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第62話 電話

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「わんわんっ」
「じゃあまたねゴジラ君。ポチのことはわたしに任せて旅行楽しんできてね」
そう言うと高木さんはポチを連れて自転車を転がして帰っていった。

「ああ、ありがとう」

つまり俺は高木さんに一日五千円の手間賃でポチを預けることにしたわけだ。

予想もしていなかった展開だが期せずして高木さんと会話が出来て、その上連絡先の交換まで出来たので俺としては万々歳だった。
ポチもおとなしく高木さんについていったし多分問題ないだろう。

俺はスマホに目を落とした。
液晶画面には高木こずえの文字とその下には電話番号が出ている。

「ふふっ……」
ミシミシッ。おっと危ない、嬉しさのあまり力の加減を忘れてスマホを握りつぶすところだった。


警察官がその場にいたら不審者として間違いなく職務質問されるであろうくらい顔をニヤニヤさせながらスマホの画面をみつめていると――

ピリリリリ……。

スマホの着信音が鳴り響いた。

高木さんからかなと胸を躍らせたが液晶画面には[松井初子]の文字。
一瞬にして現実に引き戻される。

「げっ……初子姉ちゃんだ」


俺は咳ばらいを一つしてからスマホを耳に当てた。

「も、もしもし……」
『秀喜あんた今どこにいるのよ』
威圧感のある声がスマホを通して聞こえてくる。

「え、外だけど……」
『そんなのわかるわよ、今あんたんとこに来てるんだから。どこにいるのかって聞いてんの』
「え? 初子姉ちゃんうちに来てるの?」
『今そう言ったでしょ』

なぜ俺の姉は二人とも連絡なしで俺の家にやってくるのだろう。

「えっと、予備の鍵が玄関の鉢植えの下にあるから――」
『あんた不用心ねー、空き巣に入られるわよ』
「……あるから勝手に入ってていいよ」
『そりゃ勝手に入るわよ、ここはあたしのうちでもあるんだからね。それよりあんた早く帰ってきなさいよ』
それだけ言うと一方的に電話が切れた。

「まいったな……初子姉ちゃんが来てるのか……」

松井初子は一番上の姉で三十六歳。俺とは十、年が離れている。
早紀姉ちゃんとは違いバリバリのキャリアウーマンなのでニートの俺をこころよく思ってはいない。
前の旦那との間に生まれた娘を女手一つで育てていて俺とは真逆の人生を歩んでいるようなバイタリティあふれる人だ。

帰るのよそうかな……。
割と本気でそう思ったが初子姉ちゃんがわざわざ家に来るというのは珍しい。
きっと何か俺に話があるに違いない。
だとすれば俺が戻るまで帰らないだろう。

俺は覚悟を決め自宅へと足を向けた。
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