知れない。カツミはまるで何かをごまかすように、口の中の檸檬を飲み込んだ。
「大げさだな……」
「そうでもないですよ。本来甘味の類はとても高価な物です。蜂蜜漬けも例外ではないのですが……このように気軽に振舞うということは、もしかしたら、蜜教がいるのかもしれないですね」
「ミツオシエ……?」
「ええ。蜜蜂の巣を教えてくれる鳥です。人や熊に巣の在処を教えて、巣を壊してもらい、食べ残しの蜜や蜜蝋を餌にしているそうですよ」
そんな鳥がいるのかと驚き、それから鳥が人を誘導するさまを思い浮かべてみるが、いまいちピンと来ない。しかしおこぼれを期待する様を想像すると、まるで愛玩動物のようにも思え、どこかいじらしい。
「食べ残しが出るとは限らないでしょう」
「蜜教の分を残しておかないと、今度は猛獣のいる場所に案内されるそうです」
訂正。ほかの生き物に巣を破壊させて甘い汁を吸う姑息な生き物である。
「随分と頭が良いのですね……」
「鳥とは頭がいい者も多いのですよ。それに小さな鳥であれば生き残る知恵が必要ということなのでしょう」
弱肉強食の世界ということらしい。自然界は甘くない。それは小さな虫に至るまで言えることであり、そして今、世界中で“未蕾”という獣が暴れて、人という弱者を脅かしているらしい。
「兄さん魚はいらないかい?」
「山から汲んできたうまい水があるよ!」
「野菜ならうちが一番だ! どうだい?」
人々を呼び止めんとする商人の声は活き活きとしており、それはこの集落に活気を与えているようだった。そんな声に人々は惹かれ、対話して、笑いが生まれている。
これほどに平和な光景だというのに、召喚された。先ほど拭いさった不安が再び足元を蝕む。なぜ、己がここにいるのか。旅に出ることを強いられているのか。この光景に答えなど見つけることは出来なかった。
「あの店でしょうか」
「ん? ……っ」
思考に耽っていたところでヒイズの声が聞こえ、顔を上げる。すると人にぶつかってしまった。人ごみの中俯いて歩くのは、危険だろうと考えて前を見る。
ヒイズが指さす先には木簡と同じ記号の記された布が下げられている。おそらくその店で間違いないだろう。しかし夫婦で売ってる物が違うということもだが、離れた場所で店を出しているのはなぜだろうか。
「ごめんください」
「はい、いらっしゃい! ……旦那の紹介かい?」
恰幅がいいというほどではないのだが、ふくよかな女性が一人立っていた。ニコリと笑みを浮かべた気立ての良さそうな女性は、ヒイズが手に持つ木簡を見つめ、果物屋の主人と会ったことに気がついたらしい。
しかし、一瞬眉を寄せたことが気になった。
「ええ。これを渡すよう言われました」
―――ジャラ。
そこでヒイズが木簡を差し出した瞬間に、その音で合点がいく。彼の付けている枷が気になったのだろう。常識的に考えて、枷をつけている人間になど関わりたくはないはずだ。しかし果物売りの男は“身なりのいい”と言っていた。それゆえ口出ししないのかもしれない。
「ああ、ありがとうございますね。何が欲しいんだい?」
特に変わったふうでもなく、女性は笑顔だ。問題の無い様子にホッとして、ヒイズと女性のやり取りを見守る。
「旅をする身ですので、保存食が欲しいのです。何があるのか教えていただけますか?」
「そうだねぇ。兄香や檸檬、以知古なんかは蜂蜜漬けにしてるし。乾物は芋、無花果、菴羅なんか、手に入りやすい物だったら一通りあるねぇ」
手に入りやすいとは言え、カツミは記憶がないこともあって詳しくない。以知古や芋くらいならばわかるのだが、種類など尋ねられてもお手上げである。
「では、兄香と檸檬と、あれば金柑の蜂蜜漬けを下さい。乾物は、そうですね……。芋、無花果、棗と鳳梨が欲しいですね」
「……あ~、干した鳳梨は秋には売り切っちまってね。流石にないよ」
「そうですか。ではそれはいいです」
よくわからないが、商品の取り扱いがないらしい。
「ほーり?」
「ええ、南国の果物で、変わった形をしているのですが、中は黄色で、甘くて美味しいのですよ」
カツミの問いに、ヒイズも簡潔に説明してくれるのだが、イマイチ想像力が働かない。カツミの頭の中ではオレンジ色のグニャグニャとした物が描かれ、断面が黄色というおもしろおかしい、そして決して口にしたくない食べ物が出来上がっている。
「40石だよ」
「では。これで」
「ん。たしかに」
石……というのは、通貨である。カツミにはそれがわかったが、その価値までは分からなかった。記憶を失う前、己がどういう環境に置かれていたのかは未だ想像つかないが、とりあえず通貨の知識はあったのかもしれない。
ヒイズが懐から袋を取り出し、その中から出した、黒くて薄い石を差し出すと、加工品を売る女性はにこやかに目を細め、白くて同じく薄い石を差し出す。つり銭なのだろうが、量が多い。黒い石のほうが貨幣価値が上ということだろうが、どれほどの違いなのだろうか。
「あっ」
ヒイズは受け取ろうと手を差し出したのだが、量があったからか、三つほど落としてしまった。
「すみません」
「大丈夫かい?」
ヒイズが石を拾おうとしゃがみこむので、ココノが荷物を持とうと手を伸ばした。しかし、カツミがそれを阻み、受け取る。紙の袋で纏められてはいるが、かなり重いので、彼女では落としてしまうかもしれない。
「あと一つ……」
しゃがみこんだヒイズは二つの石を見つけたが、一つが見つからないらしく、キョロキョロと辺りを見回している。土の上に石を落としても、大きな音が鳴らなかったので、転がった先も分からなかった。カツミは荷物を持っているので、しゃがむことができないが、ココノもしゃがみこんで辺りを見回し、石を探す。
「……しょうがないですかね」
「先生、いいんですか?」
ヒイズは苦笑を浮かべて立ち上がり、手首の枷に連なる鎖が音を立てた。石は通貨のようなので、落として減ったら困ると思うのだが、ヒイズは諦めるらしい。
「ええ。この人ごみですし……。荷物も重いでしょう? 私も持つので一度馬車に置いて……」
「お兄さん、これ、落としましたよ?」
「えっ」
ヒイズは言葉を遮られ、振り向くが、そこに人の姿はない。人ごみなので完全にないというわけではないのだが、こちらを向く者がいなかった。
「下に……」
しかし、カツミはしっかり気づいていたようで、苦笑を浮かべて、助言する。そんな様子がおかしいのか、ココノも口元を押さえた。下、つまり低い位置から声がしたということで、視線を下げると、そこには黒いつややかな髪を、顎の高さで切りそろえた、可愛らしい少年がいた。
「これは失礼しました」
「ううん、大丈夫! 見つかってよかったですね」
この人ごみの中では、誰かに持って行かれたかもしれないし、既に諦めたところだった。それが見つかったのだから喜ばしいことと言えるだろう。
少年の身なりは、さほど裕福に見えないが、整えられた髪や、滲み出す空気がどこか高貴で、しっかりとした様子から、ただ者ではない人物に思えた。
「ええ。あなたは一人で……?」
「いいえ、師匠と一緒なんです!」
「師匠……? どこにいるんだ?」
元気のいい少年の発言に辺りを見回す。相変わらず人は多いが、こちらを気にかけている者はいないように思う。
「え、あれ、師匠? 師匠ー!!」
少年が声を上げると、人ごみの中で手が振られた。おそらく少年の保護者だろう。少し待っていると、人ごみを掻き分け、血相を変えた男性が現れた。もともと癖毛と思われるが、髪が乱れて、服もややよれていることから、少年の姿を必死に探していたことが伺えた。
「ナバリ!! 何も言わずにいなくなってはいけないと言ったではありませんか!?」
「ご、ごめんなさい、師匠」
男性はよほど心配していたらしく、少年の姿が目に入るやいなや、固く抱きしめた。そんな様子に反省したらしく、ナバリと呼ばれた少年は、眉を下げて素直に謝罪の言葉を発した。
「汗をかいておいでです。どうぞこれで拭ってくださいませ」
青年の様子を不憫に思ったのか、ココノが手巾を差し出した。
「ああ、これはどうも……。あなた方がこの子と一緒にいてくださったのですね。どうもありがとうございます」
男性は深々と頭を下げ、少しそのままでいてから、頭を上げた。どうやらナバリという少年のことを、本当に大事に思っているらしい。少年も、慌てて頭を下げるあたり、師匠というこの男性を慕っているのだろう。
「……クガ?」
不意に、隣に立つヒイズが声を上げた。
「えっ……あ、兄上!?」
驚いた様子の男性の顔は、柔和そうな目元と癖のある髪が、ヒイズとよく似ていた。
~・~・~・~・~・~・~・~・
兄香…セノカ、ショウガのこと。
檸檬…ネイモウ、レモンのもとの読み方。
以知古…イチコ。イチゴの古い漢字。
鳳梨…パイナップル
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